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2023年07月11日 17:29自動車・モータースポーツ雑記 第四回「自動車の重量配分について」

車の前後バランスについて深く考えたことはありますでしょうか?
一口に言っても重量バランスであったり、ブレーキバランスであったり、スプリングレートや減衰力のバランスであったり、はたまた空力のバランスであったりするわけですが、これらは密接に絡み合っておりそれぞれ単体で考えられるものではありません。とはいえ全てを絡めて文章化するのは難しく文章量も膨大になってしまうため、今回は主に重量配分にフォーカスした話をしていきましょう。

よく言われている「前後重量バランスは50対50が理想的」という話は確かにその通りで、スポーツ性を売りにした多くの車種に於いて宣伝文句にもなっていますが、実際には単に重量配分だけを50対50にしても理想的な動力性能が実現されるわけではありません。

例えば前軸に重量配分が僅かに偏った車があるとして、バッテリーのような重量物をリアのオーバーハングに移したらどうなるでしょう?確かに額面上は「前後重量配分50対50」を謳えるかもしれません。が、車の中心から遠く離れた、それもホイールベースの外であるオーバーハングに重量物を置くというのはそれが振り子として作用し慣性によって余計なヨーモーメントを発生させてしまったり、旋回初期の応答性・軽快感をスポイルしてしまったりするわけです。つまりは重量物がどこに配置されているかが重要なわけで、可能な限りオーバーハングを避けホイールベースの内側に、更に言えばホイールベースの中心に近付けて重量物を配置したいわけですが、実際には市販乗用車の多くがその位置にキャビンを配置しているので居住性との折り合いもあり、その制約の中でも50対50を実現するための苦肉の策が“重り戦法”だと言えるでしょう。

自動車には前輪を駆動するものと後輪を駆動するもの、総輪を駆動するものがあり、そこから更にエンジンの搭載位置によって大まかに駆動方式が区分されます。エンジンやそれに付随するトランスミッション等の駆動系は自動車を構成する部品の中でも最も重い部類のものですので、その搭載位置は前後重量配分を含む車の基本特性を決定付ける基礎の部分と言えるでしょう。現在普及している一般的な乗用車の多くはフロントエンジン・フロントドライブ(FF)を採用しており、FFが普及する以前は一般的だったフロントエンジン・リアドライブ(FR)は一部のスポーツカーやハイクラスなセダン、商用バン等に採用されるに留まります。FFは居住スペースを広く確保できコストも安価に抑えられることから普及しましたが、重量バランスが極端にフロントに偏ることや加速時に荷重が抜ける前輪を駆動輪とすること、タイヤへの負担が前輪に集中すること、トルクステアやタックインを始めとした限界付近のトリッキーな挙動等から走りの面では理想的な仕組みであるとは言い難い駆動方式です。

駆動輪がフロントであるということはエンジンブレーキも前輪にかかるわけで、減速時はひたすら前につんのめる方向に力が働き、リアの軽さも相俟ってハードブレーキング時には後輪の接地荷重が抜けやすく非常に不安定な傾向にあります。これがFRであれば前軸上にエンジンが位置しそこから後軸に向かってトランスミッション→プロペラシャフト→リアディファレンシャルと駆動系が配置され重量物が分散しており、リアにある程度重りがあること、エンジンブレーキが後輪にかかることによってリアが多少沈み込む方向に力が発生することなどからシフトダウン時のブリッピングさえ正確に行えればFFよりもブレーキングを多少安定させ易くなります。

後軸より後ろにエンジンを搭載し後輪を駆動するリアエンジン・リアドライブ(RR)という駆動方式もありポルシェの911がこの駆動方式に拘り続けていることで有名ですが、後軸に大きな重しが掛かることによる加速時の強烈なトラクションやブレーキング時の絶大なスタビリティ等大きなメリットもある一方でフロントが極端に軽い為に前軸の接地荷重が不足しアンダーステアが発生し易く、そのくせリアタイヤがグリップを失えばリアオーバーハングに搭載されたエンジンは振り子となり非常に素早く制御が困難なスピンモーションを誘発する等トリッキーな性格を持ちます。

このように重心位置が前後どちらかに偏っていると何らかの悪癖が発生するわけです。そして、それらを解決しよりニュートラルな特性を得るためにエンジンを車の中心、即ちホイールベースの内側に収めたレイアウトを“ミッドシップ”と呼びます。前述の「重量物を中心に寄せる」という点でこれ以上有利なレイアウトは無く、実際にフォーミュラカーやスポーツプロトタイプといったレース専用に作られた車両の殆どがこのレイアウトを採用していることからもその動力性能に於ける優位性に疑いの余地はないでしょう。一般的にはドライバーの背後にエンジンを配置し後輪を駆動するものを指すことが多いですが、広義ではフロントエンジン車でもエンジンがホイールベース内に収まっていればミッドシップに定義されます(通称フロントミッドシップ)し、駆動輪が後輪だろうが前輪だろうが総輪だろうがミッドシップなのです。が、ここにちょっとした落とし穴があります。

