新車試乗レポート
更新日:2020.01.22 / 掲載日:2020.01.22

【試乗レポート 日産 e-4ORCE】今後登場するフルEV SUVに搭載される新技術を試乗

日産が現在開発中の電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載したテストカー

文●大音安弘 写真●日産自動車

 第46回の東京モーターショーで世界初公開されたEVクロスオーバーコンセプト「ニッサン・アリア・コンセプト」は、2019年1月7日より米国ラスベガスで開催される世界最大の家電及び電子機器の見本市である「CES2020」でも、日産の主役として北米初公開された。アリア・コンセプトは、今流行のSUVコンセプトカーだが、電動パワートレインや自動運転技術などの日産の先進技術が満載されており、その中身にも注目すべき点が多かった一台だったといえる。
 そのなかでも、最大のポイントは、電動パワートレインだろう。日本の自動車メーカーのなかでは、積極的にEVに取り組んで生きた日産であるが、これまでエンジン車で後輪のみをモーターで駆動する簡易的な「e-4WD」の採用例がある程度で、本格的な電動4WD車はなかった。その第一弾となるのが、このアリア・コンセプトなのだ。前後に1基ずつの高出力モーターを搭載し、前後のモータートルクやステアリング、ブレーキなどを統合制御することで、路面を問わず優れたトランクションと意のままのドライビングを実現しているという。「e-4ORCE」と名付けられたこの統合制御技術は、GT-Rの「アテーサE-TS」やエクストレイルなどに採用される「インテリジェント4×4」のノウハウも活かされているというから、まさに日産の走りの技術が惜しみなくつぎ込まれた次世代4WDシステムでもあるのだ。


【技術】CES2020 「Nissan Ariya コンセプト」技術概要

「e-4ORCE」は前後アクスルそれぞれに2基のモーターを搭載

フロントに加えてリヤアクスルにもモーターを搭載。これは市販化予定のアリアにも受け継がれるという

 そんな最新鋭4WD車の先行開発車両に試乗することができた。たった1台しかないテストカーは、リーフの高性能モデル「リーフe+」をベースに開発したもので、見た目もリーフそのものだ。しかし、よく見ると、オーバーフェンダーが装着されており、ワイドトレッド化が図られている。前後タイヤのサイズもノーマルと異なり、フロントが215/55R17、リヤが235/50R17となるので、その雰囲気は、通常のリーフよりもたくましく感じられた。モーターは、リーフそのものを利用しているので、ツインエンジンとでも呼びたくなる。リーフe+の最高出力が160kW(160馬力)、最大トルク340Nmに対して、テストカーは、最高出力227kW(304馬力)、最大トルク680Nmを発揮。つまり、パワーで約1.4倍、トルクは2倍というモンスターマシンに仕上げられているのだ。「e-4ORCE」が一体どんな動きを見せるのか、興味津々になったのはいうまでもない。

4輪のトルクを緻密に制御する「e-4ORCE」がもたらすメリット

テストカーでは走行中、駆動システムがどのように働いているかを表示するモニターが装着されていた

 今回の試乗では、ドライバーがグループで1名のみに限定されており、くじ運が悪い私は、同乗体験のみに。しかし、それが統合制御のすごさをより強く感じることにつながった。
 まずは加速性能だ。リーフ2台分のモーターを備えるだけあり、より俊敏な加速が味わえた。そのリニアな加速は、EVならではだが、強烈な加速力だけなら、何もEVの用はない。既存のエンジン車でも味わうことは出来る。このテストカーのすごさは、加減速時の車両姿勢にある。とくに分かりやすいのが減速時。通常、アクセルオフでは、エンジン車ではエンジンブレーキが、EVなら回生ブレーキがかかる。回生ブレーキの強さは調整できるが、やはり減速Gが発生することに変わりはなく、乗員の身体は、前方へと引き寄せられる。しかし、テストカーは、減速Gがかなり緩やかだ。このため、ドライバー以外の乗員は姿勢の変化が極めて少ない。体への負荷は、低い速度や緩やかな速度レベルしかない。これは前後のモーターを繊細に制御すること実現されたもので、車体の姿勢を出来るだけ安定させるようにしているのだ。この制御は、凹凸のある路面を通過するときにも有効だという。クルマ酔いしやすい人には、「e-4ORCE」はまさに救世主となる機能といえそうだ。それくらい動きは抑制されるのだ。
 さらに、4輪ブレーキの個別制御を加えることで、ハンドリング性能の向上が図られるという。この動きを試すために、スラロームテストや旋回走行を行ったが、同乗走行でも体感する横Gとタイヤのスキール音の違いから、より理想的なルートを駆け抜けることができていることを感じられた。これも通常走行時なら、より横揺れを抑えてくれるはずだから、乗員へ快適さの向上につながるだろう。何はともあれ、運転せずとも体感でこれだけの差が感じられるのは、驚きであった。

EVが普及したその先で求められるのは「走りの質」だ

「e-4ORCE」は、瞬時に四輪のトルクをコントロールすることで、意のままのハンドリングを実現する

 まだハードルの高さを感じるEVだが、日常的にはEV感覚で使えるPHEVの拡大もあり、その選択肢は確実に増えている。その一方で、モーターによるリニアな加速が、必ずしもドライバーや乗員にとって心地よいものでないことを感じてきた。ところが、最近の欧州ブランドのEVだと、EVらしさをいかしつつ、乗員に違和感が少ないような乗り味や動きのチューニングに注力しているなと感じている。日産の「e-4ORCE」は、まさにEVのネガ解消をねらったものといえるだろう。現代のEVにおいて、航続距離が最重要視されているが、それはバッテリーの進化やインフラ整備の拡大などでいずれ解消されていくだろう。そうすると、エンジン車同様に、いや、これまで以上に質が問われるようになる。消費者の目が肥えるのは、早い。
 日産は電動車の普及を目指して、EVだけでなく、ハイブリッドの「e-Power」を投入してきた。ただそれはリーフの応用であり、つぎの一歩とは異なるものだ。「e-4ORCE」こそ、コツコツとリーフで培ってきた電動化技術のつぎのフェーズであり、新たな電動車の世界を見せてくれるものだと思う。日産の電動車は、これからの方がずっと面白くなりそうだ。

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グーネットマガジン編集部

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