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更新日:2017.12.14 / 掲載日:2017.12.02
日産エルグランド 8年ぶりの凱旋
日本初のフルサイズミニバンはおじさんに受けたが……

【本記事は2010年7月にベストカーに掲載された記事となります。】97年デビューの初代エルグランドは、日本初のフルサイズミニバンとして登場した。1775mmというワイドでスクエアなボディに3列シートというコンセプトは、それまでの国産車のなかで最大の室内スペースを生み出した。これが、世のおじさんたちに受けたわけだ。広くゆとりのある室内は、それだけでゴージャスな気分に浸らせてくれたし、もちろん同乗する家族の受けもいい。ロングスライドする2列目&3列目シートの使い勝手も最高で、ゆったりと座ったり、たっぷりと荷物を積むこともできたりしたのだ。気負いがなく、それでいて男らしいデザインは、それこそジャージを着てタバコを買いに行くなんて使い方にも抵抗がなく、家族の送り迎えもOK。カジュアルに使うことができたのである。3.3L、V6は力強く、大きなボディを楽々と走らせ、ドライバーにとっても楽しいミニバンであった。
おじさんのゲタから輸入車の薫りのするクルマへ

低重心でスポーティな走り 重心が下がったことやマルチリンク式サスにより、安定したコーナリングが可能
そんなこともあって、新ジャンルのミニバンにもかかわらず、初代エルグランドは大ヒット。5月発売にもかかわらず、デビュー年は4万5179台もの台数を販売した。翌年には、ドレスアップ仕様のハイウェイスター、VIPカーコンセプトのロイヤルライン、アメリカンテイストのライダーなどバリエーション追加がなされるほどの人気であった。’01年には、早くも累計20万台を突破し、これを記念したメモリアルモデルも発売された。そして、好評のまま’02年に2代目モデルへとバトンタッチを果たした。この2代目は、さらにボディの大型化、低床化を果たし、室内空間は拡大。そのスタイリングは、まさに最高級ミニバンにふさわしいもので、2段にわかれたスタイリングのヘッドランプとグリル、さらに大きく張りだしたフェンダーと一体化したドアミラーなど、圧倒的な存在感が特徴だった。しかし、高級感を極めた結果、どこかフォーマルというか堅い印象を与えるデザインとなった。それまでのおじさんのゲタといった雰囲気が薄まり、どちらかというと輸入車の薫りのするクルマとなったのだ。

宿命のライバル、アルファード。ジャージを着てタバコを買いに行ける、日本的な魅力を、エルグランドから学んだことで、大成功。しかし、新型エルグランドとは、どういった戦いになるのか、いまから楽しみだ
それからもうひとつエルグランドに変化が起きた。ライバルのアルファードの登場だ。トヨタは、グランドハイエース、グランビアと初代エルグランドに駆逐されてきたが、並々ならぬ投資をむき出しにして、エルグランドの翌日に、アルファードをデビューさせ宣戦布告。
ジャージを着てタバコを買いに行く、日本のおじさんたちを取り込むことに成功
それでも、デビューした’02年から3年後の’05年までは、なんとか年間3万~4万台を維持していたが、売り上げは徐々にかげりを見せ始め、その後2万台以下へと落ち込んでいくのだ。おじさんたちはアルファードを選んだのだ。そんな初代アルファードは、モダンで上質なデザインのエルグランドとは違って、日本人好みの豪華なデザインを採用した。クラウンを思わせる大型グリルを中心とした派手なフロントマスク。そして、インテリアも木目調のパネルを大きく使い、とにかくおじさん狙いとなっている。その結果、初代エルグランドを支持していた、ジャージを着てタバコを買いに行く、日本のおじさんたちを取り込むことに成功したのだ。アルファードは’02年に5万台以上、’03~’05年は年間8万台以上とエルグランドの約倍の台数を販売したのだ。そのアルファードはキープコンセプトで、’08年にFMCした。
おじさんたちの好きなデザインで帰ってきた新型

350ハイウェイスタープレミアムは、2列目に中折れ式のシートバックとオットマン機能を装備。ロングスライド可能で、シートは快適そのものだ
そんな苦境のなか、8年ぶりにフルモデルチェンジするエルグランド。ベストカーでは、そのデビューに先駆けて、プロトタイプへの試乗を行なった。ほぼ製品版といっていいこのプロトタイプは、最上級グレードにあたる350ハイウェイスタープレミアム。3.5LのV6エンジンを搭載し、2列目をキャプテンシートとした、7人乗りの仕様だ。そのエクステリアデザインは、全長で80mm、全幅で35mm大きくなっているが、全高はなんと95mmもダウンしている。これは、低床プラットフォームの採用によって実現したものだが、ワイド&ローのスポーティなエクステリアとしながら、室内の広さは先代並みを確保している。エルグランドらしさを表現する2段式ヘッドライト&大型グリル採用のスポーティなスタイルこそ、日産フーガやスカイラインを好む、日産ファンのおじさんたちにアピールするスタイルなのだ。しっかりとショルダーのあるフロントフェンダーからサイドにのびたウェストラインや、目立たないBピラー、ガラスの内側に巻き込んだCピラーなど、アクセントのあるデザインもおじさんに響くものだ。ガラスモールも車体をぐるりと取り込んでいて、ミニバンでは世界初。室内も木目パネルを大きく使い、豪華な演出がなされ、またソファを思わせる上質なシートもおじさん好み。ジャージを着たおじさんに親しまれるクルマへとようやく回帰を果たしたのだ。
乗り心地も走りも大きく進化した

