新車試乗レポート
更新日:2025.03.07 / 掲載日:2025.03.07
オーナー目線でチェックする改良新型CX-60【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
いきなり私事で恐縮だが、マツダCX-60のメディア向け試乗会には期待半分、不安半分で出かけた筆者。
期待とは「よくなっていて欲しい。どれだけ進化したのか楽しみ」というもの。逆に不安とは「よくなっていて欲しいけれど、よくなっていると少し寂しく悔しい」というものです。
2年間所有して実感したCX-60の良いところ・悪いところ

なぜそんな揺れる心境なのか。それは何を隠そう、筆者自身がCX-60オーナーだから。筆者が自身の愛車として選んだのは(ハイブリッドではない)ディーゼルの後輪駆動モデル。当時は半導体問題で長い納車待ちが発生していたこともあり、試乗せずに初期モデルを購入して2年が経ったところなのだ。
まずは、そんなオーナー目線でCX-60の“いいところ”からお伝えしましょうか。
まずは「上質感の高いインテリア」。筆者が選んだグレードはハイブリッド(XD)の上級内装となる「エクスクルーシブモード」ですが、表皮やパネルの仕立てからスイッチの精緻な感じまでインテリアの作り込みは心から素晴らしいと思えるもの。お世辞抜きに同じ価格帯のライバルを大きくリードしているのです。

インテリアは移動中常に見えるからその見栄えや雰囲気ってとても大事だと思うけど、CX-60は期待以上の合格点。これは素直にうれしい。
走り始めるとディーゼルエンジンのフィーリングもいい。湧き出すようなトルクで加速が楽だし、6気筒らしい滑らかさもしっかり味わえる(ディーゼルなので高回転の爽快感はないけれど)。今どき6気筒エンジンを堪能できるクルマはなかなか見当たらない(国産SUVでは兄弟の「CX-80」と「ランドクルーザー300」くらい?)。そういう意味でも貴重な存在だ。
それから、運転好きとしてはスポーティな運転感覚もたまらない。「我慢の前輪駆動」じゃなくて「アクセルを踏み込みながら曲がるのが楽しい後輪駆動(とそれベースの4WD)」でキビキビ走れ、ここまで曲がるのが気持ちいいSUVもなかなかお目にかかれない。峠道を走ったら…これ本当にSUVなの?っていうくらい楽しめる。



そして、燃費がいいことにも満足。ディーゼル車で高速をおとなしく巡航すれば平均燃費は20km/Lを超えるし、マイルドハイブリッドならさらに伸びる(走行中にエンジンを止めるのも効いているようだ)。この実燃費って凄くない?
3.3Lと排気量の大きな6気筒エンジンと聞けば、多くの人は「燃費が悪そう」と思うかもしれない。だけどこの排気量は「出力やトルクにゆとりを持つことで実用燃費を高める」というコンセプトに基づいたもの。日常の街中一般道でも(モーターなしで)15km/Lを超え、マイルドハイブリッドであれば18km/Lくらいになることだってある。とんでもない燃費番長なのだ。

フルハイブリッドにはかなわないとはいえ、燃料の軽油はガソリンより単価が安いからサイフにやさしい。燃料代を(ほかのクルマに比べると)気にせずロングドライブを楽しめるのが、最大の魅力かもしれない。
というわけで、オーナー目線で感じているCX-60のいいところを並べてみたが、お世辞抜きに輸入車ならあと300万円は高い価格帯のモデルだといえる。
ただ、いいところがあれは“悪いところ”もあるのが世の常だ。CX-60の場合は……個人的にもっとも気になっているのは乗り心地です。
言葉を選ばずに言うと、乗り心地はあまりよくない。ポイントは2つあり、まずは路面に凹凸があった際にそれを受けての入力に対して、衝撃が大きめに乗員に伝わってくること(とはいえ世の中にはもっと乗り心地の悪いクルマもあるが)。もうひとつは高速道路などで路面のうねりによっては、車体の上下動の収まりが悪いことだ。
参考までに、そんな乗り心地に関してはエンジンや駆動方式によって違いがあり、ディーゼル2WDモデルはマイルドハイブリッドやPHEVを含む4WDモデルに比べると比較的良好。また、デビュー後に(公式発表はなかったが)サスペンションの改良を受けたことで、改善が進んでいた。
改良新型のポイントは3つ

