車のニュース
更新日:2024.03.01 / 掲載日:2024.02.23

ダイハツは何故必要か?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ダイハツ

 日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機と、トヨタグループの企業で続け様に不正が発覚したのはすでに読者の皆さんご存知の通り。しかも不正そのものはどれも悪質で、情状酌量の余地はほぼない。そこまでは筆者も同じなのだが、そこからどうも意見が合わない人がいる。

 以下、特にどの社というわけではなく一般論。いや一般論というより、むしろどの社にも当てはまる話でもあるという印象を持っている。

 まずはやらかした側が、謝罪会見の席でいきなり「信頼回復」と言い出すのは、どうにも図々しく感じる。まずは深く謝罪するとともに、損害を被った、あるいは被るユーザーや取引先、販売店などに対して、誠心誠意の対応を行うことであり、ユーザーの話を例にとれば、手元にある車両が安心して使えるのかどうか。あるいは使える様にできるのかを真摯に説明するのが第一だろう。

 少なくとも最初の謝罪の席で、メーカー自身の先行きの話など二の次である。常識的に考えて、被害者救済も緒に付かない段階で、信頼回復だの旧に復するための方策だのを言い出すのは筋が違うと思う。

2024年2月13日に行われたダイハツとトヨタによる記者会見では、ダイハツの新体制について発表が行われた

 そしてもう一方の意見が合わない人たち。これは主に大手メディアや、ニュースの受け取り手の側だと思ってもらいたいのだが、不正と聞いた途端、焦点を合わせる先が「お仕置き」の話に終始する。

 記者会見では「誰が引責辞任するのか?」とか、「補償総額はいくら準備するのか」とかの質問がポンポン出るのだが、逆に聞きたいが社長のクビを発表したらそれでこれだけの問題を済ますのだろうか? 普通に考えて、再発防止を徹底する中で、精査の末、最適な組閣をした時に、結果として社長交代という話になるのが筋だと思えるのである。こういう不祥事に際し、政局的というか人事の話題が中心になる考え方がわからない。本質論で言えば、これらの不祥事はユーザー不在で会社の都合を優先したことが問題なはず。メディアの側もユーザー不在で話を進めるつもりなのだろうか?

 補償総額にしても、どこにどういう損害が出て、それは何をどうすれば回避できるのかの検討を経ずして、ただ大きく見える金額を言えばいいのだろうか? 例えばの話ダイハツ車を営業車で使っている会社で、車検が間も無く切れるクルマがあるなら、そこに代車を入れて困らない様にするとか、困りごとが多様ならその救済策も多様であり、それはひとつずつしっかり対話を重ねて考えていくより他ない。その積み上げた結果が金額になるのであって、どう考えても最初に予算を決めて、その予算を使い切ったからもう補償しないなんて話はあり得ないではないか。あるいは困りごとを仔細に見ることを怠って「金は払った」という姿勢をアリだとするのだろうか?

 日経系列の技術系デジタルメディアの記者に至ってはちょっとびっくりする質問があった。

 「トヨタの小型車についてスズキという資本提携されている他の会社があります。コスト競争力もスズキの方が高いという声をよく聞きます。ダイハツじゃなくてスズキに小型車を任せるという方法はありませんか?」

 資本主義の大原則は多様性の拡大であって、そういう表層的優劣によって存続を決めるという「優生保護法」的見解をこの21世紀に平然と言い放つ見識はちょっとすごいなと思った。そんなことを言ったらトヨタがあれば世界に他の自動車メーカーは要らないことになるし、ウォール・ストリート・ジャーナルがあるので日経も要らない。

 断っておくが、筆者はトヨタだけでいいとも日経が要らないとも思っていない。人類は弱肉強食の世界において、弱者をみんなで救済するという他の生物が持たない方法を選択し、弱者が持っている個性をも社会に活かすことで発展してきた。それが人類の知恵である。

 原則論として、より多くの選択肢を残し、その競争によって進化が進む。もちろん「公共の福祉」の概念から存続することが社会に害になるケースはないとは言わないが、それを淘汰するのはマーケットの役割だ。「この会社の理念は社会に対して危険だ」と思えば、その会社の製品を選ばない。投資家は投資をしない。取引会社は取引をしない。そういうマーケットの多数合意によって淘汰されることは、資本主義の摂理だと思うが、たかが個人がどうして「この会社は滅ぼすべき」などと傲慢なことが言えるのかが本当にわからない。

 ダイハツの技術は決して低くはない。特に安価なコンパクトカーを作る技術に秀でている。マレーシアの「プロドゥア社」に資本参加し、ダイハツ車をベースとする「マイヴィ」や「アジア」でASEAN各国の発展に大きく貢献してきた。それはトヨタ自身が大いに認めている。トヨタは、2011年、自社製の新興国専用車「エティオス」を世界に先駆けてインドを皮切りにアジア各国で発売したが、2020年までには後継車をダイハツ・アギアやスズキ・バレーノのOEMモデルに切り替えて生産終了という散々な目に遭っている。

ダイハツ アジアはマレーシアで国民車として愛用されている

 数年前、トヨタ幹部のひとりは筆者に「ダイハツが100%子会社になって、どうしてあんなに安くクルマが作れるかが色々わかった。従来も資本は入れていたが、100%になるともっと色んなことがわかる。われわれはまだ小さいクルマを安く作る技術において劣っている。ダイハツに追いつけていない」と語った。

 そういう部分をしてトヨタは今回の会見で「ダイハツの技術へのリスペクトがある」と再三述べている。スズキがインドで強い支持を受けているようにダイハツはASEANで強い支持を受けている。それは技術の証でもある。ダイハツとスズキは主戦場も違うし、クルマ作りの方法や技術もそれぞれ違う。それを乱暴に優劣を付けたって意味がない。

 もちろんダイハツは、今回の不正の問題にしっかりとメスを入れて、企業体質を改めなくてはならない。それは簡単な話ではないと思う。しかしながら、ダイハツが120年の時をかけて、「1ミリ、1グラム、1秒、1円」にこだわり抜いて磨いてきた技術は確かにそこにあり、アジアの人の生活を支えている。

 血を流す改革をしっかりやり抜いて、再び彼らの技術を武器に日本の自動車産業の一員として日本経済に貢献して行くことこそが、ダイハツの責任の果たし方だし、我々メディアの本来の役割は、そのダイハツの更生を厳しく叱咤激励していくべきだと思う。きびしいお仕置きで自分や周りの気持ちを晴らすことは本来の姿ではないと思うのだ。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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