新車試乗レポート
更新日:2026.08.21 / 掲載日:2026.08.21
5ドアのジムニー ノマドは果たして理想の1台なのか【渡辺陽一郎】

文●渡辺陽一郎 写真●ユニット・コンパス
2026年7月、ようやくスズキジムニーノマドの報道試乗会が実施された。本来なら受注を始めた2025年1月30日頃に行うべきだったが、僅か4日後に、ノマドは5万台を受注して販売活動を停止した。
ちなみにジムニーノマドは、予約受注をほとんど行わず、正味4日間で5万台を受注した。日本車史上初の短期間による大量受注で、ノマドの高人気を物語る。
スズキの想定を超えた受注とその後の対応

発売時点におけるノマドの目標販売台数は1か月当たり1200台だったが、この生産ペースでは5万台を納車するまでに3年半を要するため、インド工場ではノマドの日本仕様を増産している。その結果、2026年上半期(1〜6月)におけるノマドの登録台数は、トヨタハリアーを上まわる1か月平均4447台に達した。
それでも販売店によると「ノマドの納期は1年から1年半」で、購入しやすい状況ではないが、受注は行っている。そこで報道試乗会を開催した。
5ドアのジムニー、実際に乗ってみてどう感じたか

ジムニーシリーズの基本は、3ドアボディの軽自動車だ。このボディを少し拡大して直列4気筒1.5Lエンジンを積んだ小型車がジムニーシエラで、シエラの全長とホイールベース(前輪と後輪の間隔)を340mm拡大して、5ドアボディにしたのがジムニーノマドだ。
ノマドの全長は3890mmだから、トヨタライズよりも105mm短く、軽自動車がベースだから全幅も50mm狭い。コンパクトSUVの中でも特に小さいが、悪路向けのSUVだから、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)には210mmの余裕がある。大きなデコボコも乗り越えやすい。ノマドはフロントグリルをメッキで仕上げ、外観の存在感も強い。

車内に入ると、インパネの周辺は、軽自動車のジムニーやシエラと基本的に同じだ。室内幅もほぼ等しく、小型車のSUVでは少々窮屈に感じる。
その代わり水平基調の小さなボディによって前方視界は良い。角張ったボンネットが視野に入り、ボディの先端や車幅も分かりやすい。ノマドは悪路向けのSUVだから、狭く曲がりくねった林道などを走る機会も多く、小さなサイズとこのボディ形状はメリットになる。斜め後方の視界も良いが、真後ろは注意したい。背面スペアタイヤキャリアが視界を妨げている。

前席の居住性は、基本的に3ドアボディのジムニーやシエラと同じだが、後席は異なる。前述の通り全長とホイールベースが340mm拡大され、この内の50mmを後席の足元空間に振り分けた。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は、3ドアボディでは握りコブシの半分程度だ。それがノマドなら握りコブシ1つ半になる。トヨタのコンパクトSUV、ライズやヤリスクロスと同等で、広々感はないが大人4名の乗車は可能だ。座面は少し短いが、3ドアに比べると座り心地が柔軟だ。床と座面の間隔も20mm増したから、大腿部が座面から離れにくい。

後席の乗降性は、3ドアよりも圧倒的に良いが、ドアの開口部の上端が低く感じる。後席の着座位置を3ドアに比べて20mm高めた影響もあり、頭を下げて乗り降りする。
荷室長は後席を使っている状態で590mmだ。ライズの755mmには達しないが、シエラの240mmに比べると350mm長い。後席の居住性と併せて積載性も向上した。

シエラと比較して100kgの重量増はどんな影響があるか

エンジンは前述の通り直列4気筒1.5Lで、トランスミッションは、4速AT(自動変速)と5速MT(手動変速)を選べる。5速MTはシフトレバーの操作感が少し重いが、正確な変速操作を行える。
車両重量は5速MTが1200kg、4速ATは1210kgで、シエラを100kg上まわる。ギヤ比はシエラと共通だ。動力性能は車両重量の割に不足気味で、特に3300回転以下の実用域は、もう少し余裕が欲しい。最大トルクは13.3kgm(4000回転)だが、15kgm前後に向上させたい。

