パーツ取付・交換
更新日:2025.05.27 / 掲載日:2022.07.19
エンジンブレーキの仕組みとは?使うメリットやフットブレーキ・ハンドブレーキとの違いを解説

エンジンブレーキは、運転における重要なテクニックです。とくに長い下り坂や高速道路での走行において、フェード現象やベーパーロック減少を防いで、安全な走行をサポートしてくれます。
ただし、エンジンブレーキはブレーキランプが点灯しないため、後続車に減速を知らせられません。そのため、エンジンブレーキを使用する際は、必要に応じてフットブレーキを併用して、後続車に減速を知らせるように心がけましょう。
この記事では、エンジンブレーキの仕組みやフットブレーキ、ハンドブレーキとの違い、メリットなどを解説しています。
使い方のコツやフットブレーキとの使い分けまで、網羅的に解説していますので、最後までご覧いただき、安全運転に役立ててください。
1. エンジンブレーキとは

エンジンブレーキとは、アクセルペダルから足を離すだけで、車の速度を落とすブレーキのことです。
フットブレーキやハンドブレーキとは異なる仕組みで減速するため、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。
(1) エンジンブレーキの仕組み
エンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離して、エンジンへの燃料供給を止めた際に生じる抵抗力を利用して減速する仕組みです。
エンジンへの燃料供給が停止すると、タイヤが駆動系の部品を通じてエンジンを回す状態になります。このとき発生するエンジンの回転抵抗が減速力として働き、車の速度を落とします。
この回転抵抗は、以下3つの要素から成り立っています。
・圧縮抵抗:ピストンが空気を圧縮する際に生じる抵抗
・ポンピングロス:ピストンが空気を吸入・排出する際に生じる抵抗
・機械抵抗:エンジン内部のクランクシャフト、ピストンなどの摺動部分との摩擦抵抗
これらの抵抗が組み合わさり、エンジンの回転数を減少させます。
さらに減速効果を高めるには、シフトダウンします。シフトダウンすると、同じ車速でもエンジンの回転数は上昇し、3つの抵抗が増加します。その結果、減速力がさらに強くなり、強力な減速効果を得られるのです。
(2) エンジンブレーキとフットブレーキの違い
エンジンブレーキとフットブレーキは、どちらも車の速度を落とすための機能ですが、その役割と使い方は異なります。
フットブレーキは、ブレーキペダルを踏むことで作動するメインのブレーキです。
強い制動力を持ち、車を停止させるだけでなく、速度を細かく調整できます。駐停車や交差点、カーブなど、あらゆる場面で必要不可欠なブレーキです。
フットブレーキ作動時には、後部ブレーキランプが点灯し、後続車に減速を知らせます。
一方、エンジンブレーキはアクセルペダルから足を離すことで作動する、補助的なブレーキです。
エンジン内部の抵抗を利用して減速するため、フットブレーキほどの制動力はありません。完全な停止にはフットブレーキを使用する必要があります。
エンジンブレーキはフットブレーキの負担を軽減し、スムーズに減速させるのが役割になります。長い下り坂や高速道路での減速、信号手前などでの使用が効果的です。
ただし、エンジンブレーキを使用してもブレーキランプは点灯しないため、後続車に減速を知らせられません。そのため、フットブレーキを併用して、後続車に減速を知らせることが重要です。
(3) エンジンブレーキとハンドブレーキの違い
ハンドブレーキ(サイドブレーキ、パーキングブレーキとも呼ばれる)は駐車時に車を固定するためのブレーキです。
ハンドブレーキには、従来のレバー式、足踏み式(主にオートマ車)、電動式などいくつかの種類があります。
操作方法は種類によって異なりますが、いずれも駐車時に車を確実に固定するために使います。
エンジンブレーキのように、走行中の減速には使用しません。
2. エンジンブレーキを使うメリット

