車の最新技術
更新日:2023.02.28 / 掲載日:2023.02.28

【スズキ アルト】技術を磨き上げた力作を解説

文●石井昌道 写真●スズキ

 現行のスズキ・アルトは2021年12月に発売されているが、じつはタイミングを逃し続けて初試乗は2022年10月になってしまった。その後、2度ほど触れる機会があったのだが、これがじつに良くできていて、遅まきながらアルトの美点を紹介したい。
 2022年は日産サクラ/三菱eKクロスEVが発売されて脚光を浴び、軽自動車もBEV化すれば上質で頼もしいモデルになり、環境負荷低減に貢献することを再認識したものだが、一方でベーシックな技術をコツコツと磨いて超軽量に仕上げることで運動性能や燃費性能を高め、さらに製造から廃棄まで使われるエネルギーを最小限に抑えることもまた、根源的なエコロジーであることを思い知った。

アルトのボディ構造

 そもそもアルトが技術であっと言わせたのは先代の8代目。新開発されたプラットフォーム、ハーテクトは軽量と高剛性の両立を図った。7代目に比べると車両重量全体は約60kg軽く、FFの5MTなら610kg、CVTでも650kgに収まった。もともとスズキは軽量化にこだわるメーカーであり、7代目も決して重くはなかったのにそこから約1割もダイエットしたことには驚かされた。その根源となっているのがハーテクトで、コンセプトや構造をそれまでと一新した。最大の特徴はサイドメンバーがなめらかな形状でフロントからリアまで一気通貫としたことだろう。従来は直線的で車体中央部で一度分断していて、これがシンプルで軽量・高剛性にも有利と言われていたが、CAE(コンピューターにいよる開発シミュレーション)を駆使して検討を重ねた結果、屈曲部をなめらかにすることで、万が一の衝突の際にもどこかに応力が集中することなく、効率良く衝撃吸収できることがわかったという。効率がいいということは、鉄板の厚みや補強材が最小限で済み、しかるべき衝突安全性能を持ちながら大幅に軽量化できるということだ。合わせて、高張力鋼板の使用範囲を広げるなどして軽量化を果たしながら、ボディ剛性は曲げ、ねじりともに約30%向上を実現した。
 このハーテクトのコンセプトは軽自動車のみならず、登録車でも採用されスイフトも劇的な軽量・高剛性化を果たして走りの良さに貢献している。軽自動車を始めとしたベーシックカーがメインのスズキが軽量化に取り組むというと、とにかく何でも削ぎ落とすケチケチとした手法というイメージがあるかもしれないが、ハーテクトは純粋な技術力によって軽量ながら十分な衝撃吸収能力を持つのだ。
 9代目アルトもハーテクトを継承しているので、7代目から8代目のときほどジャンプアップしたわけではないが、正常進化で熟成されたことで乗り味がずいぶんと良くなった。高張力鋼板の使用範囲をさらに拡大し、バックドア、センターピラー、サイドドアには構造用接着剤を多用することで環状構造を形成。ハスラーから採用された高減衰マスチックシーラーも投入するなど、さらなる軽量・高剛性化に加え、静粛性も高めている。
 アルトとしてはマイルドハイブリッドを初採用したこともトピックの1つで、WLTCモード燃費は27.7km/Lと軽自動車トップ。マイルドハイブリッドではないモデルでも25.2km/Lと十分な性能を発揮している。

アルトの視界性能

 また、居住性が向上し、視界がすこぶるいいのも9代目アルトの特徴だ。8代目は欧州車風のデザインで個人的にもかっこ良くて好きではあったが、多くのユーザーにとってはもう少しヘッドルームの広さがあって視界もいいほうがありがたいという声があったそうだ。そこで全高を50mm高め、室内高は45mm高。室内幅も25mm拡大され、ドア開口部が20mm広げられるなど、限られた軽自動車枠のなかで居住性を最大化している。さらに、フロントウインドウおよびAピラーの角度を立てたこと、ウエストラインを35mm下げたことで、視界が開けドアミラー付近も見やすい。リアのサイドウインドウも面積が広がっているので、直接目視で斜め後方もよく見える。

 義務化が始まっているバックモニターは(正確には2022年5月から後退時車両直後確認装置が新型車で義務化になっていてソナー等でも可)、ベーシックなグレードではオプションだが、ディスプレイオーディオとのセットで5万5000円。高価なカーナビを買わなくても、ディスプレイオーディオとスマホを繋げば事足りるので、リーズナブルな装備であり、軽自動車向きとも言える。
 そして何より、アルトの魅力は軽さゆえの走りの良さだ。NAの660ccエンジンとしてはやたらと速く感じられ、日常の足としては必要十分以上。CVTの制御もまずまずで、意外なほどダイレクト感がある。サスペンションはスプリングやダンパーのセッティングを見直したそうで、快適性とフラットライドの次元が高まった。ハーテクトのポテンシャルを引き出して進化しているのだ。
 日産サクラ/三菱eKクロスEVはエポックメイキングで注目すべきモデルであり、自分もカー・オブ・ザ・イヤーでは最高得点を付けた一人ではあるが、アルトは約1/3の車両価格であり、航続距離は4倍以上。ハイテクではなくコンベンショナルな技術を磨き上げた成果が如実に表れているモデルなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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