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更新日:2025.03.21 / 掲載日:2025.03.21

マツダが発表したライトアセット戦略とは何か?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ、池田直渡

 3月18日、マツダは長らく言及を避けてきた電動化戦略についての説明会を開催。マツダのクルマづくりの方向性を詳細に説明した。

 第6世代戦略の頃、マツダは自らが進む方向について、世界でももっとも積極的かつ詳細に説明する会社だった。しかし第6世代の記録的成功以降、そうした経営・技術方針についての説明がトーンダウン。会社が進む方向について、あまり語らない方向へとシフトしていた様に筆者には見えた。

 しかし今回のライトアセット戦略説明会ではかつてのマツダを彷彿とさせる詳細な説明を行いマツダが目指す方向性を明確に提示してみせた。

 もっとも基本になるのは、マツダは2030年までを「電動化の黎明期」と捉えているという基本思想を明らかにしたことだ。それが示すものは、今後も電動化は大きなソリューションであり続けるという明確な認識と、ビジネスとしての電動化の本番は2030年、つまりあと5年くらいで始まるという、マツダの未来予測をはっきりさせたことだ。つまり今後の5年間は電動化への過渡期にどう対応していくかという話になるのである。

マツダは2030年までの経営戦略のなかでバッテリーEV(電気自動車)の本格導入を2028年以降と位置付けている(マツダ資料より)

 過去数年間、マツダは「このEVシフトの時代に6気筒の大排気量ディーゼルをリリースするとは、いったい何を考えているのだ」という誹(そし)りを受けてきた。この時期、世の中は「未来はEV一択」という認識だったわけで、そこであえて内燃機関の開発を進めるマツダは逆張りが過ぎると認識されていたからだ。

 今回の発表で示されたライトアセット戦略はマツダの英語リリースを見ると “Lean Asset Strategy”となっている。文字通り、より少ないリソースをどう活用するかと徹底的に突き詰めたものである。

 自動車メーカーとしては小規模でニッチプレイヤーである自らの規模をわきまえ、エンジンや電動化技術を中心とした手持ち(将来発表される技術も含め)の技術をコンポーネントの様に順列組み合わせすることで、世界各地で求められる多様なニーズに小規模メーカーであっても誠実かつ確実に対応できる多様な商品を構築する。

 その中核となるのは、マツダのエンジニアリング力である。小規模メーカーであるマツダは、当然ヒト・モノ・カネを大量投入する物量作戦は取れない。となれば限られた開発リソースでより多くの技術開発を進めなければ、大規模メーカーとは戦えない。そこを担うのは「マツダモノづくり革新2.0」である。このモノづくり革新と対になるのがコモンアーキテクチャーである。

「ものづくり革新2.0」では、車両全体のモデル化を実現させ、デジタル上での開発をさらに高い次元で効率よく実施していく(マツダ資料より)

 大型コンピューターによるシミュレーション解析を軸とした「コモンアーキテクチャー」によって固めた理想的な基礎特性を、多様な製品に徹底的に転用し、より高いレベルの基礎設計を「固定化」してコストパフォーマンスを高める戦略。加えて各地域や価格帯などのニーズに適合する商品力を担う「変動化」を同時に達成することによって、個性ある多様な商品力を展開する手法だ。コモンアーキテクチャーとはつまり固定と変動を割り振って、少ないリソースでハイレベルな製品を作る手法である。

 モノづくり革新とコモンアーキテクチャーは、生産と設計のモジュール化なのだが、ここは誤解されやすい。どちらもテクノロジーのモジュール化であって、具体的な部品のモジュール化や汎用化ではない。極論を言えば部品をモジュール化してしまうと生産や設計がモジュール化できなくなるケースも存在する。

 マツダは2011年から進めてきた「モノづくり革新1.0」をさらに推し進め、すでに生産性を3倍に高めている。

 この活動によって、2027年に発売予定のBEVでは、大きなコストダウンが進む予定である。具体的に言えば、既存の製造資産を活用し、BEVとエンジン車を同じ生産ラインで生産する進化型の「混流生産」を採用することで、BEV専用の新工場を建設する場合に比べ、初期設備投資を85%削減、量産準備期間を80%短縮できるという。そのために数年前からマツダは防府工場の車両搬送用クレーンの耐荷重を上げ、BEV生産に備えるとともに、ベルトコンベアよりフレキシビリティが高く、より多様な生産品目をラインの中で吸収できる様にAGVを主体にメインとサブのアッセンブリーラインを自在に可変にできる改善をおこなっている。

マツダ防府工場のメインライン。電動化を見据えて車両搬送用クレーンの耐荷重をあげる改良が行われた。また少量多品種の混流生産に対応するため、任意にサブラインを組み込めるよう配慮されている(撮影:池田直渡)

 世の中では、巨額投資によってブランニューの最新工場を建設し、完全オートメーションの自動ラインで低コストな生産ができる様な動画が人気を集め、革新的であるような説明が横行しているが、常識的に考えれば、既存資産を流用した方が、投資面で有利なのは自明。

 ましてや販売台数の読みが難しいBEVであれば、最速で大量に作れることよりも、実需で求められている台数が少数であれ、自在にローコストで作れる工場の方が遥かに市場に対して現実的である。完全オートメーションは同じやり方を高速かつ大量に処理することに向いた生産手法だが、需給の変化への対応力が欠落している。要するに人気商品の売れ行きが落ちた途端、利益が出せなくなるピーキーな仕様であり、長期戦略的には扱いにくい。

マツダは独立性を維持しながらも、「ライトアセット戦略」と「ものづくり革新2.0」の合わせ技により各国のニーズに応える多様な商品をラインアップしていく計画

 マツダは、おそらくこれから徐々に増えていくBEVやHEV、そして意外にペースダウンが遅いICEのクルマを、基礎を共有する技術で作り、かつフレキシブルに増産・減産が可能なラインを作ることで、未来のいかなる変化にも耐えられる状況を構築したのである。ライトアセット戦略は弱者の戦術ではあるが、それ以上に強(したた)かで打たれ強いものであることがお分かりいただけたと思う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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