水素エンジンカローラ　スーパー耐久に参戦

　水素エンジン車両のレース参戦を通じて、カーボンニュートラルに向けた水素社会実現に挑戦するトヨタ。富士スピードウェイでのレースでは、水素を「つかう」、オートポリスでのレースでは、「つくる」領域で選択肢を拡げることに挑戦してきた。今回の鈴鹿でのレースでは「はこぶ」をテーマに挑戦する。

　具体的には、川崎重工業株式会社（以下、川崎重工）、岩谷産業株式会社（以下、岩谷産業）、電源開発株式会社（以下、J-POWER）の3社が連携して運ぶオーストラリア産の褐炭由来の水素を水素エンジン車両に使用する。加えて、バイオ燃料トラックやFC小型トラックにより、国内で水素を運ぶ際に発生するCO2低減に取り組み、クリーンな水素社会の実現に向けてチャレンジする。車両については、迅速にさらなる改良を進めるとともに、開発現場には新たにコネクティッドシステムを導入し、車両開発に活用していくという。

　「富士SUPER TEC 24時間レース」に参戦以来、現場で多くの課題が見つかり、仲間と課題を解決しようとする動きが加速。今回の取り組みで見えた課題の解決に向け、今後も業界の枠を超えて幅広く連携していく計画。

　今回「はこぶ」で協力する川崎重工は、30年以上前にロケット燃料用水素貯蔵タンクを建造して以来、水素に関連する技術を磨いてきた。2016年には、岩谷産業やJ-POWERなどと技術研究組合、HySTRAを設立し、採掘量が多く安価に取得できるオーストラリアの褐炭から経済的に水素を作り、日本に運ぶ取り組みを計画。

　2021年度中には川崎重工の水素関連技術と造船技術を組み合わせて建造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」でオーストラリアから日本に水素を運ぶ実証を行う。この実証は、「はこぶ」だけではなく、水素を液体にして「ためる」チャレンジでもある。また、2020年代半ばには一度に1万トンの水素を運ぶことが出来る大型の液化水素運搬船を建造し、2030年には本格的な商用サプライチェーンとして22万5千トンの水素を海外から運ぶ計画。

　日本は2030年には約300万トン、2050年には約2,000万トンの水素導入を目指しており、導入量の拡大にともない国内だけでなく、海外から大規模な水素調達を進めていく必要がある。

　「スーパー耐久シリーズ2021 鈴鹿大会」では、海外からの水素調達の第一歩として、川崎重工、岩谷産業、J-POWERが試験的にオーストラリアから空輸で運んだ水素の一部を水素エンジン車両に供給。3社とトヨタは、この水素を実際にレースで使うことで、「はこぶ」と「つかう」の具体的な将来図を、現場での取り組みを通じて共有する。さらに2022年のスーパー耐久レースでは、「すいそふろんてぃあ」で運んだ水素を使用することを検討中。2025年代半ばには、大型の液化水素運搬船が運ぶ水素をトヨタが使用することで、水素社会実現に向けた取り組みを進めていく予定という。

　今回は、オーストラリアから運ばれた褐炭由来の水素と、福島県浪江町（FH2R）で製造されたグリーン水素の2種類を水素エンジン車両に使用。オーストラリア産の水素は「Commercial Japan Partnership Technologies」（以下、CJPT）が取り組む小型FCトラックで、FH2Rの水素は、トヨタ輸送のバイオ燃料トラックで、それぞれ鈴鹿サーキットまで運搬。海外から「はこぶ」に加えて、国内で「はこぶ」領域でも選択肢を拡げることで、水素社会の実現を目指す。

　水素エンジン車両は、「水素エンジン」の開発スピードを上げることを目的に「富士SUPER TEC 24時間レース」と「スーパー耐久レース in オートポリス」に参戦し、オートポリスでのレースからの約1ヶ月半で、車両の改良が進められた。具体的には、出力をガソリンエンジンと同等のレベルまで向上。充填時間については、車両の両サイドから充填が出来るよう改良し、オートポリスでの約3分から約2分と、作業時間の短縮を実現している*。また、開発現場で新たにコネクティッドシステムを導入し、より高精度のデータを大量に、高速で収集することが可能になった。コネクティッド技術で開発を加速させるだけではなく、モータースポーツの厳しい環境下でコネクティッド技術を鍛え、その学びを今後のクルマづくりやサービス開発に生かしていく考え。

*水素充填時間の短縮（水素ステーションノズル接続から抜くまでの作業時間）
（富士スピードウェイ ： 約5分→オートポリス ： 約3分→鈴鹿サーキット ： 約2分）