車の最新技術
更新日:2026.10.05 / 掲載日:2026.10.05

スズキの技術戦略「Right×Light Mobile Tech」を解説【石井昌道】

文●石井昌道 写真●スズキ

 スズキの技術戦略は、派手な飛び道具よりも、ひとつひとつの無駄を削ることに徹しているのが興味深い。2024年に掲げたのが「エネルギー極少化」。2025年にはそこに「本質価値極大化」を組み合わせ、技術戦略を「Right×Light Mobile Tech」と名付けた。そして2026年、その考え方が具体的な技術として、かなりはっきりと見えてきた。

 象徴的なのが、以前この連載でも紹介した軽BEVの「e SKY」だ。

 26kWhという比較的小さなバッテリーながら、一充電走行距離310km、交流電力消費率97Wh/km、車両重量1030kgというプロトタイプ参考値を実現している。今回明かされた開発の舞台裏では、開発初期に想定していた一充電走行距離は230km。それで本当に十分なのかと考え直し、チーム内で掲げた合い言葉が「1アイテムで1km延ばす×100個」だったという。転がり抵抗を減らしながら操縦安定性を成立させるタイヤやサスペンション、消費電力の低減、モーターとギアの効率改善など、部門を超えて細かな改良を積み重ね、最終的に310kmまで延ばした。

 ひとつの画期的な技術によるものではない。まさに「知恵と工夫の積み重ね」なのだ。また、バッテリーリーンという思想もある。一充電走行距離を競って巨大なバッテリーを搭載すれば、価格は上がり、重量も資源使用量も増える。普段使いに必要十分な一充電走行距離を見極め、バッテリーそのものを小さくする。バッテリーをたくさん積んで課題を克服するのではなく、まずクルマそのものを高効率化するのだ。

 次世代eAxleも興味深い。軽・Aセグメント用は70kW、B・C・Dセグメント用は130kWとし、わずか2サイズで軽自動車からDセグメントまでをカバーする構想だ。さらにe-4WDも10kWと30kWの2種類。BEVとHEVで基本設計や部品、さらに生産設備まで共用していく。モーターは重希土類フリーを目指す。ここでもキーワードは「必要なものを、必要なだけ」である。

 軽自動車には48V電源を用いたP2ハイブリッド(エンジンとトランスミッションの間にモーターを配置)を用意し、2022年比でCO2排出量を約15%削減。小型車にはシリーズHEVを開発し、さらに外部充電機能と丁度いいサイズのバッテリーを加えた「REEVライト・PHEV」へ発展させる構想も示された。地域によって発電事情、再生可能エネルギー比率、充電インフラ、燃料事情は大きく異なる。BEV、HEV、ICE、CNG、CBG、FFVなどを使い分けるマルチパスウェイは、選択肢を闇雲に増やすことではなく、地域ごとの最適解を選ぶための備えなのである。

 ICEもまだ磨いていく。次世代直噴ターボエンジンは、冷却損失、排気損失、機械損失、ポンピング損失をひとつずつ減らし、熱効率50%を目標とする。これもe SKYの1アイテム1km×100個と同じ発想だろう。画期的なひとつの技術に頼るのではなく、小さな改善を徹底的に積み上げる。

 そしてスズキらしいのがSDVライトだ。いま自動車業界はSDV(Software Defined Vehicle)が大きなテーマになっている。高性能なコンピューターを搭載し、ソフトウェアによって車両の機能を統合し、OTAによって購入後にも機能を追加、更新していく。もちろんスズキもSDV化を進めるが、何でも載せて高機能化するものではない。ユーザーベネフィットを第一に考えている。たとえばインド向け車両のADASは、交通事故死亡者を減らすため、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制といった安全機能は全車標準装備を目指す。一方で、ACCやレーンキープアシストといった快適機能は、必要とするユーザーが選択できるようにする。高価なADASを一部の上級車だけに搭載するよりも、事故低減に直結する機能を安価なモデルまで広く普及させるほうが、社会全体に貢献できるという考え方だ。

 ハードウェアも減らしていく。DMS(ドライバーモニタリングシステム)とOMS(乗員モニタリングシステム)の一体カメラをADASに統合。さらにジャンクションボックス、ボディコントロールモジュール、セントラルゲートウェイなど複数のコントローラーを統合コントローラー「CZU」に集約する「X in 1」を進める。これによって従来比でコスト30%、重量15%の低減を狙うという。

 SDVというと、ソフトウェアによって「できることを増やす」イメージが強いが、スズキはソフトウェアと電子アーキテクチャーの進化を、ハードウェアを減らすためにも使おうとしている。ECUが減れば、筐体も配線もコネクターも減らせる。重量だけではなく、使用する資源や製造エネルギー、そしてコストも抑えられる。それがSDVライトであり、ソフトウェアによって機能を増やすだけではなく、ハードウェアそのものを減らす。これもエネルギー極少化なのだろう。

 軽量化も同じ発想で、2030年以降に必要となる安全・環境対応を織り込みながら100kgの軽量化を狙う。衝突安全では、単純に鋼板を厚くしてボディを強化するのではなく、衝突エネルギーの流れから考え直して車両全体で最適化。高張力鋼板を使って板厚を減らし、さらにはボルトの頭部を小さくして1本あたり約1gを削るという。

 e SKY、eAxle、エンジン、SDV、軽量化などといった技術は一本の線でつながって見える。大きなバッテリーを搭載する前に電費をよくする。ECUを増やす前に統合する。エンジンでも革新的技術に頼るのではなく、損失低減など細部の磨き上げを積み重ねていく。

 「小・少・軽・短・美」は、単に小さく安いクルマをつくるための標語ではない。限られた資源とエネルギーをできるだけ使わず、それでもユーザーが本当に必要とする価値は最大化する。そのための技術戦略が「Right×Light Mobile Tech」なのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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