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更新日:2024.12.27 / 掲載日:2024.12.27
2024年の振り返り【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●フォルクスワーゲン、テスラ、トヨタ
編集部からは、是非とも2024年の振り返り記事をと依頼された。今年の振り返りとなると考えるまでもない。2024年は、EVシフトが大幅に見直された年だった。
- ・フォルクスワーゲン 少なくとも3つの工場を閉鎖する。
- ・アウディ ブリュッセル工場を閉鎖。
- ・ノースボルト 破綻(欧州系メーカーが共同で立ち上げたスウェーデンの車載電池メーカー)。
- ・ボッシュ EVの販売不振で5500人のリストラ。
- ・シェフラー 欧州の2工場の閉鎖と4700人の削減。
- ・ZF 最大1万4000人の削減を発表。
- ・メルセデスベンツ 2030年の完全EV化を撤回。
- ・ボルボは、2030年の完全EV化を撤回。
- ・ステランティス 2026年までに36車種のHEVを投入すると方向転換。
- ・フィスカー 昨年のローズタウンやプロテラに続いて破綻。
- ・ルーシッド 赤字の泥沼
- ・リビアン 赤字の泥沼。
- ・フォード 米国ミシガンの電池工場の計画縮小に加え、ドイツと英国で4000人規模のリストラを発表。
こうして見ると、EVシフトに邁進していた会社が軒並み危機に陥っていることが表面化した年だったと言えるだろう。テスラとBYDについては良材料と悪材料が相半ばする状態で、どのデータを注視するかで見方が変わるので保留。個人的な見立てとしては両社ともこれからさらに悪材料が出そうに感じている。ただし、あくまでも筆者の感想である。

さて、ずらりと並んだ各社の厳しい状況だが、なぜこんなことになったのかを総括すれば、ペース配分の間違いである。ほんの数年前まで、いち早くバスに乗って全力でEVシフトを進めることが唯一の正解で、それができない企業は滅びると言う言説が多数派だった。
しかし、いざ蓋を開けてみれば、EVシフトは長距離レースだということがはっきりした。100m走のつもりでスタートダッシュを決めた会社が次々と苦境にはまっているわけだ。
事業なのだから当たり前なのだが、投資からリターンまでのスケジュールを読み違えれば破綻する。投資とはほぼイコール借金である。増資のケースもあるが、投資家はリターン無しでいつまでも待ってくれるほどお人好しではない。要するに投資を行ったら、次の日から借金返済のためにキャッシュフローが溶け始める。それが溶け切る前にリターンが得られなければ倒産する。実業の世界では文字にするのも馬鹿馬鹿しいほど当たり前のことだ。
筆者も零細企業の経営者なので、月末ごとに金の工面に走り回っていた時期があった。経営者の一番の仕事はキャッシュフローの綱渡りを切り抜けることである。
確かにEVはまだ成長する。成長マーケットではあるが、問題はその成長のペースである。利益があがるのは来年なのか5年後なのか10年後なのか、はたまた30年後なのか。それはまだ誰にもわからないはずなのに、「儲かるらしい」あるいは「今飛ばないと滅亡する」という憶測で投資ブームが起きる。世の中ではこれをバブルと言う。
リターンの時期を手応えを持って掴むまで、手持ちキャッシュで払える以上の大型の勝負を掛けないというのは経営の常道だ。もちろん世の中には勝負士の様な人がいて、無手勝流の大勝負を掛けてギャンブルに勝つこともあるのだが、そういうハイリスクな勝負は誰にでもできることではなく、肝が座って、強運に恵まれた限られた人のやり方である。
では常人はどう考えるかと言えば、商品が市場に支持されるかどうかを見る。普通に考えてEVが売れ始めてからで良い。EVブームを牽引したテスラのケースをきちんと分析していれば、あれがプレミアムビジネスであったことは理解できたはず。ベンツ、BMW、アウディのドイツプレミアムカー御三家も、Bセグメントの商品を揃えて裾野を広げてさえ、結局200万台の規模を超えられなかった。テスラのように、スターティングプライスが500万円からのクルマは明らかにプレミアムカーであり、プレミアムメーカーは歴史上、1000万台はおろか500万台だって売ったことはない。

破壊的イノベーションの世界ではこれまでの常識は通用しないとよく言われるが、前例を一切無視した判断をするならもはやそれは思考を停止するしかない。世界の人口70億人のところで人口より多い1兆台のクルマが売れるわけがないと思うが、それだって古い常識だと言うのならそうかも知れない。個人的には破壊的イノベーションが起きるには一定の閾値があると思うが、常識全てが破壊されるという大変都合の良い解釈が行われた結果、破壊的イノベーションが陳腐化するという冗談の様なことが起きている。
常識的にはテスラのフォロワーとして事業を考えるならば、プレミアムビジネスを選択すべき。そこにはもうマーケットがある。だがしかし、大衆車のEVシフトはまだだ。それはテスラ自身が長らく噂のモデル2を一向にリリースしないことから見ても、日産リーフの現状を見てもはっきりしている。
実はEVシフト派もそれがわかっていたからこそ、「2021年には内燃機関車を買う経済合理性はなくなる」とか「自動車の価格は5分の1に下がる」というような流言飛語を広めたのである。できもしないことを断言し、言葉の強さで押し切るモラルの無いやり方は、報いを受けて当然なので、この件は何度でも指摘するつもりである。
つまり大衆EVのビジネスは価格低減が十分進んで、市場が動いた時が勝負。遅れたら勝てない事ばかり心配されるが、仕掛けてから動くまで資金が持たないことの方が重篤な事態を招く。

なので、別にEVシフトがこれで終わったわけではなく、研究開発としては、バッテリーのコストダウンと性能アップを今後も地道に続けつつ、機を見て生産設備を至急立ち上げる。そのタイミングの読みがこれからの戦いである。
最近頻繁に「EVオワコン論」を見かけるが、そうじゃない。わかっていた人はずっと前からわかっていた通り、長期戦としてのEVシフトはこれからも続いて行く。そこまで粘り強く戦える戦略があるかないかが勝負になってきた。
一方で、BEVで全てのクルマを置き換える戦略はマーケットが着いてこなかったことがわかった。もちろん今のBEVを前提にしての話である。なのでBEVがカバーし切れない部分は、別の方式が求められる。仮に全体の3割までBEVが普及したとしても、残る7割をどうするかだ。それほどまでに広範なマーケットをカバーしようと思えば、革新技術では無理。となると、やはりカーボンニュートラル燃料に頑張ってもらうしか無い。すでにブラジルで実績のあるバイオエタノールであれば、供給量や価格の面で、すでにガソリンと競えるレベルにある。
なので、今後しばらく、最大勢力はバイオエタノールによるCNF、ついでBEV、水素などが長い時間を掛けて少しづつ普及していくと筆者は見ていた。
ところが11月のCOP29でとんでもない事態が発生した。事と次第によっては化石燃料に逆戻りしかねない流れになりつつある。と言うお話の続きは新年10日の記事にて(1月3日は休載となります)。