車の最新技術
更新日:2024.05.20 / 掲載日:2024.05.20

シビックe:HEVでレースに挑む【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●篠原晃一

 エンジン車が主体のレースにハイブリッドカーで挑むとどうなるのか? そんな素朴な興味からもてぎEnjoy耐久レースに参戦し始めて早18年。近年では2020~2023年までフィットe:HEVで活動していたが、目的を達成してシビックe:HEVへマシンをスイッチした。

 2023年11月のミニJoy耐は車両製作がぎりぎり間に合ったタイミングでテスト的な参戦になったが、現在は2024年7月のJoy耐に向けてマシン開発とテスト走行を進めている最中だ。

 ホンダは四輪事業に参入した1960年代当時、緊急車両と見間違える可能性があるから禁止とされていた赤いボディカラーを、運輸省(現在の国土交通省)と何度も掛け合って認めさせたというヒストリーがある。ホンダ・スポーツやN360などが赤いイメージなのはそのためだ。真新しいシビックe:HEVのレーシングカーも、それにならって赤にカラーリング。スカーレットレッドと呼ばれるオレンジがかった色で、サーキットでも映えると自己満足している。

 サーキットを走るにあたっては、エンジンやトランスミッション、モーター、バッテリーを始めとしたさまざまなユニットが温度上昇しすぎてしまうため、まずはその対策が必要。レース用ラジエターに換装したり、冷やしたい場所に風があたるように導風の板などを追加したりと手を打っているが、ミニJoy耐では温度が上昇気味だったHEVオイルも対策によって問題をクリアした。ただし、本番は7月なので万全を期すことが大切だ。

 ハイブリッドシステムのe:HEVは、市販車では当然のことながら一般道に最適化されており、燃費と動力性能のバランスが図られている。バッテリー容量はクルマの大きさや重さに合わせているが、コストや効率を考えれば小さいほうがいい。だが、強い加速を連続させるサーキット走行では、バッテリーの電力をあっという間に使い切ってしまう。そこでレーシングカーでは減速時に得られる回生エネルギーを少しでも多くするべく回生量を拡大し、バッテリーの使用範囲も拡大している。それでも電力は十分ではないことから、少ない電力を効果的に満遍なく使えるように、コーナー立ち上がりで使い、120km/h程度に速度が伸びたら使わないように制御を変更。これで耐久レースの決勝をハイブリッドカーらしく、バッテリーからの電力アシストを効率的に使って走り続けることができる。

 もう一つは、予選の一発アタック用の制御もある。80km/hぐらいであまり加速・減速をさせないように走ればバッテリーの電力が貯まっていくので、それをサーキット1周で使い切るのだ。バッテリー電力100%からタイムアタックに入り、1周してきてコントロールラインを通過するところでちょうど0%になるのが理想。それに近づけるように、アシストの入れ方を工夫している。ラップタイムは決勝用に対して5~6秒は速くなる。走らせていてもその差は歴然で、モーターの力強さが高速域まで持続して気持ちいいことこの上ない。たった1周で速さがなくなってしまうのが切ないところだ。

 シャシーも着々と進化させている。前回の走行時はフロントサスペンションのキャンバー角をあまり付けられなかったのだが、今回のテストではアーム類の変更などで3度程度にはなったので、コーナーでタイヤを有効に使えるようになった。またダンパーのセッティングも進んで前後バランスが良くなっている。フィットに比べるとプラットフォームが上位のシビックだけあって、レーシングカーにして走らせてみてもクオリティの高さを感じる。激しいブレーキングやコーナリングでガタガタいうようなことがなく、動きもスムーズで予測しやすく、どんどんと攻めていけるのだ。

 もてぎはハイスピードからのフルブレーキが多く、ブレーキに厳しいサーキットとされているゆえ、今回からブレーキキャリパーおよびローターをエンドレス製のレース用パーツに組み替えた。ノーマルでもパッドさえレース用にしておけば問題なく走れるのだが、容量の大きなキャリパーにかえると安心感があってコントロール性も高まる。前述のように少しでも回生エネルギーを得たいため、ブレーキングではメカニカルブレーキを使用する比率をなるべく下げようと、一般的なサーキット走行よりも緩く長くブレーキをかけたいので、コントロール性は重要なのだ。

 いまのところレースではメジャーなパーツであるLSDは採用していないのだが、現在制作中。7月6~7日の本番の前に装着してテストする予定で、うまくいけば1~2秒はラップタイムがあがる見込みなので楽しみなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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