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更新日:2018.11.07 / 掲載日:2018.02.27

車両運動統合制御システム「S-AWC」大解剖!

現在の三菱車を特徴づける大きなファクターが「S-AWC」と呼ばれる車両運動統合制御システム。ランサーエボリューションXに採用され、卓越した運動性能を発揮したのは記憶に新しいが、その仕組みはいかなるものなのだろうか? 開発者にじっくりと話を聞いてみた。
●文/山本シンヤ

三菱自動車工業株式会社 EV・パワートレイン技術開発部 チーフテクノロジーエンジニア 博士(工学) 澤瀬 薫氏

●S‐AWCの機構は車種で異なりますが、どれが本命ですか?
◆澤瀬◆ S‐AWCはハードではなくソフト(=制御)の考え方に特徴があります。状況に応じて制御を変えるのではなく、色々な場面を想定して一つの制御で上手くやろうというのが特徴です。
●それは、どのようなメリットがあるのでしょうか?
◆澤瀬◆ 走行状況に応じて、車両運動に関わる制御機構を遂次選択し、その制御量を変える一般的な方法(=スイッチング制御)は一定の走行条件だと有効ですが、ユーザーは様々な道を連続して走る上に、運転も気分などによって絶えず変化します。そうなると制御機構の切り替え時などに、違和感が出るのです。一方、S‐AWCは車両運動制御のための様々なパラメーターを常時複合的に変化させます。そのため、その時にピッタリな制御をすることが可能なのです。
●人間の感覚に合う制御というのはそこがポイントなんですね。
◆澤瀬◆ 人間は絶対評価よりも変化に敏感なので相対評価は得意です。乗っていて違和感がない→クルマに対する信頼感が上がる→気持ちいい走りに繋がると思います。
●澤瀬さんは、いつ頃それに気が付いたのでしょうか?
◆澤瀬◆ 私がこの世界で仕事を始めたのが1988年、最初に手掛けたのが2代目ギャランVR‐4にOP設定された電子制御センターデフ式4WDです。この時は「今は加速旋回」、「今は減速旋回」と場面を切り替えて最適化を図るスイッチング制御でした。確かに社内テストだと成績もいいのですが、一般道だと違和感が出てしまう。テストドライバーも同意見だったので、統合制御を目指しました。
●やってみてどうでした?
◆澤瀬◆ 想像と実際では大違い。加速旋回をよくしようと思っていても、減速旋回の事を考えて想像しなければいけません。あっちを立てればこっちが立たず、ある意味、無限ループ。ただ、走り込めば走り込むほどよくなっていくので勘所も身についてきました。
●電子デバイスにもかかわらず、職人的な作り込みですよね
◆澤瀬◆ スイッチング制御はマニュアルがあればある程度できますが、統合制御は別次元。なので、弊社の制御職人は、実際にクルマの後ろに乗って、評価ドライバーと一緒にクルマの動きを感じながらセットアップを行なっています。
●とても地道な開発ですね。
◆澤瀬◆ 現在、弊社はルノー・日産とアライアンス関係ですが、「変わったやり方だ」とよく言われます。
●では、S‐AWCの統合制御をするために必要なデバイスは?
◆澤瀬◆ ハードで言えば、「4WD」、「何らかのベクタリング機能」、「横滑り防止装置」の3点。更に電動化パワートレーンだと前後駆動力配分がやりやすいので、もっと色々なことが可能です。
●エクリプス クロスの4WD(電子制御カップリング)は多くのライバル車と同様ですが、どのように統合制御するのですか?
◆澤瀬◆ ハンドル角と車速、それに対してヨーレートフィードバックを行なうのは同じですが、その差を基準値に近づけるために、電子制御カップリングを使うべきか?ブレーキAYCを使うべきか? それらを走行状態(加速、減速、アンダーステア、オーバーステア)を連続的に見ながら、トータルのヨーモーメントをどう出すかをミックスさせながら判断します。この考え方はランエボXと同じです。
●ランエボXとエクリプス クロスのS‐AWCは同じだと?
◆澤瀬◆ 端的に言えば「YES」。道具が違うだけで頭脳は一緒です。
●なぜ、他社では同じことをやらないのでしょうか?
◆澤瀬◆ 一番は各制御の担当者が違って、別々に作り上げるからでしょうね。弊社は幸か不幸か部隊が小さいので、周りに皆がいて、私のように全部が気になる人が常にディスカッションをしています。
●これこそ、日本しかできない擦り合わせ文化だと思います。

  • エクリプスクロスは電子制御4WDにブレーキAYCをプラス。

     アウトランダー(ガソリン車)でも採用される電子制御カップリング式4WDにブレーキAYC、ASCを組み合わせたシンプルでコンパクトな構成の「S-AWC」を採用した。アウトランダーよりも車両重量が軽い上にスポーティなキャラクターということで、普段は操縦性と安定性を上手にバランスさせた走りだが、ドライバーの意志でオーバーステアにすることも可能な懐の深い「意のままの走り」も可能にしている。S-AWCの考え方はクロスオーバーSUVシリーズの中では、ランエボXに最も近いかもしれない。モード切り替えはオート、グラベル、スノーの3つを用意。

  • アウトランダー(メーカーOP装着車)は悪路走破性を高めるアクティブフロントデフが特徴。

     電子制御カップリング式4WDにブレーキAYC、ASCに加えて、EPS(電動パワーステアリング)と電子制御クラッチでフロントデフを制御し、前輪左右の駆動力配分を制御するAFD(アクティブフロントデファレンシャル)がプラスされる。アウトランダーのキャラクターに合わせて安定方向の味付けになっている。モード切り替えは通常はFFで燃費を稼ぎ、滑りやすい路面では4WDに自動的に切り替わるAWC ECO、ノーマル、スノー、LOCKと4つのモードを用意。AFDは主に悪路走破性を高めるための採用のようだが、あまり積極的にアピールしていないのが惜しいところ。

  • アウトランダーPHEVはツインモーター4WDとブレーキAYCのコンビ。

     他の4WDシステムとは根本的に異なり。高トルクを発生するモーターを前後に搭載。機械的には繋がっておらず、モーターの持つ優れたレスポンスを活かし、クルマの走行状況、路面μの変化に対し瞬時に的確な前後左右の駆動力配分をコントロール。結果、4つのタイヤの性能をバランスよく最大限に発揮することで、ドライバーの意のままのライントレース性を実現。モードはオンオフ問わずオールマイティなノーマルのほか、AYCの差動制限を引き上げて前後駆動力配分をより積極的に行うことで悪路走破性を高めるAWD LOCKの2つを用意する。

  • ランサーエボリューションXはACD、AYC、ASC、ABSを統合制御。

     S-AWCの概念を用いた初のシステム。フロントはブレーキ制御(ABS/ASC)、センターデフ(ACD)、リヤデフ(AYC)を統合制御することで、4つのタイヤを効果的に使うことが可能となり、ハイレベルな運動性能とシームレスな車両挙動を実現。誰もが安全に、速く、楽しく走ることが可能だ。特にオンロードではサーキットユースなどの過酷なシーンでも応えられる性能を持ちレースやラリーでも活躍。ドライ路面用のターマック、ウェット/ダート用のグラベル、雪道用のスノーと3つのモードを用意。エボXで培った制御技術が今の三菱車すべてに応用されている。




提供元:月刊自家用車


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