カーライフ
更新日:2026.07.20 / 掲載日:2026.07.20

免許の検査ではわからない視野欠損のリスク【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ

 40歳を超えると20人に1人、60歳以上では10人に1人が患っていると言われる緑内障。視神経に異常が起こり、視野の一部が欠損・狭窄する病気だ。自動車を運転するドライバーにとって大きなリスクとなるが、問題なのは本人が気付かないまま病気が進行することで、9割は自覚症状がないという。

 なぜ気付かないかと言えば、人間の脳が“おそらく、ここにはこんな風景があるはず”と予測して補完しているから。

 それはすごい機能だと驚くと同時に、ドライバーにとってはやっかいだ。視野欠損している場所や範囲は様々で、軽度ならばさほど問題にはならない。だが、例えばちょうど信号と重なっている部分だったら、赤信号なのに青信号と誤認、または信号機そのものがないと勘違いして進行してしまうかもしれない。

 あるいは左端が欠損していたら、左の路地から出てきた自動車や歩行者、自転車などに気付かないということもありうる。よく使う中心部の視力は最後まで残り、端の方から徐々に欠損していくとのことなので、後者のケースが多いだろう。

 日本の免許制度では視力検査が行われるが、視野欠損あるいは視野狭窄などは問われない。正確には「両眼で0.7以上、かつ一眼でそれぞれ0.3以上、または一眼の視力が0.3に満たない、若しくは一眼が見えない場合は、他眼の視野が左右150度以上で視力が0.7以上であること」とされている。

 一眼に問題を抱えていなければ視野は問われない、視力重視の制度となっている。ちなみに欧州(EU加盟国)では「両眼視力が0.5以上かつ水平方向120度以上、左右50度以上、上下20度以上、中心20度以内に欠損なし」という基準がある。

 課題は、緑内障が運転適性と大きな因果関係があることが、あまり知られていないこと。そこで「メガネのパリミキ」と「Honda」は、毎年3月上旬の世界緑内障週間にあわせて啓発運動を実施している。

メガネのパリミキでは緑内障リスクの周知のため、ホンダと協力して啓発活動を行っている

 パリミキの店内で、Hondaが用意したドライビングシミュレーターによって緑内障を疑似体験できるというものだ。Hondaは1970年に安全運転普及本部を立ち上げ、その活動の一環としてドライビングシミュレーターの開発・販売を行っている。教習所向けやリハビリ向けなど様々なラインアップがあるが、緑内障疑似体験用はパソコンとモニター(ノートパソコンでも可)、ゲーム用のハンドル、アクセル・ブレーキのペダルだけというシンプルな構成となっている。

 実際に体験してみると、右折してくる対向車がしばらくは見えず、視界の中央にいきなり現れ、急ブレーキでも衝突が避けられなかった。その他、信号機や標識、歩行者などが見えたり見えなかったりする。この状況で運転するのは危険だと感じた。

 ドライビングシミュレーターではかなり重度な方を再現しているものと思われ、ここまで進行すると自覚症状が出てくるかもしれない。だが、その一歩手前ぐらいがもっとも危険だろう。

ホンダのシミュレーターで緑内障による視野欠損を疑似体験する筆者

 また、運転している本人は自覚がなくても、よく同乗している家族が「何かおかしい」と気付くことも少なくない。「うちのお父さん、よく信号を見落とすのよね」などと思って注意するものの、自覚症状がないから「大丈夫、見えてるから」などと本人は意地を張ることもある。異変に気付いたら、眼科での検査(眼圧・眼底・視野)を薦めるべきだろう。むしろ、40歳以上のドライバーは症状がなくても定期的な検査を受けるのが望ましい。

 過去には、緑内障と同じく視野狭窄になる網膜色素変性症と診断され、医師から運転が困難と告げられた人が、交通死亡事故を起こしたことがある。民事訴訟ではその因果関係が認定され、「酒酔い運転の場合に匹敵」するのが相当となり、2500万円の賠償命令が下った。視野欠損・狭窄は恐ろしいものなのである。本来は、免許制度に視野狭窄の検査を入れるのが抜本的な対策になるだろうが、今のところは眼科での検査など自己防衛するしかない状況だ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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