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2023年11月17日 17:01自動車・モータースポーツ雑記 第五回「ドラッグレースについて」

つい先日まで夏のような暑さが続いたと思えば、ここ数日で急激に寒くなりましたね。そのくせ晴れの日の日中は普通に暑かったりで困ったものです。
さて、世間はラリージャパンで盛り上がっているであろう中今回の自動車・モータースポーツ雑記シリーズはラリーと全く関係ない話題、”ドラッグレース”についてです。「アメリカ人が好きそう」とか「ただ真っ直ぐ走るだけじゃん!!」とかざっくりしたイメージで軽く見られがちな競技ですが、知れば知るほど奥が深い世界…今回はその片鱗だけでもお伝えできれば、と思います。

ドラッグレースとは、短い直線で停止状態からスタートしゴール地点までの速さを競う競技です。通常1/4マイル(402.336m)の距離で競技が行われますが、日本ではメートル法でキリの良い400mに改められた“ゼロヨン”としてメジャーですね。
この1/4マイルという距離はまだドラッグレースが若者たちの違法なストリートレースだった草創期、電柱4本分の距離を目安にスタートとゴールを決めたことに由来すると言われています。また、2008年に起きたスコット・カリッタ選手のファニーカーでの死亡事故を受けNHRAでは2009年からトップフューエル・ドラッグスター及びファニーカーの競技距離を1000フィート(304.8m)に短縮しました。

多くの場合は2台のマシンが1対1で走るトーナメント制レースとして行われますが、一部では4レーン・4台のマシンが一斉にスタートしそのうち1台が勝ち抜けする方式のトーナメントも存在します。
スタートシグナルには通称“クリスマスツリー”と呼ばれるドラッグレース固有のものが使われます。シグナルランプは上から順にコースインの合図のプレステージランプ、スタート準備完了の合図であるステージングランプ、スタートまでのカウントダウンを図る3連のアンバーランプと競技開始の合図であるグリーンランプ、そしてフライングによる失格判定時に点灯するレッドランプの順で構成されています。

プレステージ/ステージングランプは設置されている光電管を遮ることで点灯し、出走する全車のステージングが完了するとじきにカウントダウンが開始されますが、このカウント方式にもストックスタートとプロスタートと呼ばれるものの二種類が存在します。前者はアンバーランプが上から順に1つずつ0.5秒間隔で点灯した後更に0.5秒後にグリーンが点灯する方式、後者は3つのアンバーランプが同時に点灯しその0.4秒後にグリーンが点灯する方式です。ここで重要になってくるのが、グリーンの点灯を認識してからスタートを切ったのでは遅いということです。

どういうことかというと、グリーンが点灯した状態であれば何秒以内でもマシンが動き出して問題ないのですが、人間の反射神経の限界を考慮すると光を認識してからマシンに発進操作を入力し実際に車が動き出すまでにはどんなに早くても0.4秒掛かると言われており、グリーンが点灯した後にスタートを切ればどんなに早くともその0.4秒がロスとして圧し掛かってくるわけです。その為ストックスタートでは3つ目のアンバーの点灯から0.5秒のタイミングを取りスタートを切り、プロスタートではアンバーの点灯を認識した瞬間にスタートを切る形になります。ドライバーにとっては事実上アンバーの方がスタートの合図で、グリーンはフライング判定の目安でしかないんですね。

最もメジャーなドラッグレースシリーズと言えば、NHRA(全米ホットロッド協会)が統括し1965年からの長い歴史を持つNHRAチャンピオン・ドラッグ・レーシング・シリーズ。発祥の地である北米で独自に発展してきたこのシリーズですが、その中でも花形と言える存在はやはり最高峰であるトップフューエル・ドラッグスターをおいて他にないでしょう。304.8mを4秒以内で走破し100mph(160.93km/h)に到達するまでに要する時間は僅か0.8秒、フィニッシュライン通過時点での終速は500km/h超…トップフューエルは、加速に全てを捧げた正に“怪物”です。世界最高の加速を誇るジェットコースターとして知られ骨折事故の発生により現在も運休状態である富士急ハイランドの『ド・ドドンパ』でも1.56秒で180km/h、戦闘機のカタパルト発艦ですら2秒で260km/h程度と言われており、それらを凌ぐことからもこの加速性能がいかに異常であるかが解るかと思います。

マシンの外観は7600mm程の非常に長いホイールベースを持つ細長いオープンホイールスタイルの車両で、転がり抵抗を極限まで削る為の自転車のような非常に細いフロントタイヤと強大なパワーを路面に余すことなく伝え切る為のマッシヴで扁平も分厚いリアタイヤを装着しています。リフト防止の為に前後に強大なウィングが装備されていますが、車体そのものには複雑な空力的処理は施されておらず非常にシンプル。強烈なトラクションによるフロントリフトの抑制の為にウィリーストップバーと呼ばれる小さな車輪がリアに装備され、またその上には機械的なブレーキのみではフィニッシュ後の停止に必要な充分な制動力が得られないためドラッグシュートと呼ばれる空気抵抗を利用するパラシュートのようなブレーキが格納された状態で装備されています。

