新車試乗レポート
更新日:2022.03.16 / 掲載日:2022.01.24
【試乗レポート スズキ アルト】お手ごろ価格でも中身しっかり。みんなのアルトが新しくなった

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
スズキ乗用車のエントリーである「アルト」がフルモデルチェンジし、9代目に進化した。今やアルトは、スズキ乗用車の中では、ジムニーに継ぐ古株だ。そのアルトの本質を理解するために、1979年デビューの初代のことを少し振り返りたい。初代アルトは、5代目となる軽セダン「フロンテ」の廉価版として投入。最大のポイントは中古車の手ごろさを持つ新車ということ。そのため、3ドアの軽商用車として仕立てられた。ターゲットは、主婦層でありながら、商用車としたのは税制面の優遇と主な利用が1人~2人であることを考慮した結果である。さらに標準の快適装備はヒーターくらい。必要な装備は、ユーザーがディーラーオプションで選ぶという仕組みとした。それが脅威の低価格、47万円を可能とした。これはフロンテのエントリー車よりも、約10万円も安く、爆発的なヒットを生む。その後、フロンテとアルトは融合され、乗用車仕様が主力となるが、手頃で便利なクルマとして、歩み続けてきたことに変わりはない。
令和時代のアルトは94万3800円から

最新型アルトの価格は、94.38万円~137.94万円。約40年前のデビュー時から2倍~3倍の価格となった。しかし、最新型には、今の自動車に必要とされる装備をしっかりと備えている。先進の安全運転支援機能「スズキセーフティサポート」を始め、CVT、6つのエアバック、アイドリングストップ、キーレスエントリー、セキュリティアラームシステム、乗用車仕様の後席などを全車標準化。さらに言えば、エアコン、パワステ、ABS、EPS、フロントパワーウィンドウ、パワードアロックなども付く。これらは100万円切りベース「A」から全部備えているのだから、アルトの本質が失われていないことが分かる。まさにアルトは、自動車の今を映す鏡なのだ。




大幅刷新されたアルトを象徴するのが、スタイリングだ。CMでの「アルトちゃん」の愛称でも分かるように、シャープなフォルムで尖ったデザインの先代とは異なり、可愛さが重視したものに仕上げられている。ただ先代の眼鏡マスクの面影を残すことで、アルトらしさも演出している。全体の雰囲気は、ちょと「ゆるキャラ」的でもあるが、ふっくらさせたことで、クルマが大きくなったように見える。実際には、全長、全幅、ホイールベースは同じ。異なるのは、50mmアップの全高だ。同時に室内高も+45mmの1260mmに拡大され、ヘッドクリアランスにもゆとりが生まれている。ボディカラーは、2トーンはポピュラーなホワイトルーフ仕様に改められたが、ターコイズブルーやレッドなどのポップな色からブラウンやベージュなどのシックな色も用意。もちろん、シンプルなブラック、ホワイト、シルバーも選べる。エントリー「L」だけで選択可能な「ホワイト」以外は、全てパールかメタリックなので、全体的な質感向上にも色の貢献があるといえるだろう。
道具としての機能性に徹した質実剛健なインテリア

その一方で、インテリアは、まさに質実剛健。飾り気もなく、機能的な作りに徹している。シートも全車共通だが、ジーンズ調の表皮でカジュアル感を演出。毎日の相棒を示すユニークな演出といえよう。なんと最上位のハイブリッドX以外では、後席用ヘッドレストがオプションとなるが、そこもアルトらしい。1個9130円なので、後席に人を乗せる人は必ずご購入を……。ラゲッジスペースはコンパクトだが、可倒式後席を倒せば、広い荷室に早変わり。ただ多くのシーンでは、後席がそのまま荷室として使われるのだろう。それが最もアクセス性の良いラゲッジスペースとなるからだ。



