車の最新技術
掲載日:2022.08.19 / 更新日:2022.08.19

部品不足問題を乗り越えるために(基礎編)【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 もはや日常化しつつある部品不足問題。新車を契約しても納期は当分先。車検の都合を考えると、その納期では間に合わず、仕方なくターゲットを中古に変更する人も頻出しており、中古車相場まで高止まりしている。

 こんなことになった理由は、部品不足である。世の中では半導体の不足が理由として挙げられている。確かに半導体も理由のひとつではあるのだが、問題は半導体だけではない。いわゆる樹脂成形品や配線類などの大して高い技術の要らない部品が原因となることも多い。

 高度な技術が必要で他では入手できないのならまだしも、ごくごく普通の樹脂パーツや、ワイヤーハーネスなんてどこでも作れるじゃないか? と疑問を持った方は正しい。その通り、どこでも作れるのだ。価格を気にしないのなら。単純で誰でも作れる製品、しかもそれが手間暇がかかる労働集約的作業を要する部品は、時給が2000円の国だろうが、10円の国だろうが作れるし、それに要する用地だって、賃料が坪1万円の土地でも坪1円の土地でも生産できる。だから、先進国は全く歯が立たない。バカ高い人件費とバカ高い地代を払って作っていたのでは競争にならないのである。

 一方で、自動車を構成する3万点と言われる部品の中には、高度な技術と、高額の設備投資、それに極めて安定した電力が求められることもある。電力については少し説明が必要だろう。高度な製造装置は1秒未満の瞬間的な電力の途絶や電圧低下などの原因でシステムダウンを起こす場合がある。電力マネジメントが整備されていない国ではそもそも精密な生産設備は動かせない。

 つまり、自動車を生産するには、高度な工業力を持つ国も、人件費や土地の安い国も、どちらも等しく重要で、絶対に必要になる。個々の部品はこうした国々を巡って、「組み立て部品(アッセンブリーパーツ)」になっていく場合もある。なので、それらの国々の間、それにもちろん最終組み立てラインを持つ、例えば日本のような国が、全てFTA(自由貿易協定)を結んでいることが望ましい。FTAを結んだ国の間では、関税がかからず、輸出入の取引の簡略化などの取り組みもあることが多いからである。

 こうした考え方に最初に火をつけたのはドイツである。旧ソビエト連邦が瓦解した際に、ベルリンの壁がなくなり、すでに工業国として十分に成長し、高い人件費と土地代に苦しんでいた西ドイツの隣に、旧東ドイツというパラダイスが現れた。人件費は安いし土地代も安い上、言語の壁もないし、教育水準も高い。旧西側諸国にとっては、東西の壁が壊れたことによって、世界が2倍になった。東側諸国は、欧州の工場としての役割を果たしていくうちに、国民は豊かになり、次に消費者になっていく。

 こうした流れを横目で見ながら、トヨタが立ち上げたのがIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)プロジェクトである。トヨタのリリースからその説明を抜き出せば「世界のお客様に、より魅力的な商品をお求めやすい価格で迅速に提供するため、『需要のある地域で生産』の方針のもと、グローバルで効率的な生産・供給体制を構築」することを目指して開発された車両群である。2004年から、ピックアップトラック、ミニバン、SUVなどをリリースし、現在、アジア、南米、アフリカなど世界の多くの国と地域で生産している。つまりグローバル分業に適したエリアを全部取りに行ったのがトヨタの戦略であり、それが当たったことでトヨタはまさに躍進を遂げるのである。

 現在世界トップの座を争っているトヨタとフォルクスワーゲンの両社ともが、揃ってグローバル分業化の流れで成長を果たし、かつてのGMの牙城を突破したのである。まさに国際分業は成功の方程式であった。

 ところがそれが覆る可能性が高まりつつあるのである。日本で組み上げられるクルマの場合、主にASEANが部品供給の役割を担っている。その他だと中国である。問題はこうした広域にまたがるサプライチェーンは、同時にリスクを広げてしまうこともある点だ。今回のコロナ禍においてはその影響は大きかった。人件費や土地の安い新興国は、一般に政府予算も小さく、今回のようなグローバルな疫病蔓延時に、世界各国が一斉に治療薬やワクチンを買い求めようとすると、どうしても買い負ける。今回の場合も、そうしたことが原因になって、大規模なロックダウンが発生し、工場を稼働することができなくなった。

 そして、そういう部品不足の形は日本だけでなく世界にも広がっている。日本の場合、ASEANと中国からの部品が入らないと説明したが、欧州の場合EU圏内の旧東欧諸国からの部品、アメリカの場合は南米南部共同市場(MERCOSUR)からの部品が入らない事態が勃発した。もちろんそれぞれに少しずつ状況は異なり、ロックダウンによって発生した物流の混乱で、コンテナが枯渇したことも二次的な部品不足の原因になっていった。さらに言えば、そうした状況からの回復についてもそれぞれ事情が異なる。

 さて、こうした部品不足の動きを、当初は新型コロナという特殊要件による突発的かつ一時的混乱と見做してきた自動車業界だが、これがほぼ2年継続したことによって、すでに見方を変えている。つまり1990年代からのボーダレス化の流れで、良品廉価を達成する必勝方程式とされてきたグローバル分業化が、リスク面から見直し局面に入ったことを意味する。

つまり、2020年代に入って、急速に安定感を失った世界を背景にすれば、これまでの考え方が通用しなくなってきている。

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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