車の最新技術
更新日:2021.05.10 / 掲載日:2021.05.07
自動運転のトップランナーを一気乗りテスト!【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第5回】

文●石井昌道 写真●トヨタ、ホンダ、日産、スバル、ユニットコンパス
以前に当コラムでお伝えしたSIP 第2期 自動運転 中間成果発表会(3月25日・26日)に続いて、4月20日・21日には東京臨海部副都心(お台場地域等)でSIP 第2期 自動運転のメディア向け合同試乗会が開催された。
これは、中間成果発表会と同時開催される予定だったが、緊急事態宣言を受けて延期されたもの。さらにさかのぼれば、本来は2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックの直前に、日本自動車工業会と合同で一般の方向けに数千人規模で行うつもりだったが、コロナ禍の影響で大幅な延期を余儀なくされたのだ。世界から注目されるタイミングで華々しく日本の自動運転の進捗状況をアピールできるはずだったのが叶わなかったのは残念なものの、悪いことばかりではない。延期された期間に、スバル・レヴォーグやホンダ・レジェンド、トヨタMIRAI/レクサスLSといったモデルが発売され、合同試乗会に姿を現すことができたからだ。
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自動運転の実証実験が行われるお台場エリアで試乗会を実施

日本における「自動運転開発の聖地」である東京お台場に用意された試乗会場
用意された試乗車はスバル・レヴォーグ、トヨタMIRAI/レクサスLS、日産スカイライン、ホンダ・レジェンドといった市販車と、ヴァレオ(DRIVE4U レベル4相当)、金沢大学(Lexus Rx450hL改 市街地におけるレベル4相当)、コンチネタル(レベル4を目指した乗用車タイプとEasyMile改の2台)、ティアフォー(JPN Taxi改)の8社10車種で、SIP自動運転の何かしらの成果が搭載された市販車か東京臨海部実証実験に参加している実験車両となる。ちなみに実証実験に参加しているのは国内外の29団体で、今回の参加車両は有志として名乗りをあげた。
自動運転技術を高度化させていくには、自車位置を正確に推測するための高精度3次元地図データの搭載(SIPが開発したダイナミックマップ等)、周囲の状況をより詳細に把握するLiDARと呼ばれる高度なセンサが必要となってくる。
以前にも示したとおり、スカイライン(プロパイロット2.0が標準装備となる2019年7月以降のハイブリッド)は、ダイナミックマップ採用/LiDAR非採用、レヴォーグ(2020年10月発売のアイサイトX搭載車)は、ダイナミックマップではないものの高精度3次元地図データ採用/ LiDAR非採用、MIRAIおよびLS(2021年4月発売のAdvanced Drive搭載車)は、ダイナミックマップ採用/LiDARをフロント中央に一つ採用、レジェンド(2021年3月発売のHonda SENSING Elite搭載車)はダイナミックマップ採用/LiDARをフロント2つ、リア3つ採用となっている。
スカイラインが採用しているダイナミックマップのイメージ画像
実験車両のフロント部分に搭載されているLiDAR。対象物までの距離やその形状などを正確に計測する
スカイラインは独自技術のDASが自動運転にも好影響

スカイラインは、2019年に「プロパイロット2.0」の名称で高速道路におけるハンズ・オフ運転を実現した
スカイラインは約2年も前の段階で、ダイナミックマップを採用。さらに、DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)との相性がすこぶるいい。
DASは2012年にスカイラインが採用した世界初のステアバイワイヤで、通常時はステアリングホイールとステアリングギアが機械的に繋がっておらず、電気信号でパワーステアリングのモーターを動かす(故障に備えて、従来のステアリングシャフトも付いている)。魅力は荒れた路面でも、ステアリングへの不快なキックバックがないこと、外乱による進路の乱れをスマートに整えること、シャープで滑らかなハンドリングを実現できることなどがあるが、ハンズオフやハンズオンでのステアリング支援時のフィーリングもいい。一般的なパワーステアリングでは、勝手にピクピクと動いているのが何だか気持ち悪く思えることもあるが、DASでは余計な動きがなくて快適なのだ。
586万800円からと、比較的にリーズナブルな価格でプロパイロット2.0搭載車が提供されていることもユーザーにとって嬉しいところだろう。
レヴォーグは手頃な価格により先進運転支援を普及させている

スバル レヴォーグは348万7000円からという価格ながら高度な先進運転支援技術を提供している
アイサイトは、もともとステレオカメラだけで高度な先進運転支援を実現することでコストパフォーマンスの高さが魅力。アイサイトXでは、カメラを従来の2倍近く広角化し、フロント左右にミリ波レーダーを追加、高精度3次元地図データに加え、GPSやみちびき(準天頂衛星)を利用した高精度なGPS情報を合わせて、一層高度な運転支援ができるようになった。
アイサイトX搭載車はベースの38万5000円高であり、これを含めた車両価格も348万7000円からと手が届きやすい。発売以来、4000台/月程度は売れる人気車種であり、しかもアイサイトXの装着率は90%以上。高度な先進運転支援をもっとも広く普及させている立役者と言えるだろう。
LSとMIRAIは、レベル2ながらレベル3に近い高機能を搭載

自動運転技術「Advanced Drive」を搭載したレクサスの新型LS
LiDARを搭載しているということでスカイラインやレヴォーグよりも高機能となるMIRAIとLSのAdvanced Driveだが、それでも価格は約55万円高に抑えられているので普及への意欲も見せていると言える。車両価格はMIRAIが845万円から、LSが1632万円から。もとが高級車なので、それなりに高価ではあるが、今後は身近なモデルでもAdvanced Driveが選択できるようにしていくとのことなので、期待したい。
レジェンドは唯一の「自動運転レベル3」市販モデル

自動運転レベル3というチャレンジと安全性の確保を同時に実現したホンダ レジェンド
LiDARを5つも搭載し、車両価格はベースから375万1000円高の1100万円にも達するレジェンドのHonda SENSING Elite搭載車。リース販売で100台のみという限定的な販売となるが、これは世界で初めて自動運転レベル3を上市するにあたって、慎重を期したからだ。安全とチャレンジを同時に実現するホンダらしい試みであり、短期的には利益にはまったく繋がらないが、自動運転の進化全体に貢献しているとも言えるだろう。
今回の合同試乗会では、横並びで試乗できることで、その違いがわかりやすかった。
いずれにせよ、この4社5車種は、日本における自動運転技術のトップであり、世界にも誇れるモデル達なのだ。
執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。次回のテーマは「自動運転レベル4を体験する」です。どうぞお楽しみに!