新車試乗レポート
更新日:2022.04.01 / 掲載日:2021.11.18
【試乗レポート BMW4シリーズグランクーペ 】美しく、使いやすく、走りも磨かれた

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
このところはSUVシリーズ「X」系のボリュームが増えているドイツのプレミアムブランドBMW。とはいえ、ラインナップにおいて柱となるのは「3シリーズ」「5シリーズ」そして「7シリーズ」といった“奇数”で表されるセダン系モデルだ。
しかし同社のバリエーション展開はXやセダン系だけにとどまらない。「2シリーズ」「4シリーズ」そして「8シリーズ」など偶数モデルがどんどん増えていることに気が付いている人も多いのではないだろうか。それらはセダンやSUVだけではフォローできないニーズを満たすための派生モデルである。
セダンとクーペをクロスオーバーさせたデザインコンシャスな1台

今回紹介する「4シリーズグランクーペ」もそんな1台。メカニズムの多くを3シリーズと共用しつつ、新しいスタイルを提案するモデルだ。
3シリーズから独立する形で登場した“4シリーズ”はクーペが基本である。中核となる「4シリーズクーペ」はいうなれば「3シリーズクーペ」の最新版。かつては3シリーズの中に納まっていた2ドアクーペが、2世代前から独立して独自の数字を得ているのだ。いっぽうで同じ4シリーズでも“グランクーペ”になるとボディが違う。2ドアではなく、リヤドアを備えた4ドアなのだ。
このところ、メルセデス・ベンツ「CLE」や「CLA」など従来のセダンの枠にとらわれないクーペスタイルセダンが流行っているが、グランクーペもまたその流れといえる。「クーペ風のセダン」とはいわず「4ドアクーペモデル」と呼ぶのがBMW流だ。
生粋のセダンである3シリーズとの違いはひと目でわかる。ルーフからCピラー&リヤウインドウにかけてのラインが流麗で、普通のセダンとは異なるエレガントさがある。セダンでは満たせない、クーペならではのお洒落を楽しむクルマといえるだろう。この美しさこそが、グランクーペシリーズの真骨頂だ。
スタイルは単に流麗なだけでなく、プロポーションにワイド&ロー感があってスポーティ。3シリーズと比べると、多くの人はそう感じるのではないだろうか。実はその理由はしっかりある。3シリーズの全幅は1825mm、いっぽうで4シリーズグランクーペは1850mm。25mm幅広なのだ。たかが25mmと思うかもしれないけれど、されど25mm。そのわずかな違いが視覚に与える効果は数値以上に大きく、フェンダーの張り出し感などボディサイドの抑揚が強まったことも含め、3シリーズと比べるとワイドフォルムで安定感がありつつ躍動的な印象が強い。
ドアパネルとフラットになったドアノブ、そして「M440i」ではこれまで「M4」などMハイパフォーマンスモデルだけに採用されていたドアミラーを組み合わせるなど、従来のBMWの通常モデルとは異なる細部も興味深いところだ。現段階ではまだ断言できないが、それらは今後のBMWの新型車に採用拡大されていくのかもしれない。

クーペスタイルに隠された5ドアハッチバックの使いやすさ

実は、そんな4シリーズグランクーペはボディ形状にも3シリーズセダンとの明確な違いがある。3シリーズセダンは言うまでもなく純粋な4ドアセダンだが、4シリーズグランクーペはなんと、5ドアハッチバック。荷室にアクセスする際は、独立したトランクリッドではなく、トランクリッドがリヤウインドウと一体化した“テールゲート”を開くことになるのだ。すなわち、ライバルはアウディ「A5スポーツバック」。どちらもDセグメントセダンをベースとしたクーペ派生の5ドアハッチバックという共通項がある。

