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更新日:2019.01.27 / 掲載日:2017.11.29
トヨタ86最終チェック雪上の実力
雪上で明らかになるトヨタ86の挙動

新井敏弘選手のテクニックで、トヨタ86は自由自在に雪上を駆ける!
【本記事は2013年2月にベストカーに掲載された記事となります。】12年デビューした、トヨタ86/スバルBRZは、久々に登場したFRクーペとして大きな話題を振りまいている。しかもただ、クルマが発売されただけでなく、積極的にモータースポーツに参加できるように、ワンメークレース用のベース車まで発売された。トヨタ86は全日本ラリーの開幕戦から出場を果たし、さらにニュルブルクリンク24時間レースにも参戦。スバルBRZはスーパーGTのGT300クラスと、全日本ジムカーナに出場している。86はFRながら、グラベルのラリー北海道で優勝するなど、侮れないパフォーマンスを秘めている。そこで今回は、グリップの低い雪上でのトヨタ86のポテンシャルを、世界的なラリーストの新井敏弘選手に検証してもらった。スバルBRZでも雪上走行はまだ試していないということで、新井選手も今回のテストを楽しみにしていたとのこと。雪上で明らかになるトヨタ86の挙動雪道というと、圧倒的にAWDが有利だということは、皆さんもよくわかっているとは思うけど、クルマの基本的な挙動を覚えたいのなら、雪道をFRで走ってみるのが一番いいというのが、ボクの長年の持論だ。今回は、いま一番旬なFRスポーツであるトヨタ86を、雪の群馬サイクルスポーツセンターでテストする機会に恵まれた。アライモータースポーツにはBRZがあるのだが、まだ雪道を走らせたことはないので、これが初の雪上走行だ!その走りは想像どおり、非常に好ましいものだった。アクセルで自由に向きを変えられるのがFR車の楽しみだが、実はひと昔前のFRだと、下り坂はアンダーが出やすく、どこでも自由に振り回すのには、かなりのスキルが要求された。ところが、86は重心高が低く、回頭性が高いので、アンダーが出にくい。また、ほどよいパワーがあるのでコントローラブルで本当に楽しい。ボディ剛性が高くて、クルマにダルな部分というか、操作系のアソビが少ないので、雪上で「ヒャッホー」と走るには、それなりのスキルと集中力が必要にはなるが、それがまた楽しい部分でもあるのだ!
VSCやTRCの設定を変えて走る

VSCやTRCで走りが変わる トヨタ86はスタビリティコントロールやトラクションコントロールを切ることで、リアの特性を変えられるのだ
86とBRZを比較すると、BRZの方がややスタビリティが高いので、速さや安定性ではBRZに分がある。だが、FRらしくアクセルで向きをコントロールするのは、86のほうが向いているかもしれない。このへんは大きな違いではなく、味付けの違いといった感じだ。雪上でFRの86を楽しむには、ある程度のスキルと集中力が必要だが、VSC(車両安定装置)やTRC(トラクションコントロール)などの賢い電子デバイスが装備されているので、低ミュー路でも危険性は低い。試しにいろいろな設定で走ってみたが、ノーマルモードだと雪上では介入度が高すぎて、安全だけど面白くはない。スポーツVSC+TRCだと、少し高い回転をキープしたまま、出口だけちょっとリアが出る感じ。スポーツVSC・ON/TRC・OFFだと、テールが流れてもカウンターを当てるほどはクルマが動かないので、このモードが一番おすすめかな。VSCもTRCもOFFにすると、上級者にはコントロールしやすい。しかし、リスクが大きいので、安全な場所で試すだけにしよう。雪の中を2LNAのFRで走るのは、他のクルマでは味わえない楽しみがあるし、86の完成度の高さも確認できた。
86を雪中でうまく走らせるためのFR雪テクニック

FRはフロントがロックしやすい 一般的にFRは、フロントに駆動力がないため前輪がロックしやすい。雪で路面のグリップが低いので、ブレーキング時に前荷重がかかりにくいのもその一因でABSが有効だ
86を雪中でうまく走らせるためのFR雪テクニックトヨタ86のようなFRに限ったことではないが、雪上ドライビングで一番大事なのは「ブレーキング」だ。乾いたアスファルトの路面なら、50km/hからフルブレーキで完全停止するまでに必要な時間と距離は、0~50km/hに加速するのに必要な時間と距離の約半分で済む。だが、雪上では加速の距離/時間と同等か、それ以上の制動距離/時間が必要になるので、そのことを頭に入れておこう。とにかくオーバースピードは厳禁で、ブレーキを過信せず、コーナーはスローインで入ること。もし突っ込みすぎてアンダーステアが出てしまった場合、雪上ではブレーキを踏みつつ、ステアリングをできるだけ切って、車速が落ちて“カン!”と曲がり出すまで待つしかない。FRは前輪に駆動力がかかっていないので、雪上では曲がるか、曲がれないかという判断が難しい。タックインも少なく、アクセルを抜いてもフロントが入っていく感じが弱いので、ブレーキは早めのタイミングで、そしてガツンと踏まずにジワッと踏むことだ。これがひとつ目のコツだ。さらに前輪に駆動力がかからないFRは、ブレーキがロックしやすいという欠点も持つ。そのため、できればABS付きのクルマを選びたい。FFや4WDは前輪を回す力が働くため、FRと比べるとロックしにくい。だがFRはたやすくロックしてしまうのだ。さらに減速は、できるだけわだちよりも雪が残っている部分で行なったほうが安全だ。雪の抵抗によって、減速力が高まる。
スナッピングオーバーステアを覚える

減速~旋回までアンダーステアの状態から、立ち上がりでアクセルを入れることで、FRはオーバーステアに持って行くことができる。このスナッピングオーバーステアを覚えることで、FRらしい走りを楽しむ
これらのことに気をつけても、弱いアンダーステアが出ると思うので、まずはそのアンダーステアからのスナッピングオーバーステアから覚えよう。スナッピングオーバーステアというのは、ブレーキを踏む、ステアリングを切る、アクセルを踏むという過程で、アンダーステア→アンダーステア→急にオーバーステアとなる挙動のことだ。ハンドルを切りはじめるときすのが基本だが、ブレーキを戻したら右足を遊ばせておかないで、アクセルをちょこっと踏んで待っているというのがポイント。そうしてスナッピングオーバーステアのタイミングがつかめてきたら、アクセルで積極的に向きを変えていくFRならではのドライビングを身に付けていくのが、ベストだと思う。テールスライドは立ち上がりで楽しめばいい。86の上級モデルにはトルセン式LSDが入っていて、さらにこれを電子的にVSCなどが制御してくれるので、立ち上がりでちょっとアクセルを多めに踏むと、ゆっくりスルスルとリアが流れるのだ。
高回転まで回さないように

高回転になると、パワーが出過ぎて、急激に姿勢が変わるので、3000回転付近に調整しよう
回転数でいえば、3000回転付近で充分。あまり高回転まで回してしまうと、テールスライドが大きくなって、前に進まなくなってしまうからだ。テールが流れる動きに慣れてきたら、2速など低めのギアでのスライドのきっかけを覚えて、慣れてきたらもう一つ高いギアで走ってみると、上達が早いはず。AT車の場合はDレンジでアクセル操作に集中しよう。他人に迷惑をかけないような場所で、サイドターンで遊んでみて、さらに電子デバイスをOFFにして、ドリフト円旋回で感覚を覚えるのもいいと思う。ぜひ86+雪上で、そうしたFRならではのだいご味に目覚めてみてほしい。