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更新日:2025.11.07 / 掲載日:2025.11.07

モビショーのトレンド1 次世代セダンパッケージの模索【池田直渡】

文●池田直渡 写真●トヨタ、レクサス、マツダ

 この週末で千秋楽を迎えるジャパンモビリティショー2025だが、大量に発表されたコンセプトカーなどの向こうに大きなテーマが2つ見える。ひとつは次世代セダンパッケージの模索。もうひとつは次世代物流への提案である。

 今回は次世代セダンの話をしてみよう。この10年、セダンはすっかり売れなくなった。室内空間の広さと走行性能のバランスに優れることで長らく自動車の代表となってきたセダンだが、交通量の増加による速度の低下と、技術向上による走行性能の向上によって、必ずしもセダンでなくても、走行性能に不満を感じることが少なくなった。その象徴がミニバンとSUVの台頭である。

 どちらもセダンと比較して、大きなエアボリュームを持ち、今や走りの面でも、日常使用で不便は感じない。そもそも「そんなに飛ばさないし」という人にとってはエアボリュームの方がメリットが大きいのだ。

 その結果、セダンはどんどん数を減らし、いまや絶滅危惧種になっている。なにしろあのセンチュリーですら、SUVモデルやクーペが追加されているあたり大きな時代の転換を感じざるを得ない。

 一方「ミニバンとSUVばかりになっていいのか?」と危惧する人も決して少なくない。今隆盛を誇るSUVもいつまで続くかわからない。だからセダンのアップデートはどのメーカーにとっても重要な課題なのだ。今回のモビショーでは、そうした新世代セダンのパッケージについて各社様々な提案がなされている。トヨタ中心にはなるがそれを順に追ってみよう。

 まずは話題になったセンチュリークーペである。通常クーペとは前席左右の2人のためのクルマ。ところがこのセンチュリークーペは運転席と助手席の間に衝立が置かれ、助手席のVIPのためのショーファードリブンカーとして仕立てられいる。人をひとり運ぶことを考えれば、VIPのために十分な空間が用意されれば、それ以外を求めないと考えることもでき、センチュリークーペはそのためにデザインのリソースを華やかなクーペデザインに振ってある。実は考え方によってはこれはVIP1名のためのセダンと考えることもできる。

レクサス LSコンセプト

 次に、レクサスのLSコンセプトだ。小径のリヤタイヤを採用することによってリヤコンパートメントの空間をさらに大きくすることを軸に据えたレクサスLSは、見た目こそミニバンに近いが、明らかに高級セダンのプローポーザルである。タイヤを小径にした分リヤを2軸、4輪の計6輪車に仕立てたのは広大な空間のためだ。

 一方この6輪のLSコンセプトをちゃんと走らせようとすれば、AWS(全輪操舵)とAWD(全輪駆動)になるはずで、現実的な技術アプローチはBEVになるはずだ。リヤ前後輪の駆動力制御によってピッチングを完全に消したり、車線変更の同位相操舵によって、ヨーの起きない車線変更が可能になる。それはセダンの乗り心地の新地平を拓くものになるはずだ。

 レクサスLSクーペコンセプトはSUVスタイルのセダンである。ルーフのピークを後ろに下げて、リヤの居住性を確保し、かつ空力的に理想的な角度でルーフを下げていった結果、二段ルーフデザインになっている。見た目はクーペライクSUVだが、その室内空間の見切り方はセダンのそれである。

トヨタ カローラ コンセプト

 カローラコンセプトも新しいセダンの模索である。カローラシリーズにはカローラクロスがあり、広い室内とSUVスタイル、リーズナブルな価格設定で、カローラシリーズの6割を占拠してしまった。その圧倒的な市場の支持の前には、次世代セダンは同じ土俵では勝負できない。だから位置をずらすしかない。

 多分、13代目の次期カローラは、バッテリー搭載が標準でデザインされる最初のカローラになる。12代目は「電動化対応モデル」だったが13代目は「電動化前提モデル」になるわけだ。となると、モデル途中でBEVモデルが追加される可能性が高い。HEVとBEVをそれぞれ専用シャシーで作れればそれぞれに理想化できるが、BEVの販売量では専用シャシーの開発費がリクープできない。だからBEVとして電費が稼げるパッケージに、売れて稼いでいるHEVモデルが寄せていかないとBEVの商品力が死ぬ。

 トヨタは以前より、ショートストローク化で全高を落としたエンジンを開発しており、このエンジンを採用することによって、極端に低いボンネットを可能にした。というのも電動化前提シャシーは当然床下にバッテリースペースが必要であり、その上にキャビンを構築すればルーフを低くするにも限界がある。

 空気抵抗は、言うまでもなく、前面投影面積×CD(空気抵抗係数)であり、キャビン空間の都合上、全面投影面積が下がらなければ、CD値で何とかするしかない。そこでコンパクトなエンジを前提にミッドシップスポーツカー並みに低いボンネットを実現してみせた。

 実用性の高さ絶対重視の人にはカローラクロスを、一方でそこは従来のセダン並みで良いと言う人には、圧倒的なデザイン性を追加してセダンの新時代を提案するのがカローラコンセプトである。

 トヨタグループ以外では、マツダのビジョンXクーぺがまさに新世代パッケージの提案である。床下バッテリーをネイティブにしたデザインにおいて、何も考えなければドアが厚くなってぼってりしたデザインになる。テスラのモデルYを見れば明らかで、モデルYでは半分をガラスに半分をドアに按分して、回避しているが、特に前後ガラスの縦横比が縦長でスタイリッシュとは言い難い。クルマのデザインは「低く・薄く」がカッコよく見える。これは善悪の話ではなく、暖色や寒色が温かみや涼しさを感じるのと同じで、人の感性がそうなっているので避けようがない。

 と言う中でビジョンXでは前後のフェンダーの張り出した造形でフェンダーパネルの間延び感を消し、またフロントドアのヒンジを敢えて外に出して、メッキパーツとし、Aピラー下のパネルを上下で分割して薄く見せている。またドア面でも凹面(インバース面)を上手く使うことで厚さを感じさせないように仕立てられている。もっとも一番大きい手品の種は全長で、縦横比がおかしく見えないようにボディを伸ばしている。5050mm×1995mm×1480mm、ホイールベースは3080mmという数字を見ると、このままでは生産車にはならない。あくまでも床下バッテリー時代の自動車デザインをスタイリッシュにするための習作であると捉えた方がいい。マツダは電動化時代の魂動デザインへの準備を始めたのである。

 さて、SUV全盛時代がいつまで続くのかはわからないが、おそらく、セダンのデザインにテコ入れが必要なのは間違いない。そこで競い合うことでまた大きく時代は転換していくのだと思う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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