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更新日:2024.02.25 / 掲載日:2024.02.16

Bセグマーケットに新展開【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●レクサス、日産、三菱、スズキ

 Bセグを巡る状況は、かなり複雑なことになっていて、日本だけ見ていてもわからない部分もある。

 日産のマーチは国内販売を終了したが、欧州では生産を続けている。そしてそもそも、2016年に欧州向けに発売されたK14型は、国内で販売されることはなく、欧州でK14型が発売されて以降も、旧世代というか新興国向けモデルのK13型を国内で継続販売し続けた意味はわかるようなわからないような。

 類似の例では三菱自動車のミラージュがある。かつてのミラージュは確実に一線級のBセグメントカーであり、日本国内はもとより、世界各地で戦えるモデルであった。しかしながらこのクラスの地盤沈下とともに、2003年に一度販売を中断し、10年後に復活した時には新興国需要をターゲットにしたタイ生産モデルとなっていた。こちらも2023年に国内向け販売を終了している。

日産マーチは1982年の初代以来、30年にわたり日本のBセグメント需要に応えてきたが2022年に国内向けの販売を終了した

 そもそもにおいて、現在のA・Bセグメントには2つのマーケットが存在するのだ。新興国のファミリーカーとして、安くて頑丈な下駄となるエントリークラスの車両。代表例として挙げるとすれば昨今世間を騒がせているダイハツの「アイラ」や「アジア」、「マイヴィ」の様なクルマである。K13型のマーチや、再生産後のミラージュはここに属していた。

 ではもうひとつのクラスはと言えば、先進国で求められる、小さいがクオリティの高いクルマである。価格だって多少は高くできる。

 わかりやすい例で言えばBMWの「ミニ」やVWの「ポロ」。若干決めつけ気味に言えば、「家族4人乗って遠出の時はファーストカーのベンツEクラスを使っているけれど、普段の買い物や子供の送迎用に小洒落て品質の良いコンパクトカーが欲しい。安っぽいのは嫌よ」という層である。

 実は、日産マーチもK14型の方はこっち組。まあだったら日本マーケットを何と心得ると言いたいところで、なぜ先進国向けのK14を売らずに、新興国用のK13をキャリーオーバーで販売したのかということになる。

 それは三菱自動車が新興国用に作ったはずのミラージュを日本国内でも販売した話も同じだ。ダイハツは新興国モデルのアイラもアジアもマイヴィも日本で売ろうとしたりはしていない。まあ一部国内用モデルの兄弟車はあるが、少なくともそのまんま売る様な雑なマーケティングはしていないのだ。

三菱のミラージュは日本市場の品質要求に応えるため、生産国のタイだけでなく、日本への陸上げ時にも品質検査を行なっていた

 そういう形になった理由は、欧州マーケットと日本の距離にある。先進国用コンパクトのマーケットは日米欧中であり、新興国マーケットはASEANとインド。あるいは東欧圏や南欧あたりにも多少マーケットがある。先進国モデルがないと話にならない欧州で作ったクルマを日本まで輸送したのでは輸送費が嵩んで採算が合わない。それはまた新興国で作ったクルマでも同じかさらに深刻で、コンパクトカーの利幅そのものが長距離輸送を困難にするからだ。

 国内マーケットの縮小に伴って、日本独自で採算が合う台数が生産できなくなった結果、それでもBセグを売りたければ、距離的に辻褄が合うアジア向けモデルで間に合わせるしかなかったのではないかと筆者は推測している。そして結局それでは顧客は満足しなかったことが、マーチとミラージュの販売終了で証明された形である。

 結局のところ、日本で売るにはハイブリッドが必須で、トヨタならヤリスとアクア、ホンダならフィット、日産ならノートという棲み分けに落ち着きつつある。微妙になってきたのはマツダ2で、狙いは先進国向けなのだが、今のところハイブリッドモデルがない。デビュー年次も古く、ここから一体どういう手を打つのかが注目される。

7年ぶりのフルモデルチェンジを受けて全方位的に実力を高めたスズキ スイフト

 そこに今回2台のBセグメントが加わった。1台はスズキのスイフトである。スターターが駆動モーターも兼ねるISGタイプのマイルドハイブリッドを搭載したベーシックカーで、メカニズム構成を見る限り基本はコスト優先型。先進国型と新興国型の境目を狙うスズキらしいBセグメントモデルである。

 他銘柄が日本でのベーシックモデルを終売したので、スイフトはそこで残存者利益が狙える可能性が高い。クルマの出来はすこぶる良いので、選択肢が減る一方のBセグメントに取っては福音である。

 そして、レクサスからはこのクラス初の高級車としてLBXが投入された。ヤリス、アクア、フィット、ノートに対して相当に振り幅の大きい上位に位置し、価格的には倍近い。こちらも出来は相当に良い。LBXはおそらく他銘柄から顧客を奪うと言うよりは、上のクラスから顧客をBセグメントに引き入れる役割を果たすだろう。

レクサス LBXはレクサスの顧客や輸入車ユーザーなどもターゲットに、小さな高級車として開発されている

 ということで、各社がBセグメントで同じ志向の顧客のパイの奪い合いを演じている横から、隙間を狙った2台が上下から攻略を始めた図である。戦線の行方に注目したい。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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