車の最新技術
更新日:2025.07.08 / 掲載日:2025.07.07

走りも楽しめるハイブリッドを目指して【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道

 当コラムで何度か紹介しているホンダ・シビックe:HEVでのレース企画。ハイブリッドカーなど新世代パワートレーンでのサーキット走行やレース参戦に興味のあったモータージャーナリスト仲間で組んだTokyo Next Speedというチームと、ホンダでe:HEV等の開発にかわわるエンジニア達とのコラボで始まった企画で、2021年から2023年前半はフィットe:HEVを使用し、2023年後半にシビックe:HEVへスイッチした。

 目的は現在からしばらくの間は乗用車の中心的存在であるハイブリッドカーを、低燃費というだけではなくドライビングが楽しめるパワーユニットへと鍛え上げることにある。

 2022年10月に発売されたフィットe:HEV RSや 間もなく発売されるプレリュードにノウハウがフィードバックされている。参戦するレースはモビリティリゾートもてぎのJoy耐久(7時間耐久)とミニJoy耐(2時間耐久)で、市販車をベースとしていること、比較的に時間が長いこと、速さだけではなく燃費の良さも問われることなど、アマチュア主体のレースながらガソリン車に混じってハイブリッドカーを鍛え上げる場として何かと都合がいいのだ。

 フィットの時とシビックでの2戦は苦労が絶えなかったが、2024年10月と今年5月のミニJoy耐ではなんと優勝! 1.5Lエンジンのフィットと2.0Lのシビックを比べると、速さと燃費のバランスでコンパクトなフィットのほうが有利かと思いきや、シャシーは世代が新しいシビックのほうがポテンシャルが高く、パワートレーンに関してもノウハウの積み重ねによって上手に使えているので、全体の戦闘力は高かったのだ。

 ただし、2時間のレースは無給油で済む我々のマシンに有利に働くから上位を狙えるのは当たり前で、もっと速さと燃費のバランスが問われる7時間のほうで上位進出を果たすのが目標だが、それにはまだ足りていない。これまでは速さを重視したクルマ造りとドライビングを行ってきたが、現在は燃費を伸ばすべく、違う方向性に取り組んだ。

 燃費を伸ばすには走行抵抗を減らすことが肝心で、空力性能とタイヤの変更に取り組んだ。市販車をベースにサスペンションやブレーキなどをレース仕様にしたシビックは、空力のことはほとんど考慮していなかった。むしろ、ブレーキやパワーユニット等の冷却を重視して開口部を拡げたり導風板を追加していたので市販車よりも空力は悪化しているぐらいだ。

 そこで導風板を外し、エンジンルーム下やサスペンション周りを含めた床下を可能な限りフラットにした。風洞で数値を測るとCd(空気抵抗係数)は39ポイントも下がった。この数値は、ざっくりいうとSUVからセダンになったぐらいの劇的に大きなものだという。ブレーキ用の導風板は抵抗になっているだけではなく、床下への空気の流れを阻害していたので合わせ技でCdを下げることになった。

 もてぎのダウンヒルストレートエンドの最高速は以前の163km/hから166km/hへとあがった。たった3km/hではあるが、サーキット全体でのラップタイム向上に貢献し、もちろん燃費改善にも繋がる。

 もう一つはタイヤの変更。これまではモータースポーツ用のアドバンA050を使用してきたが、スポーツラジアルのアドバンA052を選んだ。走らせてみると一発のラップタイムは同等かちょっと落ちるぐらい。一般道の走行を前提としたA052は、耐ハイドロプレーニングやノイズ対策などのためにブロックが小さく、乗り心地を考慮して剛性もA050に比べれば低くなるものの、サーキットでも立派な速さをみせてくれた。

 ただし、タイヤのたわみは大きく、ブロックが小さいために部分的な摩耗が進みやすい。連続走行でのラップタイムの落ち幅はA050よりも大きくなる。独自に転がり抵抗を測ってみると、シビックの純正タイヤに比べてA052は1.5倍、A050は2倍程度になっている。A050からA052に履き替えることで最高速はさらに3km/h上がり、ラップタイムは0.4秒短縮、燃費9%向上というのがざっくりとした試算だ。

 ドライビングもいわゆるリフト&コースティングを採り入れる。通常のサーキット走行よりもストレートエンドで早めにアクセルをオフにしてブレーキポイントまで惰性で転がすリフト&コースティングはレースで燃費を改善する常套手段。エンジン車ではコースティングしている間は燃料カットが働くので消費を抑えることができるが、レース仕様のシビックe:HEVは燃料カットが働かず、消費を抑えるのはエンジン回転が落ちる分だけ。

 だが、ハイブリッドカーの強みである回生が働くので、電力を得ることができる。モーターのパワーをアシストするので、速さも燃費も有利になるのだ。実際には燃費がほぼ狙い通りに改善されつつ、ラップタイムも少し落ちるだけで済んでいる。

 走行抵抗を減らして燃費を改善する方向性は今のところ上手くいっているが、7時間のJoy耐で上位進出を果たすにはもう少し向上させることが必要。あと1回のテストで細かいセッティングやドライビングを煮詰めて本番に臨むつもりだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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