車の最新技術
更新日:2026.10.16 / 掲載日:2026.10.16

グローバル物流再編の時代【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

 10月13日から幕張メッセを会場に開催されている「ジャパンモビリティショービズウィーク2026」。一般ユーザーを対象にするJMSとはテーマが異なり、自動車・モビリティ産業に従事する企業や組織、大学・研究機関がシナジーを生み出す場という位置付け。そのなかでも注目度の高い自工会会員企業による合同展示の内容とその背景を、自動車ジャーナリストの池田直渡氏がレポートします。

文●池田直渡 写真●池田直渡

 10月13日に開幕したジャパンモビリティショー・ビズウィーク。日本自動車工業会(自工会)の共同ブースで、ひときわ目を引いた展示があった。「メーカーの垣根を越えて、運ぶ。」と書かれた共同物流の展示である。そこにはトヨタ、日産、ホンダをはじめ、いすゞ、日野、三菱ふそう、UDトラックスまで、日本の主要自動車メーカーのロゴがずらりと並んでいた。

 いったい何をやろうとしているのか。自工会の佐藤恒治会長が挙げた例がわかりやすい。例えば名古屋港へトヨタ車を5台積んで運んできたキャリアカーがある。港でクルマを降ろせば、帰りは空荷になる。ところが港の対岸には三菱自動車のヤードがあって、そちらはクルマの荷受けを行っている。ならば帰りのキャリアカーに三菱のクルマを積んで運べばいい。

 言われてみれば当たり前の話だが、これまでの物流はメーカーごとに独立していたため、従来の物流がこうした無駄が放置されてきた。個々の企業にとって合理的な仕組みだが、社会全体で見れば非合理的だ。ではなぜ今になって、自動車メーカーが揃って物流改革に乗り出したのか。これは、こうした集配だけでなく、車両の研究開発やロジスティックシステムに至るまで世界的にサステナビリティを失いつつあるせいだ。その結果商用車メーカーが大再編時代を迎えている。まずはそこから見てみよう。

物流を支える大型トラックは激動するビジネス環境に対応するべく大規模な業界再編が起きている

 2026年4月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合し、新たな持株会社アーチオン(ARCHION)が始動した。日野はトヨタ系、三菱ふそうはダイムラートラック系であり、日独の巨大メーカーがそれぞれの商用車事業を持ち寄る統合となった。一方、いすゞ自動車は2021年にUDトラックスを買収している。こちらは旧UDの親会社だったスウェーデンのボルボ・グループとの技術提携を継続している。つまり日本の大手商用車メーカー4社は、いつの間にか、ダイムラーと提携する日野・三菱ふそうと、ボルボと提携するいすゞ・UDという2系列に集約されたわけだ。ちなみに商用車の世界トップがダイムラー、第二位がボルボ・グループである。

 さらに世界へ目を向ければ、フォルクスワーゲン系のトレイトン(TRATON)は、マン(MAN)、スカニア(Scania)に加えて米国のナビスター(Navistar、現インターナショナル)を2021年に買収。ダイムラートラックはメルセデス・ベンツ・トラック(Mercedes-Benz Trucks)やフレイトライナー(Freightliner)などを、ボルボ・グループはボルボ・トラック(Volvo Trucks)、ルノー・トラック(Renault Trucks)、マック・トラック(Mack Trucks)などを傘下に持つ。米国パッカー(PACCAR)もケンワース(Kenworth)、ピータービルト(Peterbilt)に加えて欧州のダフ(DAF)を保有している。こうして並べてみると、個別に報じられていた企業の統合や買収が、実は世界規模の商用車産業再編という一つの大きな動きであることがわかる。

 では、なぜ世界中で商用車メーカーの再編が進んでいるのか。最大の理由は開発コストの増大である。CO2削減、排出ガス規制、ADASをはじめとする安全技術、電動化、ソフトウェア開発など、現代の商用車メーカーには莫大な研究開発投資が求められる。

 ところが商用車は乗用車に比べて販売台数が少ない。開発費を回収するには規模の拡大が必要になる。しかも商用車はプロが仕事に使う道具である。スポーツカーのように乗り味の個性を楽しむ商品ではない(スカニアの様な例外はあるが)。必要なのは燃費、耐久性、信頼性、運行コストなどの絶対的な性能だ。であれば、複数のブランドが同じエンジンや安全装置を使っても、商品価値を損なうことは少ない。共同開発で投資負担を減らし、生産台数を増やすことで原価も下げられる。

 一方で、販売や整備など顧客との接点はそれぞれのブランドが持ち続ければいい。物流事業者にとって、車両が故障した時に迅速に修理できるかどうかは、ハードウェアのブランド以上に重要なことだからだ。長年の付き合いと信頼は大事な事業資産である。共通化すべき部分は共通化し、差別化すべき部分は独自性を残す。いわばコモンアーキテクチャーの考え方であり、現代の企業統合とは、必ずしも何もかもを一つにすることではない。