ホイールベースの内側に収まっていればいいということは、ホイールベースの中心から大きく離れていても、なんなら車軸に多少エンジンが被っていてもミッドシップということになってしまうのです。純粋なレーシングカーであればコストの制約が少ないため縦置きミッドシップを採用でき、且つドライバー一人が乗れればいいのでエンジン搭載位置はかなり中心に近付けられますが、市販車ではローコストであることやある程度の居住スペースが求められることが多くレーシングカーのように走ることだけを考えて設計することはできません。実際、エンジンをドライバーより後ろに搭載する市販のミッドシップスポーツカーは一部の高価格帯のものを除きその多くがジアコーザ式FFのドライブトレインをリアに移設した安価に設計可能な「横置きミッドシップ」と呼ばれる方式を採用しています。

この方式ではミッションとエンジンが並列に直結されており、且つFFのトランスアクスルをそのまま使う関係上車軸とミッションの距離を離せず、結果的にエンジンはリア車軸のほぼ直上に来てしまいます。こうなると、特性としては限りなくRRに近いミッドシップになってしまうわけですね。この方式には他にもドライブシャフトに無理の掛からないように設計すれば必然的にエンジン搭載位置が高くなってしまう=重心を低く設計するのが難しい、リア車軸位置の制約からサスペンションもエンジン・ミッションと並列にしか配置できない=レバー比を稼げない・サスペンションアームのピボット位置に制限があり理想的なジオメトリを追求できないといったような多くのデメリットがあり、お世辞にも速く走る上で理想的であるとは言い辛いのが現実です。

よく言われる「ミッドシップはオーバーステア傾向でスピンしやすい」というのはこれらの横置きミッドシップ故の設計上の制約に起因するものを指して言われている場合が多く、ミッドシップレイアウトのメリットを正しく理解し設計された“本物のミッドシップ”であればむしろ基本特性はアンダー傾向で、ドライバーが意図した分だけの姿勢変化を正確に引き出しやすく限界も高い乗り物になるはずなのです。

そういった意味ではフロントミッドシップの方が車軸位置とエンジンを切り離して設計できる・エンジンの全長次第では前軸より後ろにエンジンを収めるのも難しくない・エンジンに次ぐ重量物であるミッションは殆どホイールベースの中心に位置する・エンジンは縦置きのため幅を取らずサスペンションジオメトリの制約も少ない等良いこと尽くめで、横置きリアミッドシップより遥かに真のミッドシップに近いよりピュアに走りを追求できるレイアウトであると言えるでしょう。かつてはスポーツプロトタイプの世界でも1983年・84年のIMSA GTPを戦ったフォード・マスタングGTPや99年から2000年代初頭のALMS/ル・マン等を戦ったパノス・LMP-1ロードスターSといったマシンがフロントミッドシップレイアウトを採用した事例がありました。

前者のマスタングGTPはデビュー戦でいきなり勝利を挙げその後も予選では幾度かポールポジションを奪取する程の速さを見せたものの、決勝では信頼性やタイヤマネジメントの問題に苦しめられ完走もままならない有り様で鳴かず飛ばずでしたが、後者のパノスに関しては幾多の勝利や好成績を残しデビューイヤーの99年にはALMSのチームタイトルを獲得、その後も改良を加えられながら5年もの間第一線で運用され続け、特異なコンセプトながらも当時最強を誇ったアウディR8に一矢報いる等一定の成功を収めたマシンとして知られています。また、通常のミッドシップ車と比べて前軸に掛かる制止荷重が多かった為かウェットコンディションを得意としていたのも特長でした。とはいえこのパノスもキープコンセプトの後継機として開発した筈だったLMP07が完全なる失敗作だったために旧来のLMP-1ロードスターSの改良型(LMP01 Evo)投入に踏み切っており、薄氷の上のバランスで成り立っていたマシンだったと言えるかもしれません。

ちなみにスポーツプロトタイプに於いてフロントエンジンレイアウトを採用することは空力面の設計自由度に於いてもメリットを得ることができると言われていますが、その辺りの話はまたの機会にしましょう。

というわけで脱線しつつ色々小難しく書き連ねて来ましたが、要約すれば『マスの集中化』を抜きに前後重量配分だけを語るとおかしなことになるよ、ミッドシップレイアウトという字面が重要なのではなく肝心なのはその中身だよ、という話です。まあ、どうこう言ったところで我々庶民の手が届く価格帯の“本物のミッドシップ”というのは殆ど存在しないのが現実なのですが…

例え縦置きミッドシップであっても公道を走る前提で設計されている車はどこかで走りに最適化できない“妥協”が生まれてしまうわけで、そんなにまで拘るのなら結局はレーシングカーを買ってサーキットを走る以上の最適解は無いという話になってしまいます。無論そんなことをできるのは一握りの人間に限られますし、ナンバー付きの車でたまにスポーツ走行を嗜む程度であれば素性の良し悪しや額面のスペックに過剰に拘らず、むしろあらゆる悪いところを理解した上でそれでも理屈抜きに乗りたい車がその人にとっての最適解であると言えるでしょう。ただ、そういった心に決めた最愛の車をより速く走らせたい!!という願望が生まれてきた時に『オーバーハングの軽量化』や『マスの集中化』を念頭に置いて車を改良していけば、より良い結果が得られるかもしれません。

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