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更新日:2023.07.28 / 掲載日:2023.07.28

ルノー日産アライアンスの新しい形【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ルノー、日産

 7月26日、ルノーグループと日産自動車は23年2月に締結・発表された新しい枠組み合意を踏まえた最終契約を締結し、これを発表した。

 すでに2月の時点で、この枠組みの意味の解説記事を一度書いたのだが、その時憶測も交えて書いた話が予想通り着陸した。

 99年に経営危機を迎えた日産を救済したルノーは、その後も株式取得を進め、最大で 43.3%を持ち、日産を子会社化するまであと一歩まで迫った。この支配的関係がルノーと日産の関係をむしろ束縛していったのである。

 日産は大幅なリストラによって業績を回復し、利益でも技術でもルノーをリードし、ルノーは株式支配でそれらの利益と技術を吸い上げ続けた。有体に言えば子が親を養っている状態が長く続き、両社の関係は「株式上の支配関係はルノーが強く、キャッシュフローと技術の関係では日産が強い」という捻れた関係だったのである。

 それで平穏なアライアンス関係が維持できるわけもなく、相互に不信感が募り、互いに言いたいことも言えないという意味で、アライアンスの機能不全に至ったのである。詳細は過去記事をご参照いただくとして、とにかくこのアライアンスの捩れを解決しないことには先に進めない状態にあった。

 おそらく、これを放置したままではダメなことは誰の目にも明らかだったはずだが、それぞれの思惑もあり、相互にフリーズしたまま身動きができなかった。潮目が変わったのは、ルノーからも日産からもこのアライアンスを締結した時の主要メンバーがいなくなったからだ。

2023年2月のルノー・日産・三菱自動車アライアンス記者会見

 アライアンス会長のジャン・ドミニク・スナール氏、日産自動車 社長兼CEOの内田誠氏、ルノーグループCEOのルカ デメオ氏が、この火中の栗を拾う決意をしなければ、この不幸な関係はずっと続いただろう。

 会見の様子を見る限り、まずこの3人がしっかり腹を割って、信頼を築いたことが最初の一歩だった。そしてお互いに優越的メリットを放棄し、最終的に15%を相互に持ち合い、その比率内で許される議決権を恨みっこなしで行使できる関係を作り上げた。

 もちろん背景にはそうしなければならない原因がある。ひとつはバッテリーの確保という重要な課題。そしてもうひとつは米国のインフレ抑制法(IRA)という資本主義の流れを大きく変える法律の施行である。

 ルノーも日産もグローバル企業であり、世界のあらゆるところでクルマを作って行く。そのためにはエリアごとにサプライヤーが必要だが、BEVの最重要パーツであるバッテリーに関しては、全世界一括で安定供給できるサプライヤーは存在しない。しかもIRAによって、経済のブロック化は進み、相手国での部品調達と最終組み立てが、多額の補助金の条件となる状況が出来上がってしまった。

 アメリカの例で言えば「条件を満たすBEVを購入したら7500ドルの税控除を与える」という法律で、平たく言えば、「期間中にアメリカ製のBEVを購入すれば、今年あなたが払った税金の内100万円をもれなくキャッシュバック」という制度。

 自由経済の旗頭であるアメリカによる自由経済の破壊だが、そういうルール破りを20年以上続けてきた中国に、このまましてやられないためにはやむを得ない事情もよくわかる。事情が同じ欧州は、おそらく国境炭素税を使って同じようなブロック化を進めていくだろう。「悪貨は良貨を駆逐する」という現実を目の前で見せられた。GATTからWTOへと続いた世界貿易のルールが今、瓦解して行く。

新型ルノー5のメカニカルイラストレーション。駆動用バッテリーは電気自動車においてもっともコストのかかる重要な部品だ

 つまり、グローバルな自動車メーカーは、これから世界の主要マーケットに自社工場を持ち、そのエリア内の相手国サプライヤーから部品を購入しなければ生き残れなくなる。

 つまり二股交際どころではなく、現地ごとのパートナーを持つことが生き残りのキーである。パートナー開拓戦争が始まっているにも関わらず、お互いに相手を潰せるくらいの弱みを握り合った敵対的とも言える腐れ縁の配偶者があっては、行くも退くもどうにもならない。

 お互いに15%の範囲で、そして地域の都合が優先しない範囲では最恵国待遇で遇しつつ、事情のある地域では機動的かつ、自由にパートナーを選べる形に建てつけたのが今回のリアライアンスである。あの難しい手詰まりの状況から、今必要な機動性を手に入れたという意味で、今回の最終契約は、アライアンス各社にとって、生存を賭けた大きなミッションを成功させたという意味で、極めて大きい成果である。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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