エンジンブレーキを使うメリットは、大きく分けて以下の3つです。これらのメリットを理解することで、安全運転だけでなく、燃費向上といった経済的なメリットも得られます。
1. フェード現象を回避できる
2. ベーパーロック現象を防げる
3. 燃費の向上につながる
それぞれくわしく解説します。
(1) フェード現象を回避できる
エンジンブレーキは、フットブレーキの過熱によるフェード現象の発生リスクを抑えられます。
フェード現象とは、長い下り坂などでフットブレーキを連続して使用した際、ブレーキパッドが高温になり、摩擦力が低下してブレーキが効きにくくなる現象です。
山道を車で降りているとき、ずっとブレーキを踏み続けていると、ブレーキパッドが熱くなって効きが悪くなる、というイメージです。
最悪の場合、ブレーキがまったく効かなくなり、重大な事故につながります。
つまり、エンジンブレーキを併用することで、フットブレーキを使う頻度を減らし、ブレーキパッドの温度上昇を抑えられるのです。さらにブレーキパッドの摩耗を抑えられるため、交換頻度が減り、整備コストを節約できます。
(2) ベーパーロック現象を防げる
エンジンブレーキは、ブレーキの効きが悪くなる「ベーパーロック現象」の発生も防ぎます。
ベーパーロック現象とは、ブレーキの使い過ぎで発生する熱が、ブレーキ液を沸騰させてしまうことで起こります。
長い下り坂でフットブレーキを使い続けると、ブレーキ系統が熱を持ち、ブレーキ液の温度が上昇してしまう、というイメージです。
ブレーキ液が沸騰すると気泡が発生します。この気泡がブレーキペダルからタイヤへ油圧を伝達するのを邪魔するのです。
その結果、ブレーキペダルを踏んでも力が伝わりにくくなり、ブレーキが効きにくくなってしまう危険な状態に陥ります。最悪の場合、ブレーキがまったく効かなくなる恐れもあるのです。
エンジンブレーキを併用してブレーキ系統の温度上昇を抑えられたら、ブレーキ液が沸騰するリスクを軽減できます。
(3) 燃費の向上につながる
エンジンブレーキを使用すると、燃費向上効果も期待できます。
アクセルペダルから足を離しているときは、エンジンへの燃料供給がカット、または大幅に減少されるため、燃料消費を抑えられるのです。
とくにハイブリッド車や電気自動車では、エンジンブレーキの使用時にバッテリーが充電されるため、燃費向上効果はより大きくなります。結果として、環境負荷の軽減にもつながります。
3. エンジンブレーキのかけ方・コツ

エンジンブレーキは、アクセル操作とギアチェンジでコントロールします。
エンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離すだけで作動します。より強いエンジンブレーキが必要な場合は、ギアを下げて(シフトダウン)調整しましょう。
オートマ車とミッション車では操作方法が異なるため、それぞれの車種に合った方法を理解することが安全運転につながります。
(1) アクセルペダルから足を離す
もっとも基本的なエンジンブレーキのかけ方は、アクセルペダルから足を離すことです。オートマ車ではDレンジのまま、ミッション車ではニュートラル以外でアクセルオフするとエンジンブレーキがかかります。
(2) ギアチェンジ(シフトダウン)する
より強くエンジンブレーキをかけたい場合は、ギアを下げましょう(シフトダウンする)。
アクセルペダルから足を離すだけでなく、Dレンジからひとつ下のギア(2やS)にシフトダウンすることで、より強いエンジンブレーキが作動します。
これは、低いギアほどエンジンの回転数が高くなるため、エンジンの抵抗(圧縮抵抗、ポンピングロス、機械抵抗)が増加し、減速力が強まるからです。
ただし、シフトダウンの際は、一段階ずつ操作することが重要です。
たとえば、Dレンジから一気にLレンジまで下げてしまうと、急激な減速となり、後続車に追突される危険性があります。エンジン回転数も高回転になり、エンジンや駆動系への負担も大きくなるため、故障の原因にもなります。
① オートマ(AT)の場合
オートマ車では、Dレンジ以外にも2(セカンド)、L(ロー)、Mレンジを使ってエンジンブレーキを調整できます。
通常走行時はDレンジを使用しますが、より強いエンジンブレーキを使いたい場合は、2かLレンジ(CVT車はSかB)にシフトダウンします。
たとえば、高速道路の出口ランプなどで減速したいとき、Dレンジから2レンジ(CVT車はSレンジ)にシフトダウンすればスムーズに減速できます。
L(ロー)レンジやBレンジ(CVT車)ではさらにエンジンブレーキが強く効くため、走行スピードや下り坂の勾配に合わせて使い分けましょう。
なお、最近のAT車には、Mレンジ(マニュアルモード)を搭載した車種もあります。シフトレバーやパドルシフトを使って、MT車のようにエンジンブレーキを細かく制御できます。
操作方法は車種によって異なるため、取扱説明書を確認しましょう。
② ミッション(MT)の場合
ミッション車では、ギアチェンジによってエンジンブレーキの強さを調整します。高いギアから低いギアにシフトダウンするほど、エンジンブレーキの効果を高めてくれるのです。
たとえば、走行中に赤信号が見えてきたら、4速から3速にシフトダウンすることで自然に減速できます。山道を降りているときは、2速や3速など低いギアを使うことでフットブレーキへの負担を軽減し、フェード現象やベーパーロック現象を防ぎます。
1速はもっとも強いエンジンブレーキがかかりますが、通常の速度域で使うと急減速になり危険です。極端な低速走行時や停車直前に使用するのが適切でしょう。
4. エンジンブレーキとフットブレーキの使い分けのポイント