 実はトヨタも、長年にわたって日野とのシナジーを模索してきた。トヨタの社長時代の佐藤恒治氏から筆者が聞いたところでは、水素の燃料電池スタックなど個別技術の共通化は可能だったものの、乗用車と商用車では製品に求められる要件が違いすぎて、それ以上の共通化は難しかったという。日野の認証不正問題を踏まえて、今回の統合をトヨタによる日野の切り捨てと見る向きもあった。佐藤氏の証言から見えてくるのは、長年の試行錯誤の末に、商用車同士でなければ十分なシナジーを生み出せないという結論に至ったことだ。今回の統合は、日野が新時代を生き残るための合理的な選択だったのである。三菱ふそうの向こうに、世界トップの商用車メーカーであるダイムラートラックがいることを勘案すれば、日野はこの統合によって、国内メーカーという枠を超え、グローバルな商用車の開発体制との結び付きを強めることになったのだ。

 さて、ここまではトラックを作る側の効率化の話だった。ところが、どれほど優れたトラックを安く作っても、それだけで物流の問題が解決するわけではない。日本のトラックの積載効率は約4割にとどまる。要するに、運べる能力のかなりの部分が使われていないのである。

 冒頭の名古屋港の例を思い出してほしい。トヨタ車を運んできたキャリアカーが空荷で帰るのは、ハードの問題ではなく、ソフト、つまり運用の問題である。トヨタと三菱自動車の物流がつながっていないからだ。この無駄を減らすには、荷主や運送会社の垣根を越えて貨物を混載し、物流拠点を結びながら効率のいい輸送ルートを作る必要がある。

 さらに、各社の車両が今どこにいて、何を積んでいて、いつ荷物を降ろし、次にどこへ向かうのかを把握しなければならない。そのためにはメーカーごとに異なる車両管理システムを接続し、物流会社や荷主のシステムともデータをやり取りする必要がある。ここで求められるのは、単なるトラックの高性能化ではなく、物流システムそのものの再設計だ。

ジャパンモビリティショー・ビズウィークの自工会ブースではメーカーが連携し物流を最適化する「共同物流」への取り組みが紹介された

 自工会がまず自動車メーカー同士の共同物流から始める意味は、共通の課題認識を持つ企業同士で仕組みを成立させ、それを原単位として他産業へ広げていく。最初から全国の物流を一斉に改革するより、はるかに現実的な進め方である。

 トヨタはすでに、いすゞなどと設立したCJPTを通じて、こうした物流改革に取り組んでいる。日野の一件で物流システムの改革という大きなテーマから手を引いたわけではない。

 ここには、もう一つ興味深い構想がある。水素大動脈構想だ。燃料電池車の普及には水素供給インフラが不可欠だが、乗用車では走行ルートも使用量も一定しない。そこでトヨタは、運行ルートと燃料消費量を予測しやすい大型トラックの定期物流によって、安定した水素需要を作り出す構想を作った。

 東京-福島を皮切りに、限定された輸送ルートで需要と供給が成立するモデルを作り、それを東京-愛知、愛知-広島など高速道路沿いにコピペして展開する。もちろん水素社会の実現は日本だけの問題ではない。ダイムラーはこれを欧州で展開することになる。実際、欧州ではすでに、トヨタ、ダイムラー、ボルボなどが、水素トラックと供給インフラを一体的に普及させる構想を進めている。そこにトヨタ生産方式の効率化を持ち込めば、運行計画、積載効率、物流拠点の配置、さらには荷主との情報連携まで改善の対象になる。

 水素インフラを成立させるために始めた取り組みが、水素を使わないトラックまで含めた物流システム全体の改革につながる。いわば、当初の目的をはるかに超える巨大な副産物が生まれる可能性があるのだ。

商用車ビジネスの持続可能性への模索から始まった取り組みは競争から協調のフェーズへ移り変わり、社会の物流システムの進化というもっと大きな枠組みへと繋がってきている

 最初は日野と三菱ふそう、あるいはいすゞとUDの経営統合という話だった。だが、カメラを引いて世界全体を見渡せば、商用車の開発・生産の再編が進み、その向こうでは物流ネットワークそのものを変えようとする動きが始まっている。

 トラックの開発費が下がり、空荷で走る車両が減り、少ない労働力とエネルギーで同じ量の荷物を運べるようになれば、その利益は運送会社だけでなく、荷主にも消費者にも及ぶ。ジャパンモビリティショーに掲げられた「メーカーの垣根を越えて、運ぶ。」という言葉は、単なる共同配送のスローガンではない。その先には、社会全体の物流を作り直すという、はるかに大きな可能性が広がっているのである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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