燃費だけでなく税金面でも有利なマイルドハイブリッド

エンジンは、エネチャージ付きとマイルドハイブリッドの2タイプで、全車が自然吸気仕様となる。燃費消費率(WLTC)は、エネチャージ仕様が25.2km/L(FF)と23.5km/L(4WD)に対して、マイルドハイブリッドが27.7km/L(FF)と25.7(4WD)に。さらに後者は、環境性能割が非課税となり、エコカー減税(重量税)がFFだと免税に。4WDでも50%減税となるので、お得感も増すのもポイントだ。
使いやすさは新型でも健在。マイルドハイブリッドは街中で走らせたときの静かさが印象的

実際、乗車してみると、頭上空間と肩回りが広がったことで、前席に大人二人が乗車しても圧迫感はない。さらに窓枠の位置も下げたことで開放感も増している。細かい点だと、腕回りがぶつかりやすい部分はドアトリムの形状も工夫されている。これらの工夫がワゴンに比べて車室空間が不利となるセダンの弱点を抑えている。後席も足元が広いため、おもったよりゆったり。ドア開口部もしっかりとってあるので、これならば、お年寄りでも乗降しやすいだろう。スズキによると、アルトで二人乗りをするユーザーの多くは、運転席と助手席側後席のふたつを利用するという。対角線上に収まれば、運転席と後席のスペースを最大限使えるというわけだ。
その走りも堅実なもの。街中では、しっかりと流れに乗ってスムーズに走る。また静かさを重視したマイルドハイブリッド仕様のエンジンに加え、車内の静粛性対策も組み合わさって、加速時以外は比較的静か。発進加速ではモーターアシストもあり、大人二人が乗っても、不足はない性能を見せる。走行中は、重心位置がワゴンよりも低いので、如何なる状況でも車体の姿勢変化が少なく、運転はし易い。全体的な走行音に関しても、流石に高速走行時では気になるだろうが、街乗り中心なら不満はないレベルに仕上げている。乗り心地も、日常走行での快適性を重視したソフトな足回りの恩恵で快適だ。何よりも後席の乗り心地に、拘ったチューニングを行っているので、乗り心地の良さは前席より後席が上なほど。この辺も、市場の声に耳を傾け、後席利用の多いユーザーの意見を取り入れた成果なのだ。だからといってヤワ過ぎないので、走りの担当者はいろいろ検討を重ねて、味付けを行ってきたのだろう。さすが主婦、ビジネスマン、老人まで幅広い人たちを支える足車だ。唯一気になったのが、発進時と交差点右左折時の動きだ。スムーズな発進を目指したためだろうがクルマが前に出ようとする力が強すぎる傾向があるので、状況によりブレーキリリースに丁寧さが求められるだろう。また電動パワステのアシストも、もう少し自然な方が良いと思う。ただ運転しにくいということではないので、今後の磨き上げで、より良くなるだろう。
乗れば納得。オプション装備にもお買い得感あり!

試乗車は、最上位の「ハイブリッドX」。それでも価格は、約126万円。それでLEDライト、リモコン格納式ドアミラー、14インチアルミホイール、キーレスドアスイッチ、プッシュ式スタートボタン、運転席と助手席のシートヒーター、フルオートエアコン、UVカットガラス、後部のスモークガラスまで備える。欲しいのは、フロアマットとオーディオくらいなもの。しかも約11万円の追加の全方位モニター付きディスプレイオーディオが装備可能で、「android Auto」と「Apple CarPlay」に対応。しかも、ヘッドアップディスプレイやUSBソケット、オーディオ用ステアリングスイッチなども付いてくる。11万円アップでも全然高くない。軽200万円時代でも、お手ごろアルトは健在。ニーズが途切れないのも納得だ。
スズキ アルト ハイブリッドX(CVT)
■全長×全幅×全高:3395×1475×1525mm
■ホイールベース:2460mm
■車両重量:710kg
■エンジン:直3DOHC+モーター
■総排気量:657cc
■エンジン最高出力:49ps/6500rpm
■エンジン最大トルク:5.9kgm/5000rpm
■モーター最高出力:2.6ps/1500rpm
■モーター最大トルク:4.1kgm/100rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前・後:ディスク/ドラム
■タイヤ前後:155/65R14
■新車価格:94万3800円-137万9400円(全グレード)