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更新日:2024.08.23 / 掲載日:2024.08.23
カーボンニュートラル燃料深掘り メタノール編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ホンダ
メタノールは工業用アルコールとも呼ばれ、主に燃料用アルコールとして使われる。アルコールには消毒などの用途に使われるエタノールとこのメタノールがあり、メタノールは人体に有害である。これは人体に入った時にできる物質が異なるからで、エタノールは無害な酢酸が生成されるが、メタノールは有害な蟻酸(ぎさん)が生成される。失明の危険などが指摘されている。
メタノールは工業用アルコールと言われるだけあって、エタノールと比べると安価な傾向にあるが、エタノールの方は消毒用の医薬品なので、製造時の管理レベルも全く異なり、直接の価格比較はしにくい。
さてこのメタノール、現在は天然ガスや石炭などの化石燃料を水蒸気改質して作られている。天然ガスの主成分はメタンであり、メタン(炭化水素)を構成する水素原子(H)のひとつをヒドロキシ基(OH)に置き換えるとメタノールになる。


炭素(C)を核に上下左右に4本の腕の先に水素(H)が付いているメタンの内、HのひとつをOHに置き換えたものがメタノール(メタンベースのアルコール)。Cが2つ並んで、ふたつのCの余った腕3つにHが繋がったものがエタンで、メタン同様にHのひとつをOHに置き換えたものがエタノール(エタンベースのアルコール)。何のことはない、methane+alcohol=methanol、ethane+alcohol=ethanolという命名ルールである。
メタノールは工業用としてさまざまな分野で使われており、化学原料としても豊富な用途を持っている。自動車用燃料としては、メタノールを加熱して一酸化炭素と水素の合成ガスへと改質することで熱効率40%近くが実現できるとする研究もある。よりエネルギー量の高い燃料へと改質するためには、熱なり何なりのエネルギーを追加しない限り成立しないのだが、エンジンの排熱を利用することでエネルギー量が増やせる。仕組みとしてはターボと同じで、排熱を再利用するという面白い試みである。
ただし、現在主流のこうした天然ガス(化石燃料)由来原料のメタノールの場合、CO2の発生が問題となる。そこで現在グリーンメタノールと呼ばれる合成メタノールへの移行が急がれている。

ひとつはバイオメタノールで、メタンの代わりにバイオマス由来のガスを使ってメタノール合成する方法。もうひとつはH2とCO2からメタノールを合成する方法で、「e-メタノール」と呼ばれるものだ。従来のメタノールは、安価な天然ガスを原材料にすることで、エタノールに対して価格的アドバンテージを築いていたのだが、グリーン化でどの程度までコストが上がるかが大きなポイントとなる。安価なグリーン電力の実現ができるかどうかがグリーンメタノールの競争力を左右することになるだろう。

グリーンメタノールは特に船舶の燃料として期待される他、火力発電の燃料や、自動車エンジン用などの置き換え用としても注目を集めている。メタノールは水蒸気改質によって水素を生産できる他、ガソリン、航空燃料、ディーゼルなど様々な燃料の代用品への改質も可能であり、用途的な拡大の可能性は極めて大きい。量産による価格低減の可能性は大きいと見ることができる。グリーンメタノールもまた可能性を秘めたカーボンニュートラル燃料(CNF)のひとつである。