車の最新技術
更新日:2024.01.09 / 掲載日:2024.01.08
PHEVがクルマ好きにとって魅力的な理由【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●トヨタ、マツダ、マクラーレン、ランドローバー
モーター走行による環境対応と利便性を両立したPHEV(プラグインハイブリッドカー)は、BEV(電気自動車)よりもハードルが低く、理想的なソリューションと言われながらも思ったように販売台数が伸びていなかったが、2024年はいよいよ盛り上がりそうな気配がある。
日本のPHEVの年間販売台数は2018年が2万3240台、2019年が1万7622台、2020年が1万4741台、2021年が2万2777台、2022年が3万7772台、2023年1月~11月が4万8536台。まだ軽自動車をのぞく登録車全体の2%程度とはいえ、ここ2~3年は着実な伸びてはきている。2018年の三菱エクリプスクロスPHEVの発売、2021年のアウトランダーPHEVのフルモデルチェンジ、2022年のトヨタRAV4 PHEV、2023年のトヨタ・プリウスPHEVといったあたりが販売を押し上げているが、2023年1月~11月の4万8536台のうち6591台を占める輸入車の貢献も無視できない。車種では圧倒的に多く、また違った魅力を持っているからだ。
そもそもPHEVは、そこそこ大きめのバッテリーを搭載し、外部から充電して一定の距離はBEVと同じようにモーターだけで走行できるモデル。充電はできない一般的なハイブリッドカーのバッテリー容量は1kWh前後で、BEVは40~100kWh程度。PHEVは10~20kWhで、EV走行可能距離は50~100kmといったところだ。

もともとは、乗用車の一日あたりの平均走行距離は20~30km程度なので、それを補う分のバッテリーを搭載していれば十分に実用的で環境対応能力もあるとされ、2009年にリース販売されたトヨタ・プリウスPHVのEV走行可能距離は20km強。ただし、思うように販売台数が伸びなかった、あるいは不評だったのは、20km程度のEV走行可能距離では毎回充電しなければならず、その手間が面倒で、どうせガソリンで走れるんだからと充電をしなくなってしまうというのが要因とされた。
2代目プリウスPHVは2倍以上の68.7kmまで伸ばしたが、それでも販売は芳しくなく、どうやら100kmあたりがユーザーの満足度が高いと判明し、RAV4 PHEVや現行プリウスPHEVはそこに落ち着いた。アウトランダーは初代が約60km、現行モデルが83kmとなっており、PHEVとしてはもっともファンが多くて最初から満足度は高い。欧州車は、CO2排出量のルール上、50kmを超えると有利になるので、ほとんどの場合がそれ以上だ。
50~100km程度のEV走行可能距離ならば、条件次第でユーザーの財布の紐を緩めることができるようになってきたわけだが、2024年が盛り上がりそうなのは、そういったスペックもさることながら、クルマとしての魅力が輝くモデルが増えてきたからだ。
プリウスPHEVはスタイリッシュで走りも良くなり、クルマ好きも振り返るモデルとなった。それ以上に興味を惹かれるのはマツダMX-30 Rotary EVだろう。ロータリーエンジンの復活となった同モデルは、とくに昔を知るファンにとって胸アツだ。

ロータリーエンジンの美点は軽量コンパクトなことで、ユニットが多いPHEVにとって有利。MX-30は2.0Lレシプロ・エンジンのMHEVとBEVがすでにラインアップされているが、PHEVはバッテリー容量をBEVの半分の17.8kWhにして、なおかつMHEVと同じ50Lのガソリンタンクを備える。EV走行可能距離は107kmと十分以上のうえに、ハイブリッド走行でも770km走れるから(いずれもWLTCモード)、BEVに近い環境性能とディーゼル並の航続距離で魅力がある。これをCセグメントのボディサイズで実現しているのはロータリーエンジンの軽量コンパクトが効いているからだ。
と、クルマ好きの心を動かすのではあるが、実際に乗ってみると1ローターは何やら振動があって、サウンドは決して官能的ではない。あまり速くもなく、最高速度140km/hは日本では十分なものの、欧州では不満の声があがるだろう。スペックや価格をトヨタや三菱と比べてみると、とくにリーズナブルというわけではない。
それでも、クルマ好きに愛されるマツダだから、将来性にも賛同して応援するユーザーは少なくないだろう。スペックではなく、ストーリーで惹きつけるのだ。

輸入車勢は、さらにかわった魅力のPHEVが多い。とりわけ先鋭的なのはフェラーリ 296GTB/GTSやマクラーレン アルトゥーラといったスーパースポーツやメルセデスAMG E PERFORMANCEなど、PHEVをハイパフォーマンス化に思い切り振ったモデル達だ。
エンジンが苦手な低回転域を電気モーターで補えばパフォーマンスをあげることにも有効なのはわかりやすいところだが、電力をたっぷりと使い、回生性能も向上させたいとなると、一般的はハイブリッドカーよりもPHEV化が手っ取り早い。ただ、あまり重くしたくないから、バッテリー容量は6~7kWh程度に抑えている。その分、EV走行可能距離も短いが、エンジン車のスポーツモデルのように爆音ではなく、無音で走れるから、早朝や深夜にガレージから出て行くなんてときはじつに有効だろう。このテのモデルで燃費を気にする人は少ないかもしれないが、それでもエンジン車よりはずいぶんと改善されるので悪いことではない。

レンジローバーSV P510eは、これぞ究極のレンジローバーといった雰囲気だ。EV走行は静かで低・中速域で頼もしく、高級感たっぷり。高速域でパワーが必要となったときに頼りになる3.0L直6ガソリンターボは洗練されていて官能性も持ち合わせており、なおかつショックなどがなくてマナーもいい。ブレーキフィールも電動車としては優秀だ。ジャガー・レンジローバーは、フォーミュラEに長年参戦し、ジャガーIペイスを早いタイミングで発売したこともあって、電動車のノウハウが豊富なのだ。
変わり種ではジープ・ラングラー・アンリミテッド・ルビコン4xeも面白い存在だ。本格オフローダーのPHEVなんてミスマッチかと思われるかもしれないが、電気モーターのトルクの太さと緻密なコントロール性はオフロード走行で大いに武器になる。また、EV走行しているとさまざまなメカニカルノイズやマッドテレインタイヤのロードノイズが大きめに聞こえてくるのだが、それが不快に思えず、むしろ本格オフローダーってこんなに頑張ってくれているんだというのがエンジン車よりもわかりやすくて愛着がわいたりする。アウトドア志向の人は、自然豊かな地域を静かで排ガスを出さないEV走行ができることで気分もいいだろう。
かように、環境対応だけではなく、クルマとしての魅力が強調されたPHEVが増えてきたことが、今後の盛り上がりに繋がると期待できる。いまのところ日本の電動車のシェアはPHEVが約2%、BEVが2%弱で合計4%弱といったところだが、PHEVが躍進すれば10%程度は視野に入ってきたと言えるのだ。