新車試乗レポート
更新日:2021.12.23 / 掲載日:2021.12.16
【試乗レポート ダイハツ ロッキー】新ハイブリッドでも200万切り!これぞ良品廉価の真髄だ

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
ダイハツの小さな巨人となっているのが、コンパクトSUVロッキーだ。販売が本格化した2020年の年間登録車台数のデータを振り返ると、姉妹車であるトヨタ ライズの合算した台数は、1位のヤリス越えとなり、事実上、日本で最も売れた登録車なのだ。その人気の秘密は、手頃さと機能の高さにある。手頃さとは、まず価格だ。軽でも200万円に迫る時代に、小さなSUVとはいえ、160万円台からの価格と5ナンバーに拘った扱いやすさ。それでいてサイズを超える車室内の広さも備える。だからSUV初心者やダウンサイザーも選びやすい。しかも1Lエンジンはターボなので、走りも軽快だった。しかも、これだけSUVが増えていても、Aセグメントクラスは、事実上ライバルが不在。近い存在のBセグメントもあるが、こちらは3ナンバー車も多いため、サイズアップ傾向にあり、同時に価格も上昇傾向にある。まさに一人勝ちの状況なのである。
マイナーチェンジの目玉はモーターを主役にした新ハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」

そんなロッキー/ライズに、新パワーユニットとなるハイブリッド車と自然吸気エンジン車が加わった。目玉となるハイブリッドは、新開発の「e-SMART HYBRID」を搭載。これはエンジンで発電を行い、電気モーターで走行するシリーズハイブリッド方式を採用する。つまり、エンジンと電気モーターは独立しているため、EVライクな走りが楽しめる。この仕組みは、日産の「e-POWER」と同じだ。エンジンが駆動と切り離されているので、最も効率よくエンジンによる発電が行えるのがメリット。そのため、アクセル操作とエンジンが連動しないので、音対策は重要だ。そこでダイハツは、効率に優れる新開発1.2Lエンジン自体でも静かさを重視し、さらにエンジン音と走行音の車内への侵入を抑える遮音材や制振材を追加などの対策を講じている。ハイブリッド化の影響でキャビンスペースが縮小することもあるが、「e-SMART HYBRID」では、コンパクトなシステムが構築され、駆動用バッテリーも後席下に収めているので、影響はほぼゼロ。唯一、FFの特徴である広いラゲッジ下の収納スペースが、12Vバッテリーが移設されているため、縮小される程度だ。性能は、モーター出力が最高出力106ps、最大トルク170Nmを発揮。性能面では、1.0Lターボを上回る実力を持つ。
よりSUVを身近にする自然吸気エンジン車は、ハイブリッド車に使われる新開発1.2L3気筒DOHCエンジンの仕様違いとなるので、基本的なスペックは同等だが、出力などは異なる。最高出力87ps、最大トルク113Nmと控えめ。ただし開発時には数値ではなく、使った印象を重視したという。街乗り重視の仕様のため、FFのみを用意。走りの良さに定評のある1.0Lターボも継続されるが、こちらは4WD専用車となる。燃費消費率(WLTCモード)は、ハイブリッド車が28.0km/L、自然吸気エンジン車が20.7km/L、4WDターボが17.4km/Lとなる。
今回の改良では、パワーユニット追加が中心。基本的な内外装に変更はないが、ハイブリッド車専用アクセントは加えられている。ロッキーの場合、専用グリルが与えられる。これはシステムの冷却効率を高めるのも狙い。一方、ライズは、グリル形状の違いから、冷却を増す必要がないそう。そのため、差別化のポイントは、他のトヨタ車同様にブルーのトヨタエンブレムとハイブリッドバッチくらいとなっている。また車両重量増を加味し、アルミホイールが5穴化。さらにデザインも専用仕様に改められている。
ハイブリッドの強みは静かで力強い走り。自然吸気エンジン車も想像以上にいい印象