WLTCモード燃費は、4速ATが14.2km/Lで5速MTは15.4km/Lだ。トヨタハリアーに2Lノーマルガソリンエンジンを搭載したZ・4WDの14.8km/Lと同等になる。燃費にも改善の余地がある。
ステアリングシステムは、ボールナット(リサキュレーティングボール)式だ。悪路走行に適するが、舗装路では反応が鈍い。急なカーブが続く峠道を走ると、曲がりにくく感じられ、旋回軌跡を拡大させやすい。曲がりにくい代わりに後輪の接地性は高く、挙動を乱して運転の難しい状態には陥りにくい。

ステアリングのギヤ比はスローで、ステアリングホイールを右端から左端まで回すと4.1回転に達する。シティ派SUVは3〜3.5回転だから、狭い裏道の左折では、ステアリング操作が忙しい。最小回転半径は、ハリアーZと同じ5.7mで、ボディがコンパクトな割に大回りになる。
乗り心地は路上のデコボコを伝えやすいが、路面の段差で突き上げる粗さは生じにくい。3ドアボディに比べると、ホイールベースが長いために、前後方向の揺れも生じにくい。
悪路を走るとクルマが一気に生き生きする

以上のようにジムニーは、舗装路の走りは不得意だが、デコボコの激しい悪路に乗り入れると印象は激変する。舗装路で鈍く感じたステアリングの操舵感は、悪路ではちょうど良い。ステアリングのギヤ比がスローだから、路面状態に応じて、進路の細かな調節もしやすい。
4輪に備わる車軸式サスペンションは伸縮性が優れ、激しいデコボコでも、タイヤを路面に接地させやすい。駆動力の伝達効率を高く保てる。
激しいデコボコの乗り越えで、タイヤが路面を離れて空転すると、そのホイールに自動的にブレーキを作動させる。空転を抑えて、接地するタイヤを確実に駆動させる。
つまりノマドの走りは、ほかのジムニーシリーズと同様、悪路走破力を最優先させた。コンパクトなボディとの相乗効果で、悪路走破力は国産SUVの最高峰だ。その結果、舗装路での操舵感などが低下した。
このノマドの性格は、ユーザーの使い方にも影響を与える。優れた悪路走破力を発揮できないと、ノマドを選んだ価値も薄れるから、せめて雪道は走りたい。
特にジムニーシリーズの4WDは、悪路で駆動力を高める副変速機を備える代わりに、カーブを曲がる時に前後輪の回転数を調節するセンターデフなどを装着していない。従って舗装路は後輪駆動の2WDで走る。4WDの走行安定性を舗装路で生かせないことも注意点だ。
292万6000円の価格は妥当か

ノマドのグレードはFCのみで、LEDヘッドランプ、前後のフォグランプ、アルミホイール、前席シートヒーターなどを標準装着する。装備は実質的に上級グレードの内容で、価格は4速AT、5速MTともに292万6000円だ。
この価格はヤリスクロスハイブリッドZ・2WDの299万2000円に近い。ヤリスクロスにはハイブリッドが搭載され、ノマドには悪路に対応した副変速機付きの4WD、ラダー(梯型の)フレーム、耐久性の優れた足まわりが備わる。
ノマドFCの装備内容を3ドアのシエラに当てはめるとJCと同等だ。JCの価格は238万5900円だから、ボディを5ドアに拡大して内外装の装飾を上級化した対価は54万100円になる。
2025年における発売時点の価格差は、56万6500円に達したが、当時はノマドFCの運転支援機能や安全装備がシエラJCよりも充実していた。そのために当時の実質価格差は約40万円に収まり、今のノマドは以前よりも割高だ。
また2002年に発売された3代目ランドクルーザープラドに遡ると、2.7Lガソリンエンジンを搭載する3ドアショートボディの価格は約275万円で、5ドアロングボディは約290万円だった。15万円の価格差に、装備の違いを10万円として上乗せしても、ボディの実質価格差は25万円に収まった。

当時のSUVは、全般的に5ドアが割安で3ドアの販売は低迷したが、ノマドは輸入車でもあるからシエラよりも割高だ。そうなるとノマドの登場後も、悪路性能を重視するユーザーを中心にシエラも選ばれる。この価格設定は、売れ行きがノマドに偏るのを抑える効果も発揮するわけだ。
ノマドはファミリーユーザーに有利だが、1〜2名で乗車するならシエラも検討したい。前述の操舵感の鈍さも抑えられ、シエラにはノマドとは違う良さがある。
ジムニーノマド新車価格帯:292万6000円(ジムニー シエラのみ)