そんな状況で迎えたのが、今回の商品改良というわけ。どれだけよくなっているのかオーナーとしては心穏やかではないが、クルマがブラッシュアップされるのは喜ばしいことだ。
マツダによると、今回のポイントは3つ。
- ●操縦安定性、乗り心地の向上
- ●新グレード「XD SP」の設定
- ●特別仕様車「XD-HYBRID Trekker( ハイブリッド トレッカー)」の設定
……となっている。
他にもディーゼルエンジン搭載車の廉価グレードだった「XD」や「XD S パッケージ」が終了するなどラインナップのシンプル化はあるけれど、装備面などの違いとしてはアナウンスされているのは「XD L パッケージ」「XD エクスクルーシブモード」のサイドシグネチャーガーニッシュ(フロントフェンダーについている飾り)がクロームメッキ仕上げの上質なタイプになった程度だ(従来型「XD エクスクルーシブモード」オーナーとしてはやっとか⁉という気持ちだが)。従来は樹脂素地仕上げの質素な、色気のないタイプだったのだから。
というわけで、注目せずにいられないのはやはり乗り心地を念頭に置いたサスペンションの改良だ。ウィークポイントでもあっただけに。
結論からいえば、かなり良くなった。
路面からの突き上げも緩和されたし、路面のうねりに対する車体のフラット感もよくなった。もちろん世間相場に対して「良好な乗り心地」というわけではないけれど、これなら気にならない。
何かと話題になることが多いCX-60の乗り心地だが、はじめからこのくらいの水準だったらここまで語られることもなかっただろうというのが率直な気持ち。本当にそう感じた。
今回のサスペンション改良がどんなメニューかといえば、まずは前後ともにショックアブソーバーの伸び側の減衰力をアップ。加えてリヤのバネを柔らかくしてサスペンションがよりしなやかに動くようにしている。あわせてバンプストッパーやクロスメンバーブッシュの特性も変更。
いっぽうフロントはナックルの締結ポイントを変え、サスペンションの動きも再設計している。またパワステやシャシーなどの電子制御もそれらに最適化したという。
もっとも驚いたのは、4WDモデルを中心に採用されていたリヤスタビライザーを外したということ。リヤスタビライザーによりサスペンションの動きにコントロールがしきれない部分があったので、取り外すことでより理想に近く正確に動くようにしたのだという。いずれにせよ、これだけ広範囲にわたり変更されたということは、サスペンションを再セッティングしたに等しい。
今回の試乗車のパワートレインは「マイルドハイブリッド(4WD)」「ディーゼル4WD」そして「ディーゼル2WD」の3タイプだった。このなかで乗り心地がもっともストイックなのはマイルドハイブリッドだが、新型ではもっともマイルドなディーゼル2WDに近づき、両者の差がグッと縮まった印象。今回の改良は、乗り心地面でいうと“従来辛かった仕様”こそ進化幅が大きかった印象を受けた。発売タイミングの関係で今回は試乗できなかった「プラグインハイブリッド」に乗るのも非常に楽しみだ。
今にして思えば、これまでのCX-60は(スポーティな運転を楽しむなど)ハマれば満足度が高いもののスイートスポットが狭いクルマだったかもしれない。しかし改良を受けて、その範囲が広がったと断言できる。
新グレード「XD SP」と特別仕様車「XD ハイブリッド トレッカー」をチェック

ところで、新グレードの「XD SP」はどんなグレードか。
廃止された「XD S パッケージ」に代わるモデルで、装備はシンプルかつ見た目はスポーティな仕様と捉えればわかりやすい。レザーシートや電動テールゲートなどの採用はないが、「XD S Package」に対して大きな違いはスポーティなスタイルで、ハニカムタイプのグリルやブラック塗装の20インチアルミホイールなどで見た目がドレスアップされているのが特徴だ。
いっぽう特別仕様車「XD ハイブリッド トレッカー」は、このモデルしか選べないボディカラー「ジルコンサンド」を設定したほか、荷室と居住空間を隔てて積み上げた荷物の荷崩れを防ぐネット(通常の国内仕様には設定がない)やパノラマサンルーフも標準装備。アクティブな雰囲気と装備をコーディネートしている。
しかし、最大の注目ポイントはそこではなく、他グレードに比べて燃費がよくなっていることかもしれない。
実はこの「XD ハイブリッド トレッカー」のみ走行中のエンジン停止から始動の方法が通常モデルと異なり、駆動用モーターではなく(補器類バッテリーの電気で動く)セルを使ってエンジンを掛ける。それで駆動用バッテリーの消費電力をセーブし、セーブしたぶんモーター走行範囲が拡大して燃費が良くなるという理屈の新制御を搭載しているのだ。
ちなみにこの新制御は、モニターを通じての車両設定で従来制御との切り替えが可能となっているから面白い。
というわけで商品改良を受けた新型CX-60。しっかりと乗り味の進化を実感できたものの、初期型オーナーとしてはちょっとだけ嫉妬のような気持ちになったのはここだけの内緒としておこう。