試乗はロッキーのみだが、味付けや中身はライズと全く同じだ。ハイブリッド車は、専用グリルが与えられ、ロッキーの持つ力強い印象を受け継ぎつつ、スポーティなテイストが高まった。スタートボタンONでもクルマが音を発生しないことで、ハイブリッド車であることを意識させる。ビジュアル的な違いは、専用のメーターグラフィックの存在が大きい。シフトレバーもグリップタイプでマニュアルモードが備わらない程度だ。
しかし、走り始めるとハイブリッド車の特徴をしっかりと感じ取れる。まず低中速での静かな走りで、アクセル操作にリニアに反応し、スムーズな走りを見せる。音対策の効果もあり、静粛性も高い。強くアクセルを踏み込むと、エンジン回転数が高まるが、そのエンジン音も3気筒らしい雑味を感じさせないものなので、ノイズ感も薄い。実は、発電効率を優先させているため、小まめにエンジンを始動させるが、音の小さなエンジンなので、あまり気にならない。音楽を楽しんでいれば、かき消されてしまうシーンもあるだろう。電動車らしい専用アイテムとして「スマートペダル」も搭載。これはアクセルオフで回生による減速を行うので、アクセル操作だけで加減速ができるのが特徴。減速量の調整機構はないので、スマートペダルによるブレーキングは弱めだが、街中での加減速の多い幹線道路の走行時の恩恵は大きい。何よりもアクセルオフで減速が始まるので、ブレーキを使うシーンでもワンテンポ早く減速が始まるのは安全にも繋がる。積極的に活用して欲しい機能だ。これだけの力強い加速と静粛性の高さ。この走りの質感ならば、4WDが不要なら、ハイブリッド車が、もっともおススメといえる。
今回良い意味で期待を裏切ってくれたのが、お買い得仕様として登場した自然吸気エンジン車だ。スペックも特筆すべきものではないが、街中での試乗では、不足ない加速を見せてくれた。加速時にはどうしても回転数は高まるが、ハイブリッド車と基本を共有する静かで滑らかな回転フィールを持つエンジンなので、そこまでノイジーとは思わない。むしろエンジン車好きの人は、雑味のない音と適度なパワーのエンジンを1t切りの車重で使い切ることの面白さを感じるだろう。
ボディ剛性や静粛性もアップ。小型車として軽自動車にはないゆとりがさらに高まった

ハイブリッド車と自然吸気エンジン車の試乗を通じて、以前に試乗したターボと少し印象が異なると感じたが、それは今回の改良で、ボディ剛性やパワステなどの磨き上げも行ったため。当初、小型車という強みを強調する意味でも、クロスオーバーらしい軽快な走りを演出していたが、よりSUVブームが高まる状況を見据え、市場の声に耳を貸し、しっかりとした乗り味が感じられるようにシフトした。以前のセッティングも、走りとしては面白かったが、運転操作や走りにしっかり感が出たことで、SUVを運転しているというドライバーの感覚は高まった。また先進安全運転支援機能「スマートアシスト」も、タフトより採用する新ステレオカメラにアップデートすることで、性能と機能を向上させている。さらにハイブリッド車と最上級グレード「プレミアムG」には、電動パーキングブレーキも追加された。ここまでの機能充実化を紹介すると、気になるお値段。なんとハイブリッド車のエントリーである「X HEV」ならば、税別で200万円を切るという衝撃価格。某通販番組と異なり、この値段は、いつでも同じ。ターボ4WDの同グレードと同等の価格を提案しているのは、SUVや電動車のデビューを考える人にとっては、なんとも魅力的だ。驚くべきは、この値段でも「ハイブリッド車をもっと安くしたい」とダイハツの技術者が話していたこと。オールラインメーカーとは異なる高みを目指すダイハツの姿勢には脱帽だ。
ロッキー プレミアムG HEV(電気式CVT)
- ■全長×全幅×全高:3995×1695×1620mm
- ■ホイールベース:2525mm
- ■車両重量:1070kg
- ■エンジン:直3DOHC+モーター
- ■総排気量:1196cc
- ■モーター最高出力:106ps/4372-6329rpm
- ■モーター最大トルク:17.3kgm/0-4372rpm
- ■ブレーキ前/後:Vディスク/ドラム
- ■タイヤ前後:195/60R17
- ■新車価格:166万7000円-234万7000円(ロッキー全グレード)