車の歴史
更新日:2021.01.13 / 掲載日:2021.01.02

スバル360に原点回帰 てんとう虫の讃歌2

K-111増加試作型(1958年5月)

増加試作型とは量産を見据えて先行生産されたモデル。もともと航空機製造で使われた用語だ。初期モデルはデメキンと呼ばれたヘッドランプや横スライド式の窓を特徴とした。

諸元 ○全長×全幅×全高:2290mm×1300mm×1380mm  ○ホイールベース:1800mm ○車両重量:385kg ○乗車定員:5名 ○エンジン(EK31型):強制空冷式並列2気筒2サイクル356cc ○内径×行程:61.5mm×60mm ○最高出力:16PS/4500rpm ○最大トルク:3.0kg・m/3000rpm ○最高速度:83km/h ○制動距離:14m(初速50km/h)○燃料消費率:26.0km/L ○最小回転半径:4.0m ○燃料タンク容量:20L ○変速機:前進3段後進1段 ○サスペンション(前/後):トレーリングアーム式独立懸架/スイングアクスル式独立懸架 ○タイヤ(前/後):4.50-10-2PR ○価格(東京渡し):42万5000円

航空機造りが役立ったてんとう虫の軽量化

 K-10の開発にはいくつもの難関が立ちふさがった。そのひとつが車両重量の問題。当時の非力な軽自動車に乗用車の実用性能を求めると、車重を極力削る必要がある。百瀬が掲げた目標値は350kg。航空機では常識だが自動車ではまだ少数派だったフレームのないモノコック構造を採用し、外板には0.6mmの薄い鉄板を使うもののまだ目標にはほど遠い。さらにポリエステル製のルーフ、アルミ合金を使ったドアやエンジン、アクリルのリヤウインドウなどを採用し、なんとか目標値に近づいた。ちなみに薄い鉄板でも強度を保つには「卵の殻」の形状が一番ということで、あの丸い「てんとう虫」スタイルは誕生している。
 トーションバーを使ったサスペンションは軽量化に加え、スペース効率を考えてのものだったが、悪路を走ると付け根部分がねじれて切れてしまった。技術改良でその問題が解決すると、今度はコストが問題となる。K-10の目標価格は40万円以下。ところが硬化処理された改良型トーションバーは1本1万円あまりと高価で、4本で4万円にもなった。後に量産化でその価格は10分の1程度まで下がるが、結局発売当初のスバル360の価格は42万5000円になってしまった。
 スバル360のデビューは1958年。その3年前の’55年には未熟な自動車産業の強化を目的にした、通産省の若手官僚による国民車構想が話題となっている。「4人乗りで最高速は100km/h、10万km以上の耐久性、さらに販売価格25万円以下」といった要件をクリアするクルマを作ったメーカーを国が支援するというものだったが、これを実現したクルマはとうとう出て来なかった。強いてあげれば国民車にもっとも近かったのがスバル360だったのである。かくして発売されたスバル360は大きな話題となるが、当初は生産体制が整わず、月産は400台程度。群馬製作所が完成し、月産が2000台を超えるのは、発売から2年が経った1960年のことである。

  • 増加試作型のインパネ。左右ドアの前方には大きなポケットも付いていた。

  • シートにリクライニング機能はない。助手席は後席乗り込みのために全体が前方に倒れる設計。

  • 軽量化のためルーフはポリエステル、またフロントフードには軽合金(’60年後期型以降は鋼板に変更)が使われた。

  • 初期型の前席窓は2扉の引き戸式で、その外側にプラスチックの風取り板が付けられていた。なお後席窓はガラスよりも軽いプラスチックで開閉はできない。

  • エンジンマウントの都合で、後席後ろは片側だけに荷物を積めるスペースが確保された。また室内側からもエンジンルームに通じる扉がある。

  • 前方のボンネットにはスペアタイヤや12Vバッテリーを設置。エンジンは後部に積まれ、車体後方左側のダクトから取り入れられたエアで冷却される。

  • リヤビュー。

  • スバル360はユーザーの声を反映し、毎年のように改良されている。写真はひさし式のヘッドランプや昇降式の窓が採用された中期モデル。

  • 初期型では極めてシンプルだった内装も進化。スピードメーターも大型の指針式になった。

  • 初期型のスピードメーターは針ではなく赤い帯で速度を表示するセクター式を採用していた。

  • 前進3速のマニュアルミッション(初期型)は横H型に変速し、左下が1速、左上がリバース。変速比は1速が5.003、2速が2.566、3速が1.614で後退は5.003、クラッチは乾燥単板式。

  • 初期モデルのペダルレイアウト。

  • 増加試作型のトランク。

  • 増加試作型のエンジンルーム。

提供元:オートメカニック

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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