エンジンはドライバー後方に搭載されるミッドシップスタイルですが、1970年代前半までのドラッグスターはドライバーの前方にエンジンが搭載されており、中でも“スリングショット”と呼ばれるリアオーバーハングを着座位置とするスタイルのものが主流となっていました。スリングショットスタイルのマシンは優れたトラクション性能を持つ反面、極度のリアヘビーによって引き起こされるフロントリフトやテールブレイク時のリカバリーの困難さといった操縦性の問題を抱えており、またエンジンや駆動系が破損した際に部品の破片や加熱された油脂類が直後のドライバーを襲うため非常に危険でした。

“ビッグ・ダディ”の愛称で親しまれるドン・ガーリッツもスリングショット・ドラッグスターの危険性を身を以って味わった一人ですが、彼がスワンプ・ラット13のクラッシュによる負傷で入院している間に設計し71年にデビューしたスワンプ・ラット14はリアエンジン・ドラッグスターの最初の成功作として知られ、現在に続くリアエンジン・ドラッグスターの潮流を作ったとされています。2012年からクローズドコクピットが許可された以外では、現在でもこの70年代のリアエンジン・ドラッグスターからの外観上の大きな変化はありません。

現在トップフューエルに使用されているエンジンは古典的なV8 OHVエンジンであるクライスラーRBヘミの基本設計をベースとしているものの、ブロックやクランクシャフトといったエンジンの基礎とも言える最も重要な部分まで専用部品で構成されたレース専用の別物。 使用される燃料はナイトロメタン9割にメタノール1割の混合燃料ですが、このナイトロメタンは空燃比が非常に優れており同排気量ならガソリンの2~3倍近い馬力を絞り出せるとされ、これがトップフューエルという名称の由来になっています。またナイトロメタンは気化時に多くの熱を奪う性質も持ち合わせ、レース時間が極短く持続的な冷却性能をほぼ必要としない関係からトップフューエル用エンジンは燃料冷却に完全に依存しています。その為、CNCによって削り出された専用のアルミ鍛造ビレットエンジンブロックには冷却水を通すためのウォータージャケットも表面積を増やして大気に熱を放出するための空冷フィンも存在しません。そうすることによってケース剛性を上げ、強烈なパワーに耐えられるようにしているのです。

クランクシャフトとカムシャフトはどちらも頑丈なスチールビレットですが、コンロッドには他のモータースポーツに於いて好まれるチタニウム製ではなく鍛造アルミニウム製を採用。これはチタン製ではその強烈すぎる燃焼エネルギーをコンロッド大端部からメタルやクランクに伝え過ぎてしまいより重要な部分にダメージが及んでしまう為、またコンロッドが破断した場合にも他の部位に及ぶダメージをより小さく済ませ修復を容易にするために軟らかいアルミを使用しているのだそうです。こうして凄まじい品質・精度で組み上げられたエンジンはルーツ式スーパーチャージャーによって過給され、8.19Lの排気量から推定8000~10000馬力と言われる規格外のパワーと1000kgf・m超の圧倒的なトルクを発生。これを路面に伝える為のドライブトレインはなんと前進1段ですが、遠心式でミートを制御する特殊なクラッチと遠心力により外径が大きく膨らむリアタイヤが組み合わせられ無段変速のような効果を付加されます。

一瞬の加速の為に全ての要素が組み上げられたトップフューエル用のエンジンは10秒以上の全開には耐えられないとされ、一回の走行毎にフルオーバーホールを必要とします。レースとレースのインターバルの間に実施されるエンジンオーバーホールもまた、トップフューエルの魅力の一つと言えるでしょう。

排気管は極短く各シリンダー独立で上向きに排気されますが、これは排圧をトラクション確保のダウンフォースとして利用する為。なんと排圧だけで500㎏近いダウンフォースを発生すると言われています。前後のウィングが発生するものと合わせ、最高速度時のダウンフォースは5400kg超!!また、消音を考慮されていないエキゾーストによって排気音は約150 dBに達し、これは耳栓なしでは聴力や身体機能に悪影響が及ぶレベルとされています。何から何まで規格外の競技です。

マシン以外にもドラッグレースならではの工夫があります。ドラッグストリップにはVHT社のトラックバイトという強力なグリップ剤が撒かれており、靴が地面に張り付いてしまうほどの粘着力を発揮します。これによって10000馬力に迫るパワーをほとんどホイールスピン無しで路面に叩き付け、まるでカタパルトのようなスタートを実現することができるのです。

単純かつ大味で、一見簡単そうに見えるドラッグレース。しかし競技時間が極端に短く、ロードトラックのレースではミスに入らないレベルの僅かなミスが決定的な差となるシビアさがあります。そして、強烈なパワーを誇るドラッグマシンはフロントリフトによって直進させるにも技術を要します。大味なパワープレイを実現する為には非常に精密・緻密な技術がドライバー・メカニック共に要求されるのです。

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