新車試乗レポート
更新日:2022.04.25 / 掲載日:2022.04.22
【試乗レポート 日産 アリア】ついに発売開始した日産EV第2弾の実力をチェック!

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
ついに納車がスタートした「アリア」は、「リーフ」に続く乗用モデル第2弾となる日産のEV(電気自動車)だ。
日産2台目となる電気自動車はSUVタイプで登場。バッテリー容量と駆動方式が異なる4タイプが存在
車格的には(そして価格的にも)リーフよりも上のポジションとなる。価格は539万円からだが、クリーンエネルギー車両普及に対する補助金として国から85万円、さらに使用の本拠地として登録する場所によっては自治体からの補助金(東京都で最大60万円)も加わるうえに重量税の免税措置など税制面でのメリットもある(原稿執筆時点)。だから実質的な価格感としてはもう少し控えめとなるのは購入検討に入る前に知っておきたい大切なポイントである。
そんなアリアのパッケージングはミディアムサイズのSUV。パワートレインは2タイプのバッテリー容量(66kWhと91kWh)×2タイプの駆動方式(前輪駆動と4WD)で合計4タイプから選択でき、4WDが用意されていることもリーフとの大きな違いと言える。

まず顧客へのデリバリーがはじまったのは「B6」と呼ばれる66kWhバッテリーの2WDモデルで、今回の試乗車もこれだ。モーター出力は160kWで、一充電の走行距離はカタログスペックで470km。これなら、一般的な週末の遠出くらいなら外出先で充電しなくても済む航続距離といえるのではないだろうか。
とはいえ、さすがに泊りを伴う旅行や帰省では外部の急速充電器に頼る状況も生じることだろう。その際はバッテリー残量ゼロの状態(一般的にはそこまで減ってから充電するのはあり得ない)から充電をはじめ、現在最も容量の大きな90kWタイプの急速充電器で約45分、多く普及している50kW充電器だと約65分で満充電となる。ただし、急速充電器は30分充電したら連続使用せず次の人に譲るのが一般的なマナー。そう考えると、筆者のように安心感を得るためにバッテリー残量を気にする(余裕を得るため満充電に近づけておきたい)のであれば複数回の充電が必要な移動では200kmほど走ったら充電するサイクルが目安になるかと思う。


自宅で充電する場合は、6kWの普通充電器なら約12時間で満充電。200Vの電源から充電ケーブルを接続するのであれば、約25.5時間が必要となる(いずれも「空」の状態からの時間なので日常の充電はそこまでかからない)。
アリアはリーフ同様に、エンジン車をラインナップしないEV専用設計のボディを持つ。パッケージングはエンジンの搭載を考えないメリットを上手に活用したもので、クルマに詳しい人であればガソリン車とは違うことが理解できるのではないだろうか。それは具体的にいえば真横から見たときのボンネットの前後長の短さ。車体の全長に対して、ボンネットが短く、そのぶんだけ室内スペースが広く確保されていることが一目瞭然だ。
電気自動車のメリットを最大限生かし室内空間を広くしている

たとえば、日産を代表するミドルクラスSUVの「エクストレイル」とパッケージングを比べると、アリアは全長が95mm短いが室内長では70mm長い。全長は短くしたけど室内はひとクラス上のゆとりをもたらす、エンジンのないEVならではの理想的な空間設計になっているというわけである。
もちろん、実際に室内はかなりゆったりしている。もっともメリットを感じられるのは後席の膝回りが広いことで、このゆとりは誇張なしに大型セダン級。床に対して着座位置が低めなこともあり、前へ足を投げ出し気味にソファーに座るような感覚だ。とうぜん、後席シートもリクライニング調整がおこなえる。




