車の歴史
更新日:2022.02.14 / 掲載日:2022.02.01
【ホンダ ステップワゴン特集】暮らしを豊かにするドリームボックス【初代から新型まで】

文●大音安弘 写真●ホンダ
2022年春のフルモデルチェンジで6代目に進化することが予告されたホンダのミニバン「ステップワゴン」。「#素敵な暮らし」をグランドコンセプトにデザインされ、スタンダードな「AIR(エアー)」とカスタム系の「SPADA(スパーダ)」が用意され、そのビジュアルが公開された。その先進的なスタイルの中に、初代の面影を感じた人も多いはずだ。多くのファミリーに愛され、ミニバンのFF化を加速させたステップワゴンの歴史を振り返る。
初代:手頃な価格と傑作キャッチコピーで一躍人気モデルに

オデッセイの成功で元気を取り戻したホンダは、RVにも力を入れていく。それが「クリエイティブムーバー」シリーズだ。第2弾のクロスオーバーSUV「CR-V」に続き、送り出されたのが、1996年5月に発表された「ステップワゴン」だ。当時の小型ミニバンは、安全性の向上などの理由から、トヨタ タウンエースノアや日産セレナのようなショートボンネットを持つキャブオーバースタイルに発展していたが、基本的には商用車の派生車であったため、FRレイアウトが基本。しかし、軽以外にワゴンタイプの商用車を持たなかったため、オデッセイ同様に、FFベースで開発していた。もちろん、他モデルから部品を流用していたが、専用部品も多いため、徹底したコストダウンにも取り組み、設計上の工夫に加え、シンプルなモデル構成することで、150万円台からという低価格を実現した。但し、後輪をダブルウィッシュボーンとすることで、乗り心地を高めるなどホンダらしい拘りもしっかりと取り入れていた。デビュー時は、ボクシーでシンプルなスタイルが商用車ぽいという声も聞かれたが、5ナンバーの取り回しの良さと経済性、FFベースによる低床フロア、ボクシーなスタイルが生んだ最大8人乗りのキャビンなどがファミリーに支持され、大ヒットに。質実剛健なクルマであったが、「こどもといっしょにどこにいこう」というキャッチコピーが示すように、親しみやすいデザインや楽しい移動空間など遊び心も忘れなかったことも成功のカギとなった。
2代目:シートアレンジを強化しミニバンとしての実力を高めた

約47万台を販売し、大成功を収めた初代の後を受け継いだ2代目は、2001年4月に登場。基本的にはキープコンセプトで、子供を中心に家族が楽しく過ごせるクルマが目指された。ボクシーなスタイルと親しみやすい顔立ちなどのデザイン的な特徴を受け継いでいるが、さらなる低床化や衝突安全性能の向上など基本性能をしっかりと磨き上げていた。
初代では、廉価仕様の5人乗りが設定されたが、新型では3列8人乗りに統一。フラットフロアによる室内長と室内高の拡大など共住性を拡大。その魅力を高めるべく、シートアレンジに注力し、1列目シートに回転機能を与え、2列目をテーブル代わりにする「レストランモード」、2列目シートを回転させることで後席同士を対面式とする「対座モード」、車中泊も可能となる「3列フルフラットモード」、後席を畳むことで荷室を最大化させる「カーゴモード」による広さを最大限活用できる工夫が凝らされていた。さらにユニークなオプションとして、折り畳み式電動自転車「ステップ コンポ」を用意。ステップワゴンの収まるサイズを実現したもので、かつての小型バイク「モトコンポ」を彷彿させる存在であった。
2003年のマイナーチェンジでは、フェイスリフトを実施。ファニーフェイスからシャープな顔立ちへと改められた。ミニバン人気の拡大から新たな仕様も生まれた。それがカスタム仕様の「スパーダ」だ。エアロを追加するなど専用デザインを採用し、エンジンもパワフルな2.4Lエンジンとスムーズな走りを可能とする5速ATを採用したもので、その後のステップワゴンのお約束仕様となる高い人気を誇った。この改良で、標準仕様にも2.4Lエンジン車が追加されたほか、2列目シートの快適性を高めるベンチシート仕様も選択可能となった。
3代目:初の両開きスライドドアを採用。低重心設計で走りも実力アップ

