輸入車[2020.05.28 UP]

【試乗レポート ジャガー Iペイス】電気自動車だからこそ際立つジャガーブランドの個性

ジャガー Iペイス HSE

文●工藤貴宏 写真●澤田和久、内藤敬仁

 電気自動車(EV)らしさを前面に出して表現するのか。それとも電気自動車らしさを主張しない、ガソリン車やエンジン車との違いを自己主張しない電気自動車にするのか。
 いよいよ、電気自動車が身近になりはじめてきたのだが、各自動車メーカーの悩みのひとつがそこにあるようだ。極端な例は新興電気自動車専門メーカーの「テスラ」である。同社のクルマは、とにかく過激な加速感が特徴。加速はスムーズで伸びやかなモーターの長所に加えて、ガソリン車やディーゼル車では味わえなかった、瞬時に大トルクを発生するモーターの特徴を最大に生かした発進の力強さを楽しむことができ、それを個性としている。強烈な加速を「電気自動車だからできること」として鮮烈にユーザーや世間へアピールすること手段としたのだ。
 いっぽうでメルセデス・ベンツの「EQC」は、「従来のクルマと変わらない感覚」をひとつのテーマとしている。たしかに、電気自動車らしくスムーズな加速はあるのだが、エンジン車に近い感覚に味付けしてあり、テスラのように電気自動車ならではの特徴を強い個性として主張しているわけではないのだ。
 もちろん、それは単純に「どちらがいい」とか「悪い」とかという話ではない。ユーザーに何を提供したいかというブランド作りの判断であり、「電気自動車だからエンジン車にはできないことを!」というテスラも、「従来のエンジン車の延長線上」というベンツもどちらも正解といっていい。
 では、ジャガー初の電気自動車となった「I-PACE(アイ・ペイス)」どちらか。“テスラ寄り”である。停止状態から100km/hまでの加速が4.8秒という加速の速さと鋭さをもって「ジャガーの考える電気自動車」としているのだ。それは「新しい世界を見せようとしている」と言い換えてもいいだろう。
 また、ジャガーは専用マシンによる国際格式の電気自動車レース「フォーミュラーE」に参戦したり、Iペイスのワンメイクレースを開催するなど電気自動車でも「走り」のイメージ作りをしている。それも同社の電気自動車戦略の一環なのだから、電気自動車の最初の市販モデルであるIペイスがパフォーマンス重視というのも納得できるものだ。
 ただし、テスラの高出力モデルのように「停止状態から全力で加速すると脳震とうを起こしそうなほど強烈」というほどの衝撃までは持ち合わせていない。そういう意味では、テスラに似た方向性だけどテスラほど過激ではないというのが正確なキャラクターだろう。

この記事の目次

ショートノーズのクーペSUVスタイルは先進的
スタイル以上に新鮮な感覚を味わえるコックピット
鋭い加速、安定したフットワークは、まさしくジャガー
パワートレインが変わってもジャガーらしさは守られた

ショートノーズのクーペSUVスタイルは先進的

 ボディサイズは全長4695mm×全幅1895mm。そして全高1565mm。スペック自体は、日本の水準でいえば全幅が大きなこと以外に特徴はない。しかし、いっぽうで実車を見るとスタイルは個性的だ。いわゆるクーペタイプSUVで、異様にタイヤとホイール(ベーシックタイプは18インチだが上級仕様は20インチを標準採用し、なんとオプションで22インチも設定!)が大きく、そのうえサイドウインドウよりも下の車体に厚みがある割にキャビンが薄いから独特のプロポーションなのだ。さらに、全長が4.7mもあるのにボンネットが短いのも特徴的。短いボンネットは従来のクルマと違ってエンジンがないから実現できたことで、いわゆるキャビンフォワードと呼ばれる前寄りのプロポーションにひと役買っている。これはロングノーズ&ショートデッキと呼ばれる古典的なスポーツカーのスタイルとは対照的な、先進的なスタイルそのものだ。ジャガーでは、エンジンを積むスポーツカーの「Fタイプ」を筆頭にセダンやSUVもロングノーズ&ショートデッキが基本。そういう意味でもIペイスのスタイルはこれまでのジャガーとは一線を画するものである。