でも、EV専用設計のメリットはそれだけではない。前席の足元も開放的なのだ。具体的には床の前方の左右間が開けた珍しい設計により、センターコンソールはあるけれど左右の足元がフラットにつながった不思議な感覚に、これまでなかった斬新さがある。
そのうえで、乗り込むと同時に魅力を感じたのは、室内のリラックスできる雰囲気。“モダンリビング感”がいい感じなのだ。
たとえば空調スイッチは、インパネを左右に繋げる木目調パネルの中に埋めこまれた静電タッチ式でアイデアも存在感のなさも斬新。とにかく目立たずスッキリとしている。そんな工夫もあってインパネはスイッチの数か少なく、徹底してシンプルなのが好印象。まるでリビングルームのようにくつろげる空間なのがいい。
古い話で恐縮だが、日産はかつて2003年デビューの初代「ティアナ」で“モダンリビング”としてシンプルで明るく上質なインテリアを提案し、当時としては画期的かつ共感できるセンスだった。アリアのインテリアはそれを正常進化させたに違いない……というのはおそらく考えすぎだが、なかなか寛げるインテリアだ。
「ハロー ニッサン」の呼びかけで操作できるインターフェイス。Amazon Alexaも搭載


もうひとつ、インテリアで面白いのは細部のこだわり。アリアはフロントシールド(フロントグリルに相当するもの)など外観に組子細工のような飾りを入れて「日本らしい伝統的なテイスト」としているが、それがドアトリム、フロントウインドウ上部にあるカメラ類のカバー、そして運転席と助手席間の足元(なんと発光して障子のように見える!)などインテリアにも随所に盛り込まれているのである。とにかく凝っている。
おそらく、これはオーナーの感性によって好みが分かれるだろう。しかし筆者として「神は細部に宿る」として好意的に受け止められたし、伝統ながら新しさを感じる。
新しさといえば、コックピットインターフェイスはメーターとタッチ操作が可能なセンターディスプレイを12.3インチの大型としているのに加え、センターディスプレイは表面が湾曲しているのが新しい。加えて、「ハロー ニッサン」と呼び掛けてナビやオーディオの音声操作ができるボイスコントロール機能、さらには家庭用スマートスピーカーとしておなじみの「Amazon Alexa」も組み込まれ、音声でのやり取りで移動中のインターネットの活用が広がるのも先進的だ。クルマのなかからスマート家電化し自宅のエアコンの操作だって可能だ。
室内の静けさは特筆すべきポイント

走りはどうか。結論から言えば、滑らかさが自慢で、とても心地の良いものだ。それは、静粛性にこだわりとにかく静かな室内とドライバーの感性に寄り添う自然な加速間の相乗効果に他ならない。
EVのなかには、アクセルを踏んだ瞬間に鋭く反応してグググッと加速する味付けや、とにかく力強く加速する仕立てとしたモデルもある。でも、アリア「B6」のパワートレインはそうではなかった。“刺激”や“過剰”といった性能は持たず、ひたすら滑らかに加速するのが心地いい。とはいえEVならではのアクセル操作に対する反応が素直な加速感はしっかりと持ち合わせているから、多くのドライバーは「エンジン車よりもいい」と感じるのではないだろうか。これぞ、モーターの「鋭さ」ではなく心地よさを余すところなく引き出した加速感といっていい。運転していて幸せな気分になってくる。
ただし、加速感がナチュラルゆえにグググッという鮮烈な加速感こそないものの、加速自体はかなり力強く、高速道路の合流などでアクセルを踏み込んだ時などは「気が付けば結構な速度」という感覚。いっぽうで後席に乗っているとドライバーとして感じるのとは違い「かなり速いな」という印象だった。
ただし、そんなフィーリングはFFモデルのセッティングかもしれない。スペックを見ると今回試乗した「B6」FFモデルのモーター出力が160kWに対し、同じバッテリーでも4WDモデルは約1.5倍となる250kW、さらに大容量バッテリー「B9」の4WDモデルでは290kWにもなる。「上限200km/hでアウトバーン(速度無制限区間があるドイツの高速道路)では180km/h巡行も視野に入れて開発した」というそれらは、抜群の加速性能を誇ることになりそうだ。感覚的としては「2WDモデルはターボエンジン搭載の“速いスカイライン”、4WDモデルは“速さ自慢のスカイラインGT-R”」といったキャラクター分けと考えると、理解しやすいかもしれない。
乗っていて気になったのは、路面の凹凸を受けてクルマが細かく上下動することでフラットライド感が失われるシーンがあったこと。これは大容量バッテリーの搭載により重量が重いEVにありがちな現象でアリア特有のものではない(なかにはもっと気になるクルマもある)が、開発者によると「次のステップとして対策を進めている」とのことなので、今後登場するモデルでは緩和されていくことだろう。