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更新日:2023.02.13 / 掲載日:2023.02.13

【燃料電池】ホンダが明らかにした水素戦略を解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ

 BEVは車種が増え、販売台数も伸びつつある一方でFCEV(燃料電池車)が話題になることが少なかったが、2023年2月2日にホンダから水素戦略の発表があった。

 ホンダは1998年にFCEVのプロトタイプを発表し、2002年にはFCEVを世界で初めて販売開始。その後も脈々と市販車をリリースし続け、2019年にはクラリティFuel Cellを発売したが、2021年に狭山工場に閉鎖に伴い、一時期は途絶えた。それでもFCEVの戦略を止めたわけではなく、2024年にはCR-VをベースとしたFCEVを発売予定と表明した。

 これまでは充填した水素の化学反応で変換された電気で走る純粋なFCEVだったが、実用性を考慮してプラグインも併用。PHEV(プラグイン・ハイブリッドカー)のように家庭で充電して数十㎞程度は走れるようになるので、普段使いはBEVのように電気だけで事足りて、ロングドライブ時に水素で、という使い方が想定でき、また水素ステーションが近所になくても使い勝手が良くなるだろう。メルセデス・ベンツGLC F-CELLで採用されたアイデアだが、残念ながらメルセデスは展開を止めてしまった。

次世代燃料電池システム

 次期FCEVに搭載されるFCスタック(燃料電池システム)は、2013年から米GM (ゼネラル・モーターズ)と共同開発を進めてきたもので、低コスト、耐久性・耐環境性向上を実現しているという。クラリティFuel CellのFCスタックに比べるとコストは1/3以下、耐久性は2倍以上となり、-30℃など超低温での始動時間を大幅に短縮。さらに、2030年を目処にさらなる進化を果たしたFCスタックを投入する予定でもある。
 クラリティFuel CellのFCスタックを第1世代とすると、2024年発売のFCEVに搭載されるのが第2世代、2030年頃に登場するのが第3世代と言える。第1世代は技術構築を担い9100万kmの走行実績を積んだ。第2世代では量産技術を磨き、第3世代では本格普及を目指す。

 第2世代に対して第3世代は、コストを1/2、耐久性を2倍というのが開発目標になっていて、第1世代に対してはコストはじつに1/6になる。ちなみにクラリティは、PHEVが598万9500円でFuel Cellは783万6400円と少々高価だったが、第三世代はフルハイブリッド程度、たとえばアコードe:HEVの465万円程度を期待できるとみていいだろう。ホンダの説明としてはディーゼルの互換が可能になることを想定しているとのことだ。

 FCEVは水素充填が短時間に行えて航続距離が長いというメリットがある一方、超高圧な水素タンクが嵩張るため、コンパクトなクルマには向かないという特性もある。乗用車では比較的に大きくて重たいクルマ向きであり、そういった意味ではディーゼルに近いと言える。さらに、大型のトラックやバスなど商用車ではさらにメリットが活きてくる。欧州や中国、北米などでも、FCEVは乗用車よりも大型商用車で早く普及するというのが大方の見立てだ。

 ホンダも乗用車のFCEVは活用法の一つであり、商用車、定置電源、建設機械など計4つを主なコアドメインとして水素戦略を推し進めていくという。乗用車で開発したFCスタックは2020年代半ばから外販を開始。当初は2000基/年あたりから始め、2030年には6万基/年、2030年代後半には数十万台/年を目指している。FCスタックは、乗用車用を繋いでいくことで、高出力化等が図れるので、大型車のみならず、もっと大きな発電能力が問われる産業機器等にも対応できるのだ。

ホンダがいすゞと共同開発を行う燃料電池大型トラック

 商用車ではいすゞ自動車と燃料電池大型トラックの共同研究を進めていて、2023年度中に第一世代FCスタックで公道での実証実験も開始予定。中国の東風汽車とは第2世代FCスタック搭載の燃料電池大型トラックで走行実験をすでに行っている。
 定置電源は、工場など大きな施設の非常用電源の需要がある。現在はディーゼル発電機がおもに使用されているが、企業全体のカーボンニュートラル化を考慮したときに、ディーゼルから燃料電池への互換というニーズが生まれるのは必至。また、クラウドやビッグデータの活用が広がり、データセンターでの非常用電源のニーズも高まっているという。
 建設機械の分野でもカーボンニュートラル化は求められることになるので、ショベルカーやホイールローダーなどに燃料電池を適用することで対応可能となる。
 かなり壮大な戦略であり、ホンダ単体で実現できることではなく、競合、他業種含めた企業や社会全体が実現に向けて動く必要があるものだが、本気で2050年のカーボンニュートラルおよびエネルギー循環型社会を目指すためには重要な役割を担うことになるだろう。水素の最大のメリットはエネルギーキャリアになりうること。再生可能エネルギー由来の電気から造られた水素を貯めて運ぶことができるからだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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