新型の3列目シートは、先代までの左右跳ね上げ式をやめ、床下に沈み込むタイプとなった。機構の簡素化による軽量化と、重心を下げることに貢献している。たためば荷室はかなり広い
3代目となった新型エルグランドで一番大きく変わったのは、それまでのFRプラットフォームに代えて、FFベースのプラットフォームとなったことだ。つまり、まったく新しいコンセプトの走りへと生まれ変わったということだ。95mmダウンした車高の効果は、スタイリングばかりではない。重心が下がることで、クルマの安定性は大きく改善される。3列目シートも、これまで両サイドへの跳ね上げ式だったが、床下へのダイブダウン式となったことで、機構のシンプル化による軽量化と、重心を下げることに貢献しているのだ。サスペンションはマルチリンク式を採用。複雑なリンクは、室内スペースを考えると不利だが、できるかぎりコンパクト化しつつ、高い操縦性と乗り心地の向上のために採用した。ダンパーはミニバン初のリバウンドスプリング付きで、ロールなどにより内側のサスペンションがのびる時、この動きを制限することで、安定した姿勢でのコーナリングを実現。ブレーキング時にも車体を安定させる。さらに全車CVT採用なので、変速ショックのない、スムーズな走行が可能となっている。モデルチェンジまで8年を要したわけだが、エルグランドはキッチリ8年分の進化と熟成を達成している。日産もその自信があるからこそ実現したプロトタイプ試乗会だ。

3.5L、V6は力強い加速を実現。直進安定性は高く、乗り心地も快適だ。高速レーンチェンジでも挙動は極めて穏やか。ロールも少ない
日産栃木工場内で実施した試乗では、高速周回路と峠の一般道に近い走行コースが用意された。まず、走行した高速周回路では、優れた直進性能が確認された。また、3.5L、V6エンジンが生み出す優れた加速性能も体感できた。リアウィンドウには、4つ★マークと、燃費基準+20%のステッカーが貼られ、環境性能にも優れたことを示している。続いて走行した峠風コースでは、まず段差を乗り越えたときのショックの少なさに感心する。背の高いミニバンは、ロールを制限するために、どこか突っ張ったところがあるものだが、段差を柔らかくいなし、しかも路面のうねりによく追随して、足がよく動く印象。それでも安定性は高く、コーナリング時のロールは少ないのだが、低重心化が貢献しているようだ。ボディもかなりしっかりしており、路面の段差でも、まったくビクともしない。さらに乗り心地に貢献しているのが、シートだ。ティアナなどに採用されている、三層構造のクッションは、ソフトな座り心地だが、しっかりと体を支えてくれる。新型エルグランドは、2列目、そして3列目のシートも立体的な造形で、体を柔らかくホールドしてくれる。家族全員で快適なドライブが楽しめそうだ。
ライバルミニバンとくらべると

新型エルグランドは4つのグレード構成となる。最上級が350ハイウェイスタープレミアムで、その下に350ハイウェイスターがあり、ここまでが3.5L。さらに直4、2.5Lを搭載した250ハイウェイスターと250VXがラインアップされる。また、それぞれFFと4WDが選択できる。350ハイウエイスタープレミアムは、2列目と助手席にオットマン機能を装着。シートは本革となる。BOSEの5.1chサラウンドサウンドや2列目以降のために、11インチの大型液晶モニターが装着される。全席に3点式シートベルトを装着し、カーテンサイドエアバッグ、VDC(車両安定装置/全車標準)やTPMS(タイヤ空気圧センサー)など安全装備も充実。エコドライブアシスト機能で、車両が燃費向上を補助してくれる。価格はまだ未公表だが、BCの予想では、290万~520万円という価格帯になりそうだ。ライバルは宿敵アルファード/ヴェルファイア、エスティマ、そしてエリシオンだ。アルファード/ヴェルファイアに対しては、やはり全高の低さが武器。スタイリッシュでコーナリング性能で上回る。エスティマも同じ全高の低いミニバンだが、室内の広さはエルグランドが上。ハンドリングでも、アドバンテージあり。エリシオンはかなりサイズが近いが、室内の広さは、エルグランドの勝ちだ。