スタイル以上に新鮮な感覚を味わえるコックピット

ディテールやデザイン言語は他のジャガー車と共通ながら、高い位置にスポーツカー的に座る着座姿勢が独特

 しかし、それ以上に不思議な感覚を味わえるのは室内だ。運転席に座ると、着座位置はSUVのように高い(床下へ大きなバッテリーを積む影響)のだが、ヒップポイントに対する床が高いので着座姿勢は一般的なセダンに近いもの。そのうえインパネはなだらかに傾斜するセンターコンソールなどが乗員を包み込むデザインでスポーツカー的な雰囲気。SUVであり、セダンであり、そしてスポーツカー。Iペイスの前席はそんな不思議な気分を味わえ、それは従来のジャンルごとに固まった概念にとらわれない「新しい感覚」といってもいいだろう。
 全面液晶のメーターパネルに、上部のナビ&エンターテイメント用と下部の空調用で2つのタッチパネルをセンターに組み合わせるなど、インパネまわりの仕立ても先進性を感じるもの。ただし、物理スイッチを皆無としてタブレット端末のような大きなディスプレイを鎮座させるテスラほど割り切らず、クルマらしい感覚を残しているといえるインターフェイスだ。断言できる美点は、テスラと違って従来のクルマの操作に慣れ親しんだひとでもなじみやすいということである。
 もちろん後席の居住性もしっかり確保されていて、日常的に後席を使うようなファミリーユーザーにも自信をもっておススメできる。できれば、驚異的に開口部が広い「パノラミックルーフ」の装着がオススメだ。オプション価格は22万8000円と高価だが、上空まで風景となる感覚は見事である。後席の頭上までガラスなのだから驚く!
 さらに荷室もミニマム状態で656Lと十分な広さ。もちろん後席を倒して荷室の延長が可能だし、ボンネット内にも収納スペースが用意されている。

クルマ中心に対してキャビンが前方に設置されているIペイス。着座位置は高いが姿勢は

クーペ的なルーフラインを描くものの、座ってしまえば後席も快適

フロントフードの下にはちょっとした荷物が収まる空間を用意

ラゲッジは床面に荷物固定用のアタッチメントを備えるなど使い勝手を考慮

SUVらしく荷室は使い方に合わせたアレンジが可能。後席シートはフラットにはならないタイプ

鋭い加速、安定したフットワークは、まさしくジャガー

サスペンションは標準のコイルスプリングに加えてエアサスペンションもオプションで提供

 パワートレインは全車共通で、床下に積むリチウムイオンバッテリーは90kWh。これは日産リーフの標準モデルが42kWhだと考えればかなり大きめで、そのメリットとして一充電での航続距離がWLTCモードで438kmと長めなことがあげられる。ただしその能力をフルに使おうとすると充電時間も長くなりがちで、出力50kWの急速充電器(日本仕様は日本の急速充電器であるCHAdeMO[チャデモ]に対応)でもバッテリーを使い切った状態から8割満たすまでに約85分かかる。200Vの普通充電だと、7kWの充電器で空の状態から100%フル充電まで約12.6時間。充電時間を考えると、日常的にはバッテリーを空にまで使うというより大容量を“ゆとり”と考えてマメに充電する使い方がいいだろう。

 そこに蓄えられたから電気から加速力を生むモーターは最高出力400馬力/最大トルク71.0kgmと驚異的なパフォーマンス。冒頭に書いたように鋭い加速を誇り、アクセルを全開にすると弾丸のような勢いで速度を増していく。そしてメーターを見ると予想を超える速度になっていることに驚いたりも“頻繁に”あったりもする。そんな強烈な加速ながら実速度を感じさせない安定感の理由は強靭な車体と優れた足まわりの賜物(たまもの)に他ならないが、そんなサスペンションは一般的なタイプ(コイルサスペンション)とエアサスペンションを選択可能。予算が許すのなら乗り心地にも優れるエアサスペンションがオススメだ。
 バッテリーを床下に積むことで重心が低いこと、駆動方式が4WDであること、そして前後重量配分を50対50としていることもあってハンドリングの落ち着きとコーナリングの安定感はさすが。ジャガーというスポーツブランドのイメージを裏切ることはない。そういう意味でも、このIペイスは位置づけ的にはSUVというジャンルながらしっかりとジャガーらしさを堪能できると断言できる。

充電ポートはフロントフェンダーに用意。200Vの普通充電に加えてCHAdeMO方式の急速充電にも対応する

パワートレインが変わってもジャガーらしさは守られた

電気自動車ならではのスタイル、走行性能を実現させながら、クルマのキャラクターはジャガーらしさをしっかり感じさせる

 電気自動車は現時点ではまだ「一般的」とは言い難い。しかし今後、爆発的に普及とはいかないだろうが、ジワジワと電気自動車が増えていくことは間違いないだろう。
 そのなかでジャガーはエンジンからモーターへどう移行しようとしているのか。間違いないのは、ジャガーはこれからも「速さ」と「スポーティ感」を守り続けていくことだろう。Iペイスに接して、そんなことを理解するとともになんだか安心した。これからもジャガーらしくあるということに。

 
  ジャガー Iペイス(電気的CVT・エアサスペンション仕様)


全長×全幅×全高 4695×1895×1565mm
ホイールベース 2990mm
トレッド前/後 1640/1660mm
車両重量 2240kg
バッテリー容量 90kWh
モーター最高出力 400ps/4250-5000rpm
モーター最大トルク 71.0kgm/1000-4000rpm
サスペンション前/後 ダブルウィッシュボーン/インテグラルリンク
ブレーキ前後 Vディスク
タイヤ前/後 245/50R20

ジャガー Iペイス 新車価格帯 976万円から1183万円




グーネット編集部

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クルマの楽しさを幅広いユーザーに伝えるため、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど 様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。 みなさんの中古車・新車購入の手助けになれればと考えています。

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