新車試乗レポート
更新日:2020.11.06 / 掲載日:2020.11.02
【試乗レポート トヨタ MIRAI】プロトタイプ試乗でわかった2代目のポテンシャル

トヨタ MIRAI(プロトタイプ)
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
世界初の量産市販FCV(燃料電池車)として2014年に発売されたMIRAIがフルモデルチェンジをうけた。2019年の東京モーターショーにコンセプトモデルが出展されていたので目にしている人も多いだろうが、ルックスは大きく変貌。初代モデルはFCVが空気をたくさん取り入れて走っていることを強調するべく大型のエアインテークがルックスの特徴、つまり新種のパワートレーンの機能をカタチにしていたが、新型は環境対応車という枠を超えてエモーショナルなスタイリングへ。1台のクルマとしての魅力を訴求している。
駆動方式を後輪駆動へと変化させたねらいとメリット

新型MIRAIではGA-Lプラットフォームを採用し、駆動方式も後輪駆動に変わった
MIRAIは官公庁などで使われることが多いものの、他に先駆けて個人向け販売も行っている。ユーザーはもちろんアーリーアダプターで将来技術へチャレンジする心意気に共鳴して購入しているが、メーカーからすれば今回のフルモデルチェンジで環境性能以外での満足度を高めたいという狙いがあるのだろう。
ハードウエアで大きく変化したのが駆動方式。FWD(前輪駆動)からRWD(後輪駆動)へ変化したことで、レクサスLSなどと同様のGA-Lプラットフォームが採用されている。発電装置であるFCスタックは、初代では前席下に配置されていたが、新型はフロントフード下、一般的にエンジンが収まる位置にあり、FRといえる。もっともスペースを使う水素タンクは2本から3本に増やされたが、そのうちの1本はFRプラットフォームとFCスタックの移設でセンタートンネル内に縦置き配置となった。そのため一充填(じゅうてん)あたりの航続距離は、初代の約650km(JC08モード)から約850km(WLTCモード)へ伸びたが、GA-Lプラットフォームのメリットはそれだけではない。
後輪駆動ならではのプロポーションとそれを生かしたデザイン

前輪が居住空間から離れていて、前輪とドアの間の空間が広がったことでサイドビューにのびやかさが生まれた
ワイド&ローで伸びやかなフォルムはFRならではのもの。それを強調するために、キャラクターラインなどは控えめとされ、各ディテールのデザインもシンプルかつクリーンだ。いわゆる引き算のデザインで、フォルムの美しさを際立たせる手法が採られている。また、前後重量配分を50対50として走りの性能を追求しているのも新型の大きな特徴だ。

ディテールは主張を控えめにしたデザインを採用し、プロポーションの美しさを強調した
新型MIRAIではレクサスLSなどに採用されているGA-Lプラットフォームを使う
センタートンネル部と後席座面下に配置された水素タンク
トランク床下にも水素タンクを設置し、一充填(じゅうてん)あたりの航続距離は約850km(WLTCモード)となった
新型MIRAIの走りをクローズドコースでチェック

走り始めてすぐにフィット感を得られるほど操縦性に優れ、加速も想像以上に力強い
今回はプロトタイプのため、クローズドのサーキットで試乗。コースへ向かうピットロードを30-40km/hで大人しく走らせただけで「これはよさそうだ」という予感があった。ステアリングに微舵を与えたときの反応や手応え、4輪がしっかりと路面を捉えている感覚、アクセルペダルをわずかに踏み込んだときの反応など、走り始めてからものの数十秒で身体になじむ感覚が得られたからだ。本コースへ合流して60km/h程度まで加速すると、駆動系やサスペンションなどの動きがスムーズで、圧倒的な静粛性の高さや振動の少なさと相まってこのうえなく上質。エンジン車とは次元の違う感覚だ。
せっかくのクローズドコースだからアクセルを積極的に踏み込んでいくと、レスポンスよく頼もしいトルクが得られて想像以上に力強く加速していった。
モーター駆動だからそれも当然ではあるが、FCVはシリーズハイブリッドと同様に発電しながら走る。アクセルをたくさん踏み込んだとき、シリーズハイブリッドはエンジンの回転数が高まって十分な発電量が得られて加速するまで少なからずタイムラグが生じるが、FCスタックは素早くてストレスがない。高負荷領域でもBEV(電気自動車)とほぼかわらぬ感覚で走れるのはFCVの魅力のひとつだ。0-100km/h加速は9秒台だが、中間加速に優れているのでじつに頼もしく、デイリーユースでは十分以上に速く感じるだろう。
エンジン車のような走行音を人工的に再現する「アクティブサウンドコントロール」

静粛性が大幅に進化した一方で、あえて走行音を表現する挑戦も行っている
新たに採用された装備であるアクティブサウンドコントロールは、加速の強さや速度の高まりにつれてエンジン車のような音が室内に響く仕組み。ギミックではあるが、ほぼ無音での加速は違和感があり、人によっては酔ってしまうこともある。運転の楽しさだけではなく、同乗者への気遣いとしてもFCVやBEVではサウンドありを選べることはありがたいはずだ。今後さらに造り込んで、サウンドだけでもほしくなるぐらいのものを期待したい。
FCスタックのエアフィルターを改良し、排出される空気は大気よりもきれいになるという。空気が洗浄される模様を示すデジタルメーターも搭載されている
新型MIRAI インパネ周辺
新型MIRAI 前席
新型MIRAI 後席
新型MIRAI ラゲッジルーム
ハンドリング性能はトヨタ車トップクラスの出来栄え

コントロール性が高く、ドライバーは意のままに操れる
一般道をイメージして乗り心地をたしかめてみると、基本的にはソフトタッチでかなり良好だろうと推測できた。しかも、ただ柔らかいというだけではなく、コーナーでロールしていくと徐々に粘りが増していって操縦安定性が高いこともうかがいしれる。試しにアクセル全開でサーキットを攻めてみると、新型MIRAIは驚くほど高い実力をみせつけた。
初期のロールは少し早めながらストロークが深くなるほどにしっかりとタイヤが路面を捉えて、シャープかつ自然な感覚でノーズがインへ向いていく。立ち上がりでアクセルオンしたときにはリアタイヤにしっかりと荷重がかかってグッと踏ん張りながら加速。わずかにテールを流し気味にしたり、安定させたりという姿勢コントロールに自在感があって、良くできたFRスポーツセダンのお手本のようなハンドリング。もしかしたらトヨタ車でもっともバランスに優れているかもしれないと思うほどだ。
新型MIRAIはFCVの量販化に向けて着実な進化を見せた

クルマとしての魅力が高まった新型は、より多くのユーザーに薦められる存在となった
ルックスと走りのよさは惚れ込んでしまうほどで、GA-Lプラットフォームを採用したメリットを大いに感じるが、初代のように手作り感覚ではなく、他の市販車と共通化したことで生産台数を飛躍的に高めることができるのも進化といっていいだろう。
欧州や中国でも水素燃料電池は大いに脚光を浴びており、自動車関連の投資でもっとも有望と言われているほど。2030年頃には商用車もCO2排出量が厳しく制限されるが、大型車のBEVはバッテリーの搭載量や充電時間などがたいへんで、水素燃料電池が向いているのが大きな理由となっている。そういった動きでインフラ整備が進めば乗用車も使いやすくなり、3から5分程度の充填(じゅうてん)で実質の航続距離が500kmを軽くオーバーするのなら、実用性はBEVよりも断然高い。
現状でも住んでいる地域や使い方によっては困ることがない人もいるはずだから、ルックスと走りの魅力が高い新型MIRAIを検討するのもありだろう。