安全で効率的な運転のためには、エンジンブレーキとフットブレーキを状況に応じて使い分けることが重要です。エンジンブレーキは緩やかな減速に適しており、強くブレーキをかける場面ではフットブレーキが力を発揮します。
具体的には高速道路で少し速度を落としたいときや、前方に信号が見えてきたときなど、緩やかな減速が必要な場合はエンジンブレーキが効果的です。
一方、前の車が急ブレーキを踏んだときや、交差点で停止するときなど、素早く減速する必要がある場合はフットブレーキを使いましょう。
以下では具体的な場面を想定して、エンジンブレーキとフットブレーキの使い分けを解説していきます。状況に応じた適切なブレーキ操作を身につけ、安全運転に役立ててください。
(1) 長い・急な下り坂
長い下り坂や急な下り坂では、エンジンブレーキを併用することでブレーキへの負担を軽減し、安全に走行できます。
オートマ車の場合は、Dレンジから2(セカンド)やL(ロー)レンジにシフトダウン、ミッション車の場合は、坂道の勾配に合わせて低いギアにシフトダウンします。
ただし、急なシフトダウンはタイヤロックをまねき、スリップの原因となるため、フットブレーキで速度を十分落としてからシフトダウンするようにしましょう。
(2) 高速道路
高速道路では、エンジンブレーキの併用がスムーズな減速と渋滞緩和につながります。
高速道路は一般道よりも速度が高いため、減速にはより長い距離と時間が必要となります。フットブレーキのみで急減速すると、後続車も追従してブレーキを踏むことになるため、渋滞を誘発してしまうのです。
一方、エンジンブレーキを併用すれば、緩やかな減速が可能となり、後続車の不要なブレーキ操作を減らせます。
サービスエリアやパーキングエリアへの進入、インターチェンジやジャンクションでの減速時にも、フットブレーキを組み合わせて、安全に減速しましょう。
(3) 赤(黄)信号の前
赤信号や黄信号で停止する際に、エンジンブレーキを使うと安全に停止でき、燃費向上にもつながります。
走行中、進行方向の信号が赤や黄色に変わり停車することがわかったら、アクセルから足を離しましょう。
このとき、ギアのシフトダウンは不要です。エンジンブレーキによって速度が徐々に落ちていくので、停止位置に近づいたらフットブレーキで完全に停止させます。
急ブレーキを踏むよりもスムーズに減速できるため、同乗者にも不快感を与えません。また、フットブレーキの使用を最小限に抑えることで、ブレーキパッドの摩耗を軽減できます。
5. ブレーキを使う際に知ってきたい注意点
エンジンブレーキは多用するとエンジンやミッションに負担がかかり故障リスクを高めるなど、デメリットや注意点もあります。
1. ブレーキランプが点かない
2. 使いすぎは故障リスクが高まる
3. 雪道や雨天時はエンジンブレーキに頼りすぎない
順にご紹介します。
(1) ブレーキランプが点かない
エンジンブレーキはブレーキランプが点灯しないため、後続車に減速を伝えられません。
そのため、後続車に気づかれず急な減速と捉えられてしまうと、追突される危険性があります。後続車のドライバーに「うざい」と思われないためにも、安全な車間距離の確保は必須です。
車間距離が十分でない場合は、フットブレーキを軽く踏んでブレーキランプを点灯させ、減速を知らせましょう。右左折時には、早めのウインカーで減速の意思表示をするのも効果的です。
(2) 使いすぎは故障リスクが高まる
エンジンブレーキの使いすぎは、エンジンやミッションに過度の負担がかかり、故障のリスクを高めるため注意しましょう。
適切にエンジンブレーキを使えばブレーキパッドの摩耗を抑えられますが、多用するのはエンジンやミッションの故障リスクを高めてしまうだけです。
そのため、エンジンブレーキを使う際は、フットブレーキも併用し、エンジンの回転数が許容範囲を超えないように気をつけてください。許容範囲は2,000〜4,000回転です。
(3) 雪道や雨天時はエンジンブレーキに頼りすぎない
雪道、凍結路、雨天時など路面が滑りやすい状況において、強いエンジンブレーキはタイヤがスリップする可能性があります。このような場合は、フットブレーキを併用して速度を調整することが重要です。
とくに冬季の雪道や凍結路では、エンジンブレーキをかけると駆動輪だけに減速力がかかるためスリップを起こすリスクが高くなります。路面状況が悪いときは、必要最小限のエンジンブレーキに留め、フットブレーキを使ったほうが安全です。
また、雨天時はタイヤと路面の接触面積が減り、ブレーキ性能が低下します。急ブレーキはスリップの原因となるため、エンジンブレーキとフットブレーキを適切に併用し、緩やかに速度を落とすように心がけましょう。
6. エンジンブレーキのことはグーネットピットにご相談ください
エンジンブレーキは、燃費向上やブレーキへの負担軽減に役立つ一方、後続車への配慮や状況に応じた適切な使い分けが重要です。
安全な運転のためには、エンジンブレーキの特性を理解し、状況に応じてフットブレーキとの組み合わせを意識しましょう。
グーネットピットでは、エンジンブレーキに関する疑問やメンテナンスのご相談も承っております。
お車の状態や運転方法に合わせて、アドバイスさせていただきますので、お近くの整備工場までお気軽にお問い合わせください。