中古車購入ガイド
更新日:2022.08.22 / 掲載日:2022.08.05
【トヨタ シエンタ特集】小さなミニバンとして独自の世界観を作り上げた【中古車・ガイド】

文●大音安弘 写真●トヨタ
昨今、豪華さばかりが注目されるミニバンだが、その裏で着実なセールスを続けているのが、5ナンバーに収まる小型ミニバンだ。その人気の背景には、手頃な価格コンパクトなサイズでありながら、家族3世代の移動やお友達の送迎など高い実用性を備えることにある。子育て真っ只中にあるママさんたちに絶大な支持を受ける小型ミニバンのひとつ、トヨタ シエンタの歴史を振り返る。
【初代:80系】コンパクトカーのサイズで7人乗りを実現

シエンタは、全長4100mmというコンパクトなボディに、大人7人がしっかりと乗れるキャビンを確保する小型ミニバンとして、2003年9月29日に発売された。手軽な多目的車であるシエンタのターゲットは、ヤングファミリーを含む若者たちだ。そのため、「小粋でユースフルな7人乗り」をテーマに、愛らしいスタイルを与え、その内側にはミニバンの機能を凝縮させることが目指された。因みにシエンタの車名は、スペイン語で「7」を意味する「siete」と、英語で「楽しませる」を意味する「entertain」を組み合わせた造語である。
丸目ライトのフロントマスクと丸みを帯びたボディスタイルは、「ヒーリング・モダン」がコンセプト。つまり癒しのゆるキャラ的なデザインに仕上げられていた。ミニバンの人気アイテムである両側スライドアもしっかりと備えていたのも大きな武器となった。インテリアも曲線を多用したソフトなデザインに仕上げられており、センターメーターレイアウトのダッシュボードデザインを取り入れることで、コンパクトながら、広い視界と空間を実現。シートアレンジにも工夫があり、「片手でポン!」をキーワードに、赤ちゃんを抱えるママが安全かつ簡単に操作できる構造を採用。車内各部には、便利な小物入れも多数用意していた。
コンパクトなボディで実用的な7人乗りを可能とした秘密は、プラットフォームにあった。なんとフロント部こそ、同クラスとなるファンカーゴ用のプラットフォームを使用しているが、キャビンの大部分を占めるリヤセクションには、一クラス上のカローラスパシオ用のものを使っていたのだ。さらに燃料タンクも薄型のものとすることで、室内容量を稼ぎだすなど、工夫が凝らされていた。パワーユニットには、シンプルに1.5L直列4気筒DOHCエンジンの1本としていたが、駆動方式により仕様が異なっていた。またトランスミッションも同様に、FF車がCVTを。4WD車が4速ATと使い分けていた。
お手軽かつシンプルな部分が愛されていたことも有り、市場からも好意的に受け止められたシエンタが最初の大きな改良を受けたのは、2006年6月のマイナーチェンジとなる。フロントバンパーやグリル、ライト類などのデザイン変更が行われ、リフレッシュされたが、丸目ライトの愛らしいマスクは継承され、イメージを大きく変えることはなかった。機能面での改良点も、ウィンカー付きドアミラーと肌にやさしいフレシール加工を施したシート表皮の全車標準化など限定的であった。またエアロパーツを装備した「Sエディション」が新設されたのもトピックであった。登場から7年目となる2010年10月には販売を終了した。しかし、意外なことに初代シエンタの歴史は、そこで終わらなかったのだ。翌年となる2011年5月に、マイナーチェンジを発表したのだ。製造が一度打ち切られてから、復活した車種というのは非常に珍しい。モデルライフからも分かるように、シエンタは一世代で終わる予定であったが、後継車としてトヨタとダイハツが共同開発した「パッソ セッテ/ブーンルミナス」が、シエンタほどの人気が得られず、再び登板が回ってきたと言われている。このマイナーチェンジモデルでは、デザイン上のリフレッシュは、リヤコンビネーションランプのみに限定されていたが、角型ヘッドライトとワイド感を強調したフロントバンパーデザインを採用したデザイン違いのモデル「DICE」を追加。また燃費性能の向上も図られていた。
【2代目:170系】待望のハイブリッドを追加して登場

