車の最新技術
更新日:2025.11.17 / 掲載日:2025.11.17

【Astemo】総合サプライヤーが示す制御技術の未来【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●Astemo

 日本の三大サプライヤーであるAstemoは日立オートモティブ、ケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して2021年に設立された。単に規模が大きくなっただけではなく、まるごと一台の自動車を造れるのではないかと思うほど様々な部品のサプライヤーが統合されたことで、特化型ではなく、総合的な提案ができることが強みとなっている。そのAstemoのテックショーに参加してきた。

Astemoが開発中の電子プラットフォーム「IoV」を搭載する開発車両(ホンダ Ye S7ベース)

 まず最初に試乗したのはホンダのYe S7。ノーマルモデルは中国向けだけあって穏やかで優しい乗り味だ。ステアリング操作に対する反応も素直で扱いやすいが、スポーティではない。

 これにAstemoのステアバイワイヤー、ブレーキバイワイヤー、セミアクティブサスペンション、リアアクスルステア、前後のePT(モーターアクスル)を装着し、Astemoが勝ち技とするべく研究開発しているIoV(Internet of Vehcles)プラットフォームも搭載。

 IoVは電子プラットフォームによって各ユニットを統合制御するもので、クロスドメイン統合制御技術と呼ぶ。走る・曲がる・止まるはすべて引き上げられるが、統合制御で強みを最大化し、さらにはユーザーの好みに合わせて高度なパーソナライズをすることも可能だ。

 開発車両はダッシュ中央のディスプレイで「内向き感」、「軽快感」、「一体感」といった項目が調整できるようになっていた。

 標準的な仕様で走らせると、ベース車両よりも引き締まって安定感が増しているのに快適性はまったく損なわれていない。それどころか、前後左右上下の余計な動きが抑えられるので、乗員のブレが少なくて快適性は高まっているぐらいだ。ハンドリングも思い通りに曲がって一体感が増している。これは前後の駆動配分制御によってピッチングが巧みに抑えられるからだ。またアンチジャーク制御が入っているので、停止するときにブレーキの踏力をコントロールしなくても自然とスムーズに止まれるのも興味深い。

 前述の「内向き感」などを操作すると、面白いように特性がかわっていく。スパッと曲がるようにもなれば、ノーマル以上に穏やかにもなる。好みで変化させられるのが楽しいだけではなく、これをAI制御することで極めて短い時間でバランスのいい適正な特性をはじき出すことが可能であり、自動車メーカーにとっては開発をスピーディにこなすこともできるわけだ。

自操支援技術MDS(Manual-Driving Support)のテスト車両(ホンダeベース)

 次に試乗したホンダeは、自操支援技術MDS(Manual-Driving Support)を組み込んだ開発車両。ADAS(先進運転支援システム)の新しい考え方で、運転が苦手な人の手助けをするようなイメージだ。

 狭い道でのすれ違いや車庫入れでステアリング操作が適切ではないと、ステアバイワイヤーによって軌道修正して衝突を避けるアシストが入る。実際に走らせてみると、たしかにMDSがONになっているとちょっとしたステアリングの切り遅れや切り過ぎなどを修正してくれて安心感がある。正直に言えば運転が上手な人はわずかに違和感を抱くかもしれないが、初心者には心強く、高齢等で運転を諦めてしまう人を減らす効果もあるだろう。

Astemo V03では4輪インホイールモーターを独立制御することで高度な運動性能を実現

 V03と呼ばれる開発車両は4輪IWM(インホイールモーター)と新操作デバイスが組み込まれている。IWMの利点は、4輪それぞれを独立制御することで姿勢制御などが巧みになることがあげられるが、試乗してみると加速や減速などでもリニアリティが増してダイレクトな走りが味わえることも実感した。

 通常のBEVのようにモーターからタイヤに動力を伝える物理的な部品がなく、まさにダイレクトに伝わって伝達ロスがないからだ。電費改善にも繋がるだろう。パイロンスラロームでは4輪独立制御のオン・オフで明らかに挙動が違う。むろんオンでは滑らかで思い通りの走りができる。

 新操作デバイスはステアリングのかわりに手のひらに収まるコントローラーで操るのだが、想像するよりもずっと扱いやすかった。

 指は繊細な動きが可能なので、慣れれば通常のステアリングよりも緻密にコントロールできるぐらい。コーナーから直進に戻るところでわずかに違和感があったが、BEVやIWMが当たり前の世界になったらこういう操作系のモデルがあっても面白いだろう。

 普及はまだまだ先かと思っていたが、NOA(ナビゲーション・オン・オートパイロット=目的地を設定すると自動的に運転アシストする機能)の急速な開発競争によって注目度は高まっているという。

学習機能により路面ごとに最適なサスペンション制御を行うレクサス RXベースのテスト車両

 最後に試乗したレクサス RXは、クラウド学習によるシャシー制御の開発車両だ。

 路面に合わせて電子制御可変ダンパーの減衰力を最適化するのだが、カメラで先の路面を読むなどではなく、IoVのプラットフォームを用いてクラウドと繋いで制御していく。一度走った路面は挙動データーから最適な乗り心地となる減衰力を演算。毎日走るルートだったら、常に快適になる。リアルタイムのデータも合わせて制御するので学習によって精度も高まっていくようだ。

 試乗すると路面が変化してもそれぞれに快適なことを確認。制御を入れない状態で走ると、こっちの路面はいいけどあっちの路面は良くないなどの違いがあった。

 サプライヤーを口悪く下請けと表現することもあるが、いまのAstemoは提案型という側面が強い。前述のように多くのサプライヤーを統合したからこそ実現可能であり、自動車メーカーにとってコレまで以上に必要性の高い開発パートナーとなっていくのだろう。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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