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更新日:2024.07.12 / 掲載日:2024.07.12

CNFのゲームチェンジが来た!【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 マスコミが喜んで使う「失われた30年」という言葉。そういう言葉に誘導されて、何だか未来がとても閉塞したものに思えてないだろうか。

 そのせいか、この10年ほど「ゲームチェンジャー待望論」が幅を利かせている。みなさんもよくご存知の「EV」に始まり、バッテリーがなかなか進歩しないところで期待を集める「リン酸鉄バッテリー」。最近待望論が多いのは「全固体電池」あたりだろうか。

 冷静になってみれば、どれもゲームチェンジャーとなるには決定打に欠けていた。EVはゲームチェンジャーとして多数派になるには鉱物資源が足りず、急速充電もいまだに採算を合わせるビジネスプランが生まれてこない。

 リン酸鉄は地道にシェアを伸ばしているが、やはりゲームチェンジャーを名乗るほど多数派を占めるには、エネルギー密度が足りない。高性能バッテリーというよりは、廉価なBEVのためのリーズナブルなバッテリーというイメージを超えられていない。

 全固体電池は今最も期待されているが、肝心の電解質が特殊で、当分量産が難しい。どうしても高価なものになるので、しばらくはフラッグシップ専用となるだろう。もちろんコストダウンが進めば様々な可能性があるが、それはそれで大容量高速充電が可能となると、同時に充電器ビジネスもなんとかしないと宝の持ち腐れになってしまう。

「マルチパスウェイ ワークショップ」でトヨタ、スバル、マツダが公開した新エンジンは、化石燃料から脱却し、e-fuel(合成燃料)やバイオ燃料、液体水素など多様な燃料に対応することを念頭に開発されている

 という中で、筆者はこれから最も期待できるゲームチェンジャーの候補はカーボンニュートラル燃料だと思っている。IAEの予測によれば、2035年のグローバル新車販売台数は1億1000万台となっている。先に触れた通り、この全てをBEVにするには鉱物資源の増産が全く間に合わない。2022年のBEVの販売実績が1000万台だったことを考えれば、最大値を見込んでもその3倍の3000万台程度が上限と思われる。

 それでは差分となる8000万台の需要が満たせなくなるので、BEV以外の手段でカーボンニュートラル化を進めない限り、人類は移動の自由を失う。特に物流が止まると人命に関わる事態が引き起こされるので、何が何でもその埋め合わせをしなくてはならない。

 そうなると選択肢は2つである。脱炭素を諦めて、従来の通り、化石燃料を燃やす内燃機関の利用を続けるか、化石燃料の代わりにカーボンニュートラルを可能にする合成燃料を作り出すしかない。少なくとも現状において、脱炭素を諦める話になっていない以上、人類の期待は嫌が応でもカーボンニュートラル燃料(CNF)に向かわざるを得ない。

 一口にCNFと言っても色々ある。主なものとしては、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、メタノール、E-FUEL、バイオマスが挙げられる。それぞれに一長一短があり、課題を抱えている状態だが、バイオエタノールあたりはすでにブラジルではガソリンと同等のコストで実用化済みだ。もちろんこれら全てが生き残ることは無いと思われるが、熾烈な競争を経て、この中のいくつかが生き残ると考えられる。

 その時、内燃機関の時代が大きく変わるだろう。京都議定書以降、CO2の削減は人類にとって喫緊の課題であり、化石燃料を使う内燃機関は、限界的な効率向上に挑み続けてきた。

 CO2の排出は地球環境に対する「罪」であり、手を緩めることは許されなかった。その結果内燃機関は、燃焼効率の改善がたゆまず徹底的に続けられ、エンジンは効率以外の多くのものを失って行った。

トヨタが「エンジンリボーン」を掲げ開発中の2.0L直列4気筒エンジンは、重量車からスポーツカーまで対応する

 古くからのドライバーは記憶にあるだろうが、鋳鉄ブロックとキャブレターの時代、多くのエンジンのフィールには明らかな艶があった。しかしながら燃焼効率を徹底的に改善して行くと、フィールはどんどん乾いて行く。実燃費でリッター36キロを記録するトヨタのダイナミックフォースエンジンの性能は素晴らしいが、そのフィールはカッサカサ。これまでのCO2削減至上主義の中では、そこでフィールの話をするのは御法度で、何が何でも燃焼効率の高さを褒め称えるしかなかった。

 しかしCNFを使えば、燃費が悪いことは「罪」にはならない。燃費が良くても悪くてもカーボンニュートラルであることは変わらない。問題はおそらくそれなりに高価であろうCNFのコストだけ。CNFを使う限り、財力のある人は燃費よりフィールを選ぶことができる。それはかつて、12気筒エンジンを楽しむことが罪ではなかったようにだ。

マツダが公開した「ROTARY-EV SYSTEM CONCEPT(2 ROTOR)」は高出力をねらえる2ローター構成

 つまり、CNFはもう一度、エンジンの味わう楽しみを取り戻す大きなターニングポイントになる。それは単に内燃機関が存続するというのみならず、多彩で豊かな様々なエンジンを楽しむことができる時代の復活を意味する。

 マツダがロータリーを復活させるのも、スバルが水平対向の存続を決めたのも、そこにCNFがあるからだ。筆者は一度諦めていたそういうエンジンの楽しみ方がもう一度帰ってくることが楽しみでならない。もちろん過去に多くのゲームチェンジャー候補が結局は候補のままで終わったように、不発におわることがないとは言えない。しかし、CNF内燃機関はあの日の夢をもう一度見せてくれる。多くの人がそこに期待する。そういう多くの人の意思こそが本来のゲームチェンジを産むのではないだろうか。

スバルの「次世代ハイブリッドシステム」は水平対向エンジンを採用している
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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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