新車試乗レポート
更新日:2021.12.22 / 掲載日:2021.10.11
【試乗レポート トヨタ 新型アクア】ファミリー向けコンパクトの大本命

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
デビューから約10年ぶりのフルモデルチェンジで2代目に進化したトヨタ「アクア」。実際に触れてまず感じたのは、トヨタのコンパクトカーラインナップにおける立ち位置の変化だ。
同門のヤリス(旧名ヴィッツ)と立ち位置が逆になった

トヨタのコンパクトハッチバックにおいて、ハイブリッドモデルはアクアのほかにも「ヤリス」のハイブリッド仕様がある。そのヤリスは昨年フルモデルチェンジしたばかりで、その前身は「ヴィッツ」だ(フルモデルチェンジで車名が変わった)。
ヴィッツのハイブリッドと先代アクアを比べると、実用性に優れるのはヴィッツ。荷室も後席もアクアより広く、使い勝手に優れてファミリーユースに向いていた。
いっぽう先代アクアがヴィッツハイブリッドにくらべて勝っていたのは燃費。そのためパッケージングは空力性能を重視で、空気抵抗低減のための低い天井が後席を狭くしていたのだ。もちろん、それはトヨタが意図してやっていたこと。ハイブリッド専用のコンパクトカーとして、世界最高峰の燃費を実現するために実用性を二の次とした燃費スペシャルだったのである。だから燃費だけは誰にも負けなかった。
いっぽうで現行世代はまず、ヤリスは車体サイズがヴィッツ時代に比べてコンパクトになった。キャビンも小さく、後席は狭くなっているのだ。キャビン後方の絞り込みが増したのは、空気抵抗を低減するためである。
対照的なのがアクアの変化。ホイールベースが延長されたこともあり、後席の足元スペース(前後席間距離)が先代に比べて20mm拡大。居住性が高まっている。ちなみに車体自体はヤリスのほうが大きく、全長で110mm長い。
そんなパッケージの変化の結果、新型アクアとヤリスハイブリッドを比べると、後席居住性ではアクアに軍配。前後席間距離がヤリスに対して50mm広いのに加えて、開放感も勝っている。
いっぽうで燃費性能に関してはアクアに対してヤリスハイブリッドがリードするなど、こちらも先代と立ち位置が入れ替わっている。
先代はアクアが燃費重視で実用性はヴィッツだったのが、新型になって燃費はヤリスで実用性はアクアと、立場が逆になってしまったのだ。そこをしっかり押さえておかないと、新型アクアのポジションを見誤ることになるだろう。ラゲッジスペースもアクアのほうが広い。
燃費だけでなく走りの実力も大きく進化。4WDモデルも存在

新型アクアのメカニズムは、車体構造もパワートレインも新設計となった。車体はヤリスと基本設計を共用し、1.5Lエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムは「THSⅡ」という考え方自体は先代から継承しているが、エンジンもハイブリッド関連のメカも最新設計。運転してみると、従来とは大きな違いがふたつあった。
ひとつは、モーター走行範囲の拡大だ。停止からアクセルを強く踏み込まずに走り始める際、従来は比較的早くエンジンが始動したが、新型はなかなかエンジンがかからずにモーターが粘る。エンジンを掛けないからガソリンを消費せず、すなわち燃費が良くなるというからくりだ。
さらに、高速走行時の巡行も、状況によっては100km/hを超える速度域でもエンジンを止めてモーターだけで走ることにも驚いた。先代ではこんなことなかったからだ。さらに低い速度域でエンジンを止めて走ることがあるのは言うまでもないだろう。新型の燃費は最も優れた仕様のWLTCモードで35.8km/Lだが、そこには高効率化したエンジンとともにさらに進化したハイブリッドシステムの貢献があるということが理解できる。
もうひとつの大きな違いはアクセル操作に対するパワートレインの反応の良さ。先代は燃費最優先のために、アクセルを踏んでもリニアに加速しない(反応が遅れる感覚がある)というウィークポイントがあった。しかし新型ではそれが解消され、気持ちよく運転できるようになったのは朗報だ。
燃費も進化したけど、クルマとしての運転感覚も進化した。そんな印象を受ける。
ハイブリッドシステムといえば、トヨタ初となるハイポーラ型のニッケル水素バッテリーの搭載もトピックだ(「B」以外に採用)。このバッテリーは従来と同じサイズで電力量が増やせるメリットがあり、モーターアシストの強化や減速エネルギー回収能力の向上により実用域における燃費向上にも寄与。実際に走ってリチウムイオンバッテリーとの違いを感じるのは難しいが、注目ポイントのひとつであることは間違いない。
メカニズムとしては、アクア初の4WDが用意されたのもニュースだ。後輪はモーターで駆動するタイプとしている。これで雪国のユーザーにもオススメできる車種となったが、4WDを選ぶと荷室の床が浅くなることだけは知っておいたほうがいいかもしれない。ここは実車で確認しておくべきポイントだ。
「使える」自動パーキング機能を筆頭にヤリスより進んでいる運転支援技術