シエンタが復活を果たしたことで、第2世代となる現行型の開発もスタートされ、2015年7月9日に発売された。約12年振りとなるフルモデルチェンジでは、時代の変化も受け、幅広世代をターゲットとした「ユニバーサルでクールなトヨタ最小ミニバン」として送り出された。初代のペット的な愛らしさや独自の世界観による個性的なデザインなどの特徴を受け継ぎつつ、全面刷新を図った新世代小型ミニバンである。
エクステリアは、アクティブライフを支えるフレッシュなものに仕上げられた。特徴的なのが、ボディサイドに与えられた一筆書きをモチーフとしたグラフィック効果による演出だ。このため、個性的なドアデザインやアクセントモールを取り入れられ、小さいながらも存在感を放つ。カラーバリエーションにも、楽しさを演出するポップなカラーやカラーのアクセントパーツを取り入れた「フレックストーン」仕様など遊び心が取り入れられている。
インテリアは、ナビゲーションシステムの普及から、メーターパネルがセンターレイアウトから通常の運転席前に戻されているが、ユニークなコクピットデザインを継承。インパネシフトを引き継ぐことで、前席から後部へアクセスできるウォークスルー機構も維持されている。個性的なインテリアデザインには、数々の収納スペースが設けられており、高い機能性も受け継がれている。伝統の低床フロアと3列シートレイアウトも進化。シートアレンジは、7人乗りだけでなく、セカンドシートを2人乗りとした6人乗りを追加。2列目及び3列目シートまわりの空間を拡大し、移動中の快適性を向上させた。もちろん、多彩かつ操作性に優れたシートアレンジ機能にも磨きがかけられた。
パワートレインは、新開発の1.5L直列4気筒ガソリンエンジンに加え、1.5Lエンジンのハイブリッドが初登場。待望のハイブリッドは、燃費に優れるだけでなく、キャビン下にハイブリッド用バッテリーを搭載することで、エンジン車と同等の室内空間を維持している。前輪駆動を基本としているが、ガソリン車とハイブリッド車共に、ドライブシャフトを備える4WD車も用意された。
目玉となる新機能となるのは、普及が始まった先進の安全運転支援機能だ。トヨタの衝突回避支援パッケージ「トヨタセーフティセンスC」を全車にメーカーオプション化。トヨタのスタンダードとなるパッケージには、単眼カメラとレーザーレーダーのセンシングを基本としたもので、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報、オートマチックハイビームなどが含まれ、日常からしっかりと安全運転をサポートする機能で構成されていた。
初代の持ち味を受け継ぎつつ、全面刷新を図った現行型は、発売から1か月で約4.9万台を受注する好調なスタートを切っており、小さなミニバンニーズの高さを証明して見せた。2018年9月の初のマイナーチェンジでは、3列目を取り払った5人乗り仕様車「ファンベース」シリーズが追加された。これはアウトドア人気の高まりや車中泊ブームを受けて開発されたもので、2列目を倒すことで、フラットな荷室と最大荷室長2065mmを確保したもの。ラゲッジスペースには、ユーティリティホールを追加することで、ラゲッジスペースの活用性を高めるアイテムの装着を可能としていた。デザイン面では従来仕様のイメージを維持しながら、フロントバンパー、フロントグリル、ヘッドランプ、リヤランプ、ホイールキャップに手を加えることで、質感の向上が図られていた。安全装備では、ペダル踏み間違えに対応する先進安全運転支援機能「インテリジェントクリアランスソナー」が採用され、一部グレードに標準もしくはオプション設定されている。
まとめ
マイナーチェンジ以降の改良は、限定的。2020年6月の一部改良では、ハイブリッド車に、100V1500W出力のアクセサリーコンセントがオプション設定され、アウトドアシーンや非常時の電源として活用できるように。最新となる2021年6月の一部改良では、全車にオートライト機能が追加されている。歴代モデル共に、モデルライフを通して、改良が少ないこともシエンタの特徴といえる。それは基本性能しっかり磨き上げ、独自の世界観を描いたコンセプトにブレはないことの裏付けとも受け取れる。現行型も登場より、丸7年を迎えようとしており、新型登場の噂もある。その新型はTNGAによる大きな進化が見られるだろうが、手頃なサイズでありながら、使える3列シートを備える点はしっかりと受け継がれるだろう。