2005年5月にフルモデルチェンジした第3世代は、現代ステップワゴンの基礎となったモデルだ。ライバルたちを見据え、シリーズ初の両側スライドドアを採用。独自の低床化技術で、全高を75mm抑えながら室内高を維持することで、機能はそのままに。後席の乗降性と低重心化による走りの良さが進化のポイントだ。その特徴を主張するスタイルは、ボクシーなこれまでのイメージを打ち破るスマートかつスポーティなものに変更。特にフロントマスクは、グリル位置を下げることで、低重心を主張しつつ、大型のアーモンドアイのヘッドライトによるスポーティな顔立ちとなった。
インテリアでは、ダッシュボードの上部を広く使ったデジタルメーターが印象的な先進的なコクピットに変更。シートレイアウトは、2+3+3の8人乗りを基本としながらも、2列目をワンアクションで折り畳めるタンブルシートを採用。さらにオプションで、対座モードが可能な2列目回転機構付きセカンドシートも用意。ミニバンらしいシートアレンジに気を配った。ホンダらしい独自性では、後席フロアのフローリング調としたミニバン初の「フローリングフロア」や独立式サンシェイドを備えた6分割のガラスルーフ「トップライトルーフ」などを採用し、使いやすさや快適性を高めていた。
メカニズムは、2.0L直列4気筒DOHCエンジンと4速ATの組み合わせが基本。2.4L4気筒DOHCエンジン車では、スポーティ仕様という立ち位置となった。トランスミッションは、FFがCVT。4WDが5速ATと異なるのも特徴。いずれもエンジンはi-VTECに進化している。
2007年11月のマイナーチェンジでは、待望の「スパーダ」が復活。専用のエアロパーツに加え、16インチアルミホイールと専用チューニングサスペンションを採用することで、走りの質も向上。同時に2.4L車は、スパーダ専用に改められた。また同仕様より、スパーダのモデルラインが拡大され、標準車とスパーダで細やかな仕様が選べるステップワゴンの二本柱が完成された。
4代目:王道的ミニバンとして進化。クラス初の3列目床下収納を実現

ミニバン市場の戦いの激化から、ミニバンの王道的進化を果たしたのが、2009年10月登場の4代目だ。改めて家族のためのミニバンの姿を追求し、独自の超低床フロアを活かし、全長と全高を拡大することで、5ナンバーサイズをフルも活かした広々空間が目指された。このため、デザインでも初代を彷彿させるボクシーなものとなったが、よりガラスエリアが広がったことで開放感も高められている。
運転席まわりでは、再びアナログメーターが復活。メーターと同じ高さにナビやオーディオのスペースが設けられ、ドライバーの視点移動を抑制した設計に。シートアレンジは、伝統の2+3+3の8人乗りをキープするが、2列目シートはベンチタイプとセンターウォーク機能付きのスライドシート仕様の2タイプに。3列目は、左右跳ね上げ式だった従来までの形状を改め、クラス初の床下格納を実現。後席を格納することで、より大きな荷物も楽々積み込める空間となった。
ボディタイプは、標準タイプとスポーティな「スパーダ」の2本柱に。スパーダは、ビジュアルだけでなく、走行安定性を高めるエアロパーツ、16インチアルミホイール、専用サスペンション、ブラック基調のインテリアなどで、独自の世界観を演出。カッコだけじゃない走りのミニバンとして仕上げていた。
エンジン仕様は、2.0L直列4気筒DOHC i-VTECに1本化。性能も全車共通に。トランスミッションは、FFがCVT。4WDが5速ATに統一されている。また環境性能を高めるためのECONモードも追加されている。
ファミリーミニバンの王道を攻めつつ、ホンダらしい走りの良さも備えていた4代目は、メインのファミリー層から高い支持を得て、2010年の国産ミニバン販売の中で1位を獲得し、登録車全体でも7位をマーク。カテゴリートップは、初代以来の偉業であった。初代に継ぐ好調なセールスを記録したため、細やかなブラッシュアップを受けたものの、フェイスリフトなどの目立つ改良は実施されず、モデルライフを終えている。
5代目ターボモデルや「わくわくゲート」など新機軸を盛り込んだ意欲作