4シリーズグランクーペの面白いところは、スタイルをアピールポイントとするモデルながら、セダンに対して実用性でも優位にあることだろう。470Lという荷室容量自体は3シリーズセダンと同様(細かく言えばセダンは480Lなのでわずかに狭い)だが、リヤウインドウまで開くことで荷室開口部の広さはおおよそセダンの2倍。この尋常ではない広さの開口部のおかげで、おおきな荷物の出し入れがスムーズにおこなえる。後席を倒せば自転車なども積みやすく、荷室の使い勝手の良さはセダンとワゴンの中間的なポジションといっていい。後席を倒した際の床面はほぼフラットだ。
リヤシートが狭いんじゃないか?
実用面の話をすれば、ルーフ後部が低いデザインなので後席の居住性を心配する人も少なくないだろう。そう思ってリヤシートに座って念入りにチェックしてみたのだが、結論として不安に感じる必要はないと断言できる。実際に後席に座ってみると、頭上空間に大きなゆとりはないものの、とはいえ狭くて困ったりとか閉塞感を覚えるようなレベルではない。普通に大人が座って快適に移動できる水準だ。もちろん、ひざまわりのスペースもこのクラスのセダンの相場並みに確保されているから安心していい。ファミリーカーとして購入しても、後席に乗る家族から不満が出ることはないだろう。






直6エンジンの艶やかさはBMWならでは

日本仕様として用意されているパワートレインは2タイプ。ベーシックモデルとなる「420iグランクーペ」は184psを発生する排気量2.0Lの4気筒ターボエンジンを搭載し、後輪駆動とする。いっぽう上級版の「M440i xDriveグランクーペ」は排気量3.0Lの直列6気筒ターボエンジンを搭載し、387psという大きなパワーを4輪駆動で路面へ伝える。トヨタ「スープラ」に例えれば、前者はベーシックタイプの「SZ」、後者はハイパフォーマンス仕様の「RZ」に搭載するのと同じエンジンだ。すなわち、「420i」であっても不足のないパワーというわけだ。
対して今回試乗した「M440i」ともなれば、どこまでも湧き出してくるような圧倒的なパワー感に包まれる。アクセルを踏み込むと切れ味鋭いナイフのようにシャープなレスポンス、そしてさく裂するような高回転のパンチ力と太く尖った排気音が楽しすぎる。いっぽうでジワリとアクセルを踏むと、繊細なエンジンの息づかいが味わい深い。絹のように繊細で滑らかな質感から「シルキーシックス」と呼ばれたBMWの直列6気筒エンジンの艶っぽさは相変わらずだ。
洗練されたライドフィーリングに驚かされる

しばらくM440iを運転して「あれ?」と思ったのは、乗り味の上質さ。同グレードはパフォーマンス志向の味付けだけに運動能力の高さは言うまでもないが、乗り味が洗練されているのだ。日常的な走行シーンにおいて路面の凹凸を感じさせないフラットな乗り味とか、段差を乗り越えた後のいなし方の巧みさとか、車線変更時の車体の挙動の落ち着きなど、あれだけ完成度が高いと思える3シリーズと比べても、さらに上のレベルだと感じられた。
その理由は、車体そのもの。何を隠そう4シリーズグランクーペの車体は3シリーズセダンに対し、サスペンションの取り付けやアンダーフレームが強化されていて、大開口部による車体剛性低下を補う意味もあって車体後部にはブレースも追加されている。さらにはボンネットフードだけでなくエンジンを支える部品とその周辺にもアルミを使って軽量化することで、車体重量軽減と前後バランスのさらなる最適化もおこなった車体設計なのだ。
3シリーズセダンに対してスタイルが美しいのが最大の特徴だ。しかしそれだけでなく、実用的で、走りも磨かれている。4シリーズグランクーペはそんなクルマなのだ。
BMW M440i xDrive グランクーペ (8速AT)
- ■全長×全幅×全高:4785×1850×1450mm
- ■ホイールベース:2855mm
- ■車両重量:1840kg
- ■エンジン:直6DOHCターボ
- ■総排気量:2997cc
- ■最高出力:387ps/5800rpm
- ■最大トルク:51.0kgm/1800-5000rpm
- ■ブレーキ前後:Vディスク
- ■タイヤ前後:245/40R19・255/40R19
- ■新車価格:620万円-1005万円(全グレード)