車の最新技術
更新日:2022.06.13 / 掲載日:2022.06.13

操る楽しさを備えたマツダの福祉車両【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●マツダ

 2021年12月に発売されたMAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(セルフ エンパワーメント ドライビング ビークル)」(以下、MX-30 SeDV)は手動運転装置を備えたモデル。ちょっとばかり車名が長く、噛まないで言うのが難しいぐらいだが、自らの意思で自発的に行動するといった意味合いの“セルフエンパワーメント”にマツダの思いが込められている。誰もが移動の自由を手に入れることを後押しするための手動運転装置であり、“わたしらしく生きる”というMX-30のコンセプトともマッチする。

MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle

 これまでにもロードスターなどにSeDVはあったが、MX-30がユニークなのはハンドル内側に装備されたアクセルリングとレバーブレーキによる運転システムだ。

 日本で一般的な手動運転装置であるAPレバー式は、ハンドルに片手で操作できるようノブが取り付けられ、もう一方の手で操作するレバーは引くとアクセル、押し込むとブレーキになっている。MX-30のシステムは、ハンドルのアクセルリングでアクセル操作をするのでブレーキを使わないときは両手でハンドルを握っていられるのがメリットとなる。

MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle

 運転席側のドアを開けると折りたたみ式の移乗ボードがある。これを広げれば、車いすから乗り込むときに身体や手を支えやすく足入れも楽だ。ワンタッチ式なので操作もしやすく、またサイドエアバッグと干渉しないようにも考えられている。移乗ボードに座った状態で後席側ドアを簡単に開けられるのは観音開きのフリースタイルドアが採用されているMX-30の特徴であり、車いすを載せやすいという。今回の取材では車いすを用意していなかったので確かめられなかったが、ユーザーがもっとも気になるところだろう。

 移乗ボードを畳んでドアを閉めシートベルトを装着、マツダ車の美点である調整幅の広いチルト&テレスコピックやシートを自分好みに合わせれば用意は完了。レバーブレーキを操作する左手の肘部分にはブレーキサポートボードがあり、ここに肘をあずけることで支点となって操作の正確性が高まるようになっている。

 エンジンをかけるには(EVならばシステムオン)、ブレーキがかけた状態でエンジン始動のボタンを押す必要があるが、レバーブレーキにはボタンで操作するロック機構があるので、押し込んでロック。ボタンを押してエンジン始動。そしてブレーキロックを解除すればクリープで進んでいく状態になる。

 アクセルリングは押し込むと加速するが、その反力に段差をつけた直感コントロール機能付となっている。最初は軽く押し込めるが、感覚的に1割ぐらいいったところで反力が強まり、そこをキープするのが容易いのが特徴。ここまで押すとクリープから徐行程度になり、駐車場から出て行くときや交差点で少しだけクルマを前に進めたいシーンなどで扱いやすい。さらにアクセルリングを押し込んでいけばスムーズに加速していく。ちなみに、スタンダードなMX-30に対してSeDVは、アクセルの特性を少し穏やかにしているという。手や指によるアクセル操作に慣れていなくても、飛び出し感がなくて安心だ。

 アクセルリングは、スポーク上のボタンが操作しやすいような形状をしているがそれ以外はほぼ全周に渡って配されているのでアクセルがどの舵角にあっても操作がしやすい。最初は親指で操作していたが、母指球(親指の付け根の盛り上がっているところ)を使って押していくほうが疲れなくて安定したアクセル操作が可能。ハンドル操作もスムーズだった。レバーブレーキは常に手を置いておく必要はないので、両手でハンドル操作が可能なのはやはり最大のメリットだ。正確かつ繊細な操作ができるうえ、身体の安定感も増すので安心・安全なドライビングとなる。

 ブレーキのフィーリングもまた絶品だった。押し込み具合によってじょじょに反力が増していき、ブレーキの効き具合がリニアに高まっていく。押し込んだ力を戻していくときのブレーキの抜き加減も自由自在で、足でブレーキをかけるよりも上手に思えるほどだ。これならばショーファー並にスムーズな運転が可能だから、ドライバーにとって操る楽しみがあるし、同乗者に心地いい乗り心地を提供することもできる。アクセルリング式のSeDVは、運転の楽しさを最大限に引き出すシステムだと言えるだろう。

 APレバー式のほうが優れているのは、車庫入れやUターンのときなど、ノブでクルクルと素早く大舵角を与えられることだ。アクセルリング式で車庫入れなどをするとき、両手でハンドルをたくさん回そうとすればブレーキロックを使う必要があって、少し煩わしい。だから、APレバー式に慣れていてスムーズに運転できると満足しているのならばそれでいいかもしれない。

 だが、本質的な運転の楽しさを最大限に引き出せるのはアクセルリング式のSeDVだろう。身体が安定して疲労軽減にもなるので、より遠くまで出かけたくなるはずだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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