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更新日:2023.01.13 / 掲載日:2023.01.13

ソニー・ホンダAFEELAのデザインを検分する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ソニー・ホンダ・モビリティ

 ソニー・ホンダモビリティは、かねてより話題の電気自動車(BEV)「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプを「CES2023」でお披露目した。

 多くの注目を集めたアフィーラだったが、ソニーとホンダのタッグが一体どのような先進的な技術を導入するのかについては、ほとんど発表らしい発表がなかった。要するによくわからない。語れることはデザインだけだ。

 そんなわけで、あちこちからそのスタイルについての意見が聞こえてきたのだが、どうも評判が芳しくない。中には「何であんまりピンとこないのでしょうか?」と筆者に意見を求める人もいて、今回はデザインにポイントを絞って説明してみる。ソニーが独自に進めていた時のプロトタイプ、VISION-Sとアフィーラを並べて考えていきたい。

 2台を比べて、最もわかりやすいのは、ボディサイドを走るプレスラインの有無である。アフィーラは可能な限りプレスラインを無くし、すっきりクールに、そして未来的に見せようとしている。プレスラインなんてものは無いなら無い方がいいので、肯定したいところだが、ただ無くせばいいというものではない。

 クルマは4つのタイヤで路面と力のやり取りをして、前方へ向けて疾走する移動体である。タイヤが踏ん張っている感じと、そのタイヤがボディで支えられているイメージは圧倒的にVISION-Sの方が備えている。それは何故か?

 まずはホイールである。車軸からタイヤへ伸びるスポークは、クルマの重量を支えて、力を伝えるものだ。だから基本的にはスポークは末広がりが正しい。さらにVISION-Sは、スポークにねじりが加えられ、いかにも回りそうな形になっている。そこがアフィーラは全くダメだ。中心の円盤と円柱のスポークで幾何的なデザイン処理をすることでクールさを出したいという狙いはわからないではないが、これはクールを通り越して無表情。神殿とかそういう不動の存在を強調する際に使われるデザインである。

 その前後輪をつなぐボディパネルはどうかと言えば、ここも無表情。VISION-Sでは、サイドスカートをブラックアウトして、サイドシルにアーチ状の影を付けて、弓形にしなった形でホイールをつなぐことで、ボディの力感を表している。そこに気が付けば、サイドのプレスラインもまた、アーチを描きつつ、プレスライン上の、ドアハンドル部の膨らみを梁(はり)に見立てて、力を受け止める形を表していることがわかる。プレスラインを止めたいのであれば、ボディ側面のシェイプそのものが力を受け止める形になっていなくてはならない。そういう意匠は難しいから多くのデザイナーがプレスラインに頼ってきたのであり、ただ闇雲にプレスラインを否定して止めただけでは解決しない。

ソニー・ホンダ・モビリティ アフィーラ

 もうひとつ違うのはルーフからテールへ降りてくるラインの処理である。尻下がりで終わるアフィーラに対して、VISION-Sはテールランプ側面視グラフィックをウエッジ状にデザインすることで、ルーフからの流れを一度受け止め、最終的に跳ね上げて見える形にしてある。アフィーラではむしろ尻下がりを強調するような後ろ下がりになるランプの側面デザインになっている。それらの総合的な結果として、リヤフェンダーが間延びして見えてしまっている。ここは気をつけないと間延びするデザインの鬼門である。VISION-Sでは、後ろに行くほどリヤフェンダーが膨らんで見えるハイライトを入れ、さらに周辺の線の要素が集中線の様にホイールに向かっているおかげで間延びしていない。上手いデザインではないが少なくとも基本は外していないのだ。

ソニー VISION-S

 もうひとつ、このリアフェンダー付近には、よろしくないところがある。VISION-Sを見るとCピラーの前端はギリギリ後輪の中心より前にあり、ドアのオープニングラインを使って後輪の上にピラーが乗っている構造に見せている。ところがアフィーラでは、6ライトウインドウの窓がそこにあり、一番力を支えて見せなくてはいけないところに構造材がない。要するにここにもタイヤを支えるデザインがない。これは純粋にボディ構造としても、リヤショックの付け根付近の剛性が取りにくいなど、性能にも影響を与えかねない。

 最後、極め付けが、前を向いて走りそうにない。例えばVISION-Sではヘッドランプの後端が切れ長に上へ伸びて、進行方向を示している。それはフロントフェンダーのエアアウトレットも同じだ。極めてわかりやすく矢印形状をしている。アフィーラはこれを完全に水平にして方向性を消した。ソニーがマグナと組んで作ったモデルが「クルマらしい形」であり、ソニーがホンダと組んだそれらを失うことがあるのだろうか?

これは推測に過ぎないが、ホンダが過度に自制しているのではないか? 口出しすれば新しいものができない。だから、ソニーに任せて、一歩引く。そういうやり方でうまく行くこともあるかもしれないが、今回のコンセプトカーを見る限り、ホンダは、クルマの形について、ちゃんと意見を述べた方が良いと思う。

 まあ何でこうなったのかはよくわからないが、少なくともクルマのデザインがわかっている人がやった仕事ではないと感じる。クルマらしくしないことが価値なのだとしたらそれは成功なのかもしれないが、別の何かとしてカッコいいという声が聞こえてこないとそれは厳しい。

 筆者は、アフィーラを見て保険会社のCMに出てくるCGのクルマとか、アニメに出てくる架空のクルマをイメージした。クルマを知らない人が作ったそれっぽいデザイン。まあそれが狙いなら仕方ないのだが、ホンダにはそれがわかる人がウヨウヨいるはずなので、彼らの見識もちゃんと使った方が良い。なんだか「クルマ屋に作らせたら新しいものはできない」という決めつけのようなものを感じるのである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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