車の最新技術
更新日:2026.03.16 / 掲載日:2026.03.16
テスラ FSD日本導入の現実味とハードル【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●篠原晃一
テスラのFSD(Supervised)=フルセルフドライビング(ドライバーの監視付き)は、すでにアメリカ、カナダ、中国、メキシコ、プエルトリコ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国で展開されている。カーナビで目的地を設定するとアクセルやブレーキ、ステアリング、ウインカーなどの操作をクルマ側が受け持つものだ。ただし、ドライバーには監視義務があり、自動運転レベル2ではある。
日本でも昨夏からテスト走行が始まり、国内専用テストドライバーが日本の道路事情に合わせながらブラッシュアップを図っている最中だが、先日アメリカからテストエンジニアが来日。新宿の市街地でテストを行うというので、同乗させてもらうことになった。

走行したのは新宿の都庁付近をスタートし、新宿駅や西新宿駅の周辺を巡って帰ってくる約3kmで、かかった時間は約20分。午前11時台で道はそれなりに混雑し、とくに歩行者の多い交差点や複数車線など複雑な状況ながら、ドライバーは一度も運転操作に介入することなく、最後はゴール地点とされた路上に、他の停止車両の隙間を見つけて停止して、テスト走行を終えた。
一度だけ、交差点を直進するにはどの車線にいるべきか、迷いをみせることはあったが、慣れていないと人間のドライバーでも迷いそうな場面で、FSD(Supervised)がむしろ人間らしく感じたものだ。ちなみに、雨の日に同地点でもっと迷ったことがあったというが、これも学習していくようだ。1日に10周ほどすると1~2回はテストドライバーが介入することもあるそうだが、完成度はかなり高まっていると感じられた。

複数車線の道路を走りながら右左折に備え、周囲の交通の状況を判断しながら適切に車線変更するなど、ベテランドライバーのように上手。単にプログラムに従っているのではなく、状況判断が賢いのだ。狭い道路で路上駐車車両がいて、対向車と譲り合いになったときも、ほとんど迷わずにクリアしていくのも印象的。新宿は整然とした道路環境ではなく、難しい判断が要求されるが、だからこそテストのしがいがあるという。テストエンジニアは、アメリカやオーストラリアなどよりも日本のほうがやや複雑ではあると感じているそうだ。

日本特有の難しさは、横断歩道を横断または横断しようとする歩行者がいる場合は、一時停止して通行を妨げてはならないというルールが徹底されていることへの対応で、テストドライバーの介入もそのケースが多いという。この点に関してはローカライズが必要だが、テスト走行によってデータが集まれば対応はそれほど難しくはないと予測しているそうだ。
緊急車両の検知については、車内のマイクによって行っているという。人間のドライバーがサイレンの音で判断するのと同じだ。
FSD(Supervised)が採用するセンサーは8個のカメラのみで、ミリ波レーダーやLiDARなどは使用しないヴィジョン・オンリーのシステムとなっている。映像をニューラルネットワーク(人間の脳の神経細胞を模倣した機械学習モデル)が処理し、環境を理解して適切な行動に移すというものだ。

FSD(Supervised)は世界中のユーザーやRobotaxiによって累計走行距離は約84億マイル(約130億km)。これは地球から太陽までの距離の約90倍に相当する。ニューラルネットワークは経験から判断を学ぶAIであり、膨大な走行データから「こういう状況ではこう運転する」という学習パターンは、新人ドライバーが経験を積むことで運転が上手くなっていくのと似ている。
従来の多くのAD/ADAS(自動運転/高度運転支援システム)は基本的にルールベースで作られている。赤信号なら停止、前のクルマに近づいたらブレーキなどの状況に合わせて、あらかじめプログラムされたルールで作動する。それに対して、FSD(Supervised)のようなタイプは“End-to-End”と呼ばれ、AIが最初から最後まで判断するタイプ。ルールベースは“認知・判断・操作”といった運転行為をそれぞれのプログラムに分け決められた条件で動いているが、End-to-EndはまとめてAIが学習し、判断するというのが違いだ。
テスラのアメリカでのデータによるとFSD(Supervised)使用時の重大事故は約530万マイルに1件、アメリカ平均の重大事故は約66万マイルに1件となっている。人間のように、瞬きやよそ見をせず、疲れることもなく360度にわたって周囲を常に広く監視ができることで安全性が高まっているのだ。

FSD(Supervised)の最新バージョンはV14だが、今回のテストはV13で行っている。V14はRobotaxi前提で開発されたもので、フレームレートや処理能力が向上しているのが特徴だという。日本展開時にどのバージョンが採用されるか未定だが、新市場ではV14になる可能性が高いそうだ。もっと古いバージョンでは、一部にルールベースが入っていたが、現在はほぼ完全なEnd-to-Endとなっているという。
もうあと少しでローカライズが完了して日本展開が可能になる段階に来ているが、まだ時期をアナウンスすることはできないそうだ。というのも、まだ規制の問題があるからだ。技術よりも、いまFSD(Supervised)の普及を左右しているのは規制だ。各国の自動運転基準は国連の自動車基準世界調和フォーラム(WP29)で調整されており、ここでの判断が日本を含む多くの国の導入時期を決めることになる。
WP29では、2026年6月後半に新たなAD/ADAS規制案の投票があり、そこで採択され、認可となれば一気に日本を始めとした大多数の地域で展開が可能になる。

これは自分の見立てだが、完全なEnd-to-Endは事故が起きたときに、その原因を説明しにくいという懸念があるのが引っかかるところではある。いくら安全でも、説明できないと認めないということになりかねない。とはいえ、一部ルールベースを採用すれば認められるなど、やり方はあるはずだ。夏頃には、FSD(Supervised)展開の新たなニュースが入ってくることに期待したい。