車の最新技術
更新日:2026.10.01 / 掲載日:2026.09.30
サーキットでの進化がホンダ車を変える! HRC開発責任者が語る自動車レースのDNA

レースと市販車は想像以上に深い関係があり、レースを通じて市販車が開発される例も増えてきています。そこで、本特集ではホンダのモータースポーツ部門である「HRC(ホンダ・レーシング)」を取材し、なぜ自動車メーカーがレース活動を行うのかを掘り下げます。
「レースを通じて市販車が進化する」。自動車メーカーが持てる技術のすべてを注ぎ込み、しのぎを削るモータースポーツの世界。なかでも日本の最高峰レース「SUPER GT(スーパーGT)」は、私たちが街で見かける市販車の面影を残したマシン同士がハイスピードで激突する、大人気のカテゴリーです。
特集記事第2弾となる今回は、ホンダ・レーシング(HRC)でスーパーGT GT500クラスの車両開発責任者(四輪レース部LPL)を務める徃西友宏(おおにし ともひろ)氏にインタビューを敢行。
レースカー作りの難しさやスーパーGTならではの工夫、そしてその技術が今後どのような形で市販車へ還元されていくのか、最前線で戦うエンジニアの生の声をお届けします。
文と写真●ユニット・コンパス
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国内最高峰の盛り上がりを見せるレースシリーズ「SUPER GT」とは?

「SUPER GT(スーパーGT)」は、国内最高峰の人気モータースポーツのシリーズ戦です。最大の魅力は、街で見かける乗用車やスポーツカーをベースにしたレースカーが走ること! トヨタ、日産、ホンダといった国内メーカーに加え、海外製スーパーカーも多数参戦しています。レースには性能やスピードが異なる2つのクラス(GT500・GT300)が存在し、約40台以上のマシンが一斉に同じコースを走行します。つまり2つのレースが同時に行われているわけで、コースのあちこちで常に激しいバトルが繰り広げられるのもスーパーGTの大きな魅力となっています。
上位クラスのGT500には、ホンダ、トヨタ、日産といった自動車メーカーが参戦。マシンは形こそ市販車に近いものの、中身は市販車とはまったく異なるサーキットでの走行性能を追求した本格的なレース専用設計となっています。2026年シーズンは全8戦が開催され、ポイントにより年間チャンピオンが決定します。
開発責任者インタビュー:街を走る市販車の影を残しつつ、イコールコンディションで戦う「スケーリング」の秘密

── スーパーGTは市販車のシルエットを持ったレーシングカーが走るのが大きな魅力ですが、純粋なフォーミュラカー(F1など)と比べてマシンを作る上での難しさはどこにありますか?
徃西氏: F1などのレース専用車は、全参加者が同じ1つの規則書に従ってゼロから形状を作っていきます。しかしスーパーGTのように市販車のボディデザインを盛り込むGTカーの場合、ベース車両ごとの「得意・不得意」が生じてしまいます。そのままではベース車の元々の形状による差(有利・不利)が大きくなりすぎてしまうため、現在のスーパーGTでは「スケーリング」という独自の規則が導入されています。

── スケーリングとはどのような規則なのでしょうか?
徃西氏: ホンダで言えば、今年は「プレリュード」をベースにし、昨年までは5ドアの「シビック」を使用していました。元々のデザインや全高・全長が大きく異なる車を持ってきても、ほぼ同じようなシルエットや寸法になるように、車両の要所要所(全長、全高、ノーズの特定の位置、リアトランク付近の高さなど)に共通の基準点を設け、縮尺や傾きを調整して登録するルールです。

── つまり、市販車とまったく同じ寸法ではなく、ルールに基づいたGTカー独自のシルエットに補正されているわけですね。
徃西氏: その通りです。そうして極力イコールコンディションを整えた上で技術競争を行っています。ただ、完全にベース車の違いをゼロにはできません。規定で開発が許されているエリア(ボディサイドなど)を使って、各メーカーが独自のアイディアで長所を伸ばしたり、苦手な特性をカバーしたりと、3社3様のコンペティティブな開発を行っています。
0.1秒を削り出す現場の闘いと、開幕後の進化

── シーズンが開幕した後も、マシンを速くしていくことは可能なのでしょうか?
徃西氏: 事前に登録した空力ボディカウルの形状などはシーズン中に変更できません。しかし、登録外の細かなパーツのアップデートや、共通部品であるサスペンション・車両骨格の「セットアップ(微調整)」でコンマ数秒の世界が変わります。また、スーパーGTではレースごとにタイヤメーカーから異なるスペックのタイヤが投入されます。同じサーキットでも季節や路面温度に合わせて最適なセットアップを短時間で見出し、マシンのポテンシャルを極限まで引き出すことこそが、現在のGTレースにおける重要な技術開発です。

── つまり毎レース、熾烈な闘いが行われているのですね。
徃西氏: 1年8戦の中で調子の波はありますが、せっかくサーキットに足を運んでくれたファンや応援してくれる方々に「何も良いところなく終わる週末」だけは絶対作らない、という強い思いで挑んでいます。
レース現場から市販車へ。「シビック タイプR HRC コンセプト」などへの技術還元

── HRCブランドの市販車パーツや、東京オートサロンで公開された「シビック タイプR HRCコンセプト」など、市販車へのアプローチも話題になっています。レースで培った知見はどのように活かされているのでしょうか?
徃西氏: まず大きいのは「エンジニアの成長」です。レースの極限状態で技術を磨いた人間が市販車の開発に携わること自体が大きな還元になります。具体的な技術面でも、レースカー開発で駆使している「ドライビングシミュレーター」での性能検討や、HRC Sakura(ホンダのレース技術開発拠点)にある実車フルスケール風洞設備を活用した空力開発のプロセスは、市販車の開発でも全く同じように使われます。走りの肝となるサスペンションセッティングや空力特性の向上など、スーパーGTの最前線で培われた高度なノウハウが、近い将来導入されるであろうHRCブランドの市販パーツやコンプリートカーの走りの味付けにしっかりと注ぎ込まれています。
「勝利の瞬間の笑顔」を求めて走り続ける

── 最後に、徃西氏がこのレースエンジニアという過酷な世界でやりがいを感じる瞬間について教えてください。
徃西氏: やはり、レースで勝ったりポールポジションを獲得した瞬間ですね。大勢のファンやスポンサー、関係者の皆さんが集まる場で結果を出せた時、一瞬でその場にいる全員が笑顔になり、爆発的な歓喜に包まれます。自分たちの努力一つで手に入るあの最高の達成感と充実感は、一度味わってしまうと何物にも代えられません。思い通りの結果が出ない苦しい時期があっても、「あの瞬間をもう一度みんなで味わいたい」という思いがあるからこそ、私たちは挑み続けることができるんです。

情熱というエネルギーがホンダ車をもっと面白くする!

伝説のF1ブームやグループA時代に憧れてモータースポーツの世界へ飛び込み、現在はGTカー開発を通じて技術を磨き勝利に貢献している徃西氏。HRCにはこうした熱い気持ちを持ったエンジニアがたくさんいると思います。極限の世界で磨かれた技術と、勝利に向かって情熱を燃やすエンジニアたちがやがて市販車開発でも腕を振るうことは非常にワクワクします。HRCモデルの第1弾として開発中の「シビック タイプR HRC コンセプト」がどのような仕上がりになっているのか楽しみで仕方がありません!
次回はHRC社長 渡辺康治氏のインタビューを予定。HRCが現在取り組んでいる新たなる挑戦や気になるプロダクトの詳細までを深掘りしていきます。どうぞご期待ください。
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