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更新日:2022.12.26 / 掲載日:2022.12.26
【ホンダ ZR-V】リアルタイム4WDは何が優れているのか【石井昌道】

文●石井昌道 写真●ホンダ
ホンダのSUVはグローバルでの車名が統一されていないのでややこしい。日本のヴェゼルは欧州ではHR-Vと呼ばれ、北米のHR-Vは中国ではZR-Vと呼ばれ、日本でも2023年3月に発売となった。ヴェゼルとCR-Vの中間に位置するHR-Vだが、日本ではCR-Vが2022年8月に生産終了で新型導入はない見込みなので、実質的な後継車となる。

ボディサイズは全長4570×全幅1840×全高1620mmで、全長はCR-Vより35mm短く、ヴェゼルより240mm長い。それでいて全幅が広く全高が低いワイド&ローで都会的なスタイルだ。
プラットフォームはシビックと共通でパワートレーンも2.0L直噴エンジン搭載のe:HEV(ハイブリッド)と1.5Lターボ+CVTの2本立てなので、シビックのSUV版とも言えるが、大きな違いはZR-Vには4WDが用意されることだ。じつはモーター駆動を基本とするe:HEVと4WDの組み合わせは秀逸で、想像以上に走破性が高い。e:HEVのなかでもっとも高性能なエンジンである2.0L直噴を搭載するZR-Vの4WDは、大いに期待が持てるわけだ。
リアルタイムAWDと呼ばれるホンダの4WDは、FFをベースにプロペラシャフトを用いてリアに駆動を配分するシステム。e:HEVではフロントがモーター駆動(高速域・低負荷時にはエンジン駆動に切り替わるモードもある)であり、リアにもモーターを追加して4WD化するという手もあってそちらのほうがハイテクにも思えるが、高速域や高負荷時にも4WDとしての性能をしっかりと出すためにはリアモーターも高出力でなければならない。それを実現するにはリアモーターがけっこうな大きさになりスペースが必要になるが、メカニカル4WDならそれよりもコンパクトなリアデフで済むので都合がいいのだ。ZR-Vのリアデフは電子制御の湿式多板クラッチで省スペースと高い駆動力の両立を実現している。また、エンジン車の同システムに比べるとモーター駆動のため素早く緻密な制御が可能になる。

リアルタイムAWD(オール・ホイール・ドライビング)と呼んでいるのは、単なる4WDではなく、走行状況に応じて先手を打つように前後の駆動配分を細かく制御して安定性を高めているから。アクセル開度、車輪速、ステアリング舵角、ヨーレートなどのセンサー情報からクルマの状況を把握してフィードフォワードで駆動力配分を最適化する。
たとえば発進時にGセンサーから登り坂だと判断するとあらかじめリアの駆動力配分を高めておく。雪道など滑りやすい路面で一般的なFFベース4WDだと、フロントが空転してからリアへ駆動力が配分されるフィードバック制御になるが、それより格段に安定する。
ドライ路面でのコーナリングでは、アクセルオフでコーナーへ進入していくときにはリアへは駆動が配分されないため、回頭性が良くてスムーズに向きを変え、アクセルオンではリアに駆動配分されていくため、フロントタイヤは曲がる力を確保できる。
以前に群馬サイクルスポーツセンターでZR-V e:HEVのFFと4WDと乗り比べたが、コーナー立ち上がりでアクセルを強く踏み込むと、FFではアンダーステア傾向になるところ4WDではグイグイと曲がりながら加速していけた。
そもそもZR-VはSUVながら低重心でサスペンションの能力も高いので、まるでスポーツカーのようなコーナリング性能を披露するのだが、4WDが加わると鬼に金棒といった感じで最強のコーナリングマシンになる。アクセルオンでコーナーのイン側に巻き付いていくような感覚が何かに似ているなと記憶をたどったら、NSXの最終モデルであるタイプSを思い出した。
走行後にテストを担当しているエンジニアと話したところ、タイプSにも携わっていたそうで、まさにそこで得たフィーリングを再現するべく開発してきたそうだ。フロント2モーター、リア1モーターのスポーツハイブリッドSH-AWDのノウハウが、ZR-Vのe:HEV 4WDに注ぎ込まれているのだ。
街中や高速道路では引き締まったスポーティなフィーリングながら、しなやかに動くサスペンションのおかげで快適性も高く、ワインディングロードでは驚くほどのコーナリング性能を発揮。シビックはFFのe:HEVが394万0200円だが、ZR-Vは4WDのe:HEVでも389万9500円に収まっているという買い得感の高さも魅力だろう。