車の最新技術
更新日:2026.01.23 / 掲載日:2026.01.23

SKYACTIV-Z 次世代内燃機関に挑む【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 昨年末、欧州委員会が2035年の内燃機関禁止を見送ったことで、オールEV化にはだいぶ時間が掛かりそうだという認識が広がった。

 EVの目が全くなくなったわけではないが、EVの普及は中期的に見て20〜30%程度で頭打ちになりそうである。そうなると残りの70%をどうするかという話になる。おそらくは、カーボンニュートラル燃料(CNF)、中でもバイオエタノールが最有力候補と考えるのが順当だろう。

 バイオエタノールに関しては、すでにブラジルでフレックスフューエルビークル(FFV)が普及しており、ハードウエア的には、ガソリンとバイオエタノールを適宜交互に継ぎ足し給油できる環境が整っている。現在ブラジルで売られている新車は全てFFVであり、現地でクルマを売る全てのメーカーは技術的に対応済み。

 CNFには多くの候補があるが、現時点でガソリンに対して価格競争力で互角に戦えるのはバイオエタノールだけだ。長期的には様々な燃料が現れる可能性はあるが、そこはまだあくまでも可能性の話である。

 しかも、多くの国がバイオエタノールへの投資を拡大しており、特に農業大国であり通商でも強い力を持つ米国がかなり本気で取り組み出したことが大きい。

 筆者は12月4日に、日経新聞主催の「知っておきたいバイオエタノール 日米連携で実現する“未来のガソリン”」というセミナーで講演した。この講演では筆者の他に米国大使館農務担当公使やイリノイ州トウモロコシ市場委員会のディレクターや同委員会地区代表、米国エタノール連合マーケティング責任者、ネブラスカ再生可能燃料協会のディレクターなど、米国側からも多くのゲストが講演をおこなった。

 セミナーの協賛はアメリカ穀物バイオプロダクツ協会。要するにお金は米国から出ているということである。これが何を意味するかと言えば、米国は脱炭素ビジネスに対し、本気でトウモロコシ原料のバイオエタノールで勝負しようとしているということである。

 すでに再生可能エネルギー系やEV系の組織が資金のゆとりがなくなってきている中で、農業+エネルギーの産業が本気で予算を組み始めれば、メディアの方針は大きく変わると見て良いだろう。日本政府も2030年から、一部地域で最大10%のバイオエタノールを混合したガソリン(E10と呼ぶ)の販売を目指しており、2028年をめどに実証実験を始める予定だ。どうやら巨大な地殻変動が始まっている気配がする。

 では内燃機関のハードウエアはそのままなのかと言えば、こちらもやはり進化が求められている。そもそもで言えばバイオエタノールは既存のエンジンでも混合使用が可能であり、10%までは1980年代以降のクルマであれば、無加工で使用可能。20%程度なら燃料系のゴムパイプを対策品に変えるだけで走行可能だ。25%以上になると、低温時の始動性などに問題が発生する場合がある。ただしそれはガソリン専用のエンジンにバイオエタノールを混合した場合であり、すでに述べた通り混合使用が前提となれば、すでに技術的には確立されているし、国内でも、車種によっては早手回しにすでにバイオエタノール対応済みで売っているモデルもあると聞く。

 では課題はないのか。と言えば、現状ではまだまだ世界のクルマの燃料を全てバイオエタノール化するには量的に不足している。ちなみにバイオエタノールとは要するにアルコールのことであり、なにもトウモロコシに限らず多様な農産物から生産が可能だ。人類は長い時間をかけて農業生産力を高めてきた上、それらを発酵させて酒を作る技術も確立している。つまりバイオエタノールは人類が持つ既存技術の組み合わせであり、あとは生産量の拡大だけができれば良い。

SKYACTIV-Zはマツダ独自のハイブリッドシステムと組み合わせる形で2027年に新型CX-5に搭載される予定

 そこでより低燃費な内燃機関が重要になってくる。ということで、筆者は、かねてからマツダが主張している予混合圧縮着火エンジンに注目している。今の所マツダはSKYACTIV-Zについて、あまり多くの情報を出してきていないが、理想的に言えば、発進時などの低速域を補うハイブリッドと、高速で希薄燃焼が可能なHCCI(SKYACTIV-Z)の組み合わせは、低速と高速のそれぞれに強みを活かすことができる可能性が高く、優れた実用燃費を実現できる見込みが高い。

 コストは確かに高くなるだろうが、現状のEVと比較すれば、十分アドバンテージがあるはずだ。マツダは現世代のSKYACTIV-Xをプレミアムエンジンに位置付けたことを反省しており、次世代ではスタンダードエンジンに立ち位置をずらす。それはつまり現在のSKYACTIV-Gと置き換えることを意味する。果たしてそこまで価格低減が可能かというところは実際に出てくるまでわからないが、実現できれば、成果は大きい。

 ちなみにバイオエタノールとの相性はおそらく良い。もともとマツダの予混合圧縮着火エンジンは、燃焼の様子を見ながら、プラグ着火の種火を使う方法と圧縮自己着火を切り替える方針なので、着火の選択肢は多い。純粋なプラグ着火より対応幅は広いはずなのだ。

 SKYACTIV-Zは2027年中にCX-5に搭載されて登場することになっている。となれば翌2028年に始まるE10の使用は織り込み済みでデビューするだろう。ということで新燃料と新内燃機関の時代の幕開けはもう目の前に来ている。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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