現行型となる5代目は、2015年4月に登場。成功を収めた先代の魅力を受け継ぎつつ、新たなニーズに応えるべく、新たな魅力が追求された。その最大の特徴が、ダウンサイズターボの採用だ。ライバルとなる他社ミニバンが、ハイブリッド車の投入に積極的なのに対して、ホンダは、エコターボという独自路線を選択。これにより自慢の走行性能を守りつつ、維持コストの低減を図っていた。意外にも、現在のホンダの主力エンジンのひとつである1.5L直列4気筒ターボは、ステップワゴンが初採用である。もうひとつユニークな機能として使われたのが、「わくわくゲート」という横開きドア付きのテールゲート。狭い場所でのラゲッジスペースへのアクセス性を高めるべく、他社がガラスハッチ付に留める中、ホンダは簡単に床下収納できる3列目シート「マジックシート」との組み合わせで、狭い場所での乗降まで実現させていた。この「わくわくゲート」には、女性や子供などの小柄の人でも安全にテールゲートを開閉できるようにする狙いもあった。またホンダの先進安全運転支援パッケージ「Honda SENSING」を全車にオプション設定することで、ドライバーの安全運転のサポートにも力を入れていた。
エクステリアは、伝統的なファニーフェイスを採用し、親しみのある雰囲気に。モデルラインは、標準車とスポーティなカスタム仕様「スパーダ」の2本立て。ただいずれも落ち着き有るデザインに纏められていた。その内部のキャビンは、コンパクトなデジタルメーターを中心とした先進的なコクピットと超低床フロアによる広々空間が生む快適性の高いもの。シートレイアウトは、ミニバン拡大による上級指向の高まりから、2列目キャプテンシートを標準とする7人乗り仕様を基本に。もちろん、先代ユーザーなどの8人乗りニーズに応えるべく、オプションで2列目3名シートの8人乗りを設定していた。
伝統の使いやすさに新機能を加えた上、ターボによる走りの良さ、ダウンサイズエンジンによる経済性のアップなど、ホンダらしい独自の視点で磨き上げられた5代目ステップワゴンだったが、販売面ではやや苦戦を強いられることに。その原因は、ライバルとの性能差ではなく、主婦層にダウンサイズターボのメリットが上手く理解されなかったためと言われる。エコカーの代名詞となったハイブリッドと比べると、インパクトが弱かったのだ。
そこでホンダが次なる一手として送り込んだのが、2017年9月のマイナーチェンジで送り込んだハイブリッドだ。しかも1.5Lターボ以上の走りを目指し、上級モデル向けの2モーターハイブリッド「SPORT HYBRID i-MMD」を採用。しかし、問題として現状の低いノーズデザインだとパワーユニットの干渉することが判明。そこでスパーダのデザインをパワーユニットに合わせたものに変更している。そのため、ハイブリッド車はスパーダのみに限定されている。しかし、それはホンダイズム爆発のきっかけに過ぎなかった。ハイブリッド化に必要な改良点を全て走りの磨き上げにも活かすことで、従来型よりも大幅に洗練された走りのミニバンに仕上げてしまったのである。またホンダらしい走りのミニバンの象徴として、コンプリートカー「モデューロX」も展開。当初は、ターボ車のみであったが、モデル後期では、ハイブリッド仕様も追加されている。
6代目:新型はこの春登場! 伝統を受け継ぎながら新しいファミリーミニバンを追求

既に現行型は、2021年秋に生産を終了し、今春登場予定の6代目となる新型ステップワゴンが控える状況だ。新型も伝統の使いやすさを受け継ぎながら、新しいファミリーミニバンの価値が追求されていると聞く。ハイブリッド車が主力に据えられるのも6代目となる新型が初。どんな次世代ミニバンに仕上げられているのか、今から楽しみだ。