インテリアで興味深いのも、ヤリスとの違いだ。ヤリスは機械式シフトレバーをセンターコンソールに置き、パーキングブレーキはサイドレバー式だ。いっぽうでアクアは電子式シフトレバーをインパネにレイアウトし、パーキングブレーキは足踏み式としている。そのおかげでセンターコンソールを“小物置き場”として有効に使えるのがうれしい。またシフトレバーはインターフェイスが最新となり、シフト脇にポジションが表示されるなど使いやすくなっているのも見逃せない。
最新機能の充実も、実はヤリスより進んでいる。たとえば高速道路でクルマが自ら速度を調整するACC(アダプティブクルーズコントロール)は、ヤリスでも車速0キロまでの渋滞対応とするものの、完全停止の保持までは自動でやってくれない。しかしアクアは電子シフトを組み合わせた(完全停止時はポジションが自動でPになる)ことで、停止保持までおこなう一段と高度な仕掛けになっているのだ。また、駐車位置を設定(その作業自体も超簡単)するだけでアクセル&ハンドル操作だけでなく、ブレーキとシフトチェンジまで自動でやってくれる(つまりドライバーは状況監視以外にやることがない)自動パーキング機能も秀逸だ。動作もキビキビとしていて、これならお世辞抜きで積極的に使う気になれる。
走りの進化はあきらか。ファミリーカーとして使うならヤリスよりもアクア

走りは、直進安定性が増してロングドライブでも疲れにくくなった。いっぽう峠道などではハンドルの細かい修正がかなり減ったところに進化を実感できた。先だって説明した加速感と合わせ、10年前とは違う今どきのトヨタらしく、走る・曲がる・止まるが磨き上げられていることを感じられる。
トヨタのハイブリッドカーとしてはじめて採用されたアクセルオフ時に回生ブレーキを効かせて減速度が強まる仕掛け(作動する/しないは選ぶ走行モードで切り替わる)は、滑らかな作動が好印象。完全停止まではおこなわず、違和感なく使うことができる。筆者としては常に作動させてもいいと思えた。
さらに、「Z」グレードのFFモデルだけはフロントサスペンションに「スウィングバルブ式」という凝ったショックアブソーバーを採用している。これは路面の凹凸を吸収するのが得意で、これまではレクサスの上級モデルだけに使われていたもの。その効果はしっかりとあり、しっとりした乗り味は他の仕様より明らかに上で、快適性を望むならこのグレードがイチオシだ。
ファミリーカーとして使うためにトヨタ車でハイブリッドのコンパクトハッチバックが欲しい。先代からキャラを大きく変えた新型アクアは、まさにそんな人のためのクルマだということが理解できた。
トヨタアクア Z(電気式CVT)
- ■全長×全幅×全高:4050×1695×1485mm
- ■ホイールベース:2600mm
- ■車両重量:1130kg
- ■エンジン:直3DOHC+モーター
- ■総排気量:1490cc
- ■エンジン最高出力:91ps/5500rpm
- ■エンジン最大トルク:12.2kgm/3800-4800rpm
- ■モーター最高出力:80ps
- ■モーター最大トルク:14.4kgm
- ■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
- ■ブレーキ前・後:ディスク/ドラム
- ■タイヤ前後:185/65R15
■新車価格:198万円-259万8000円(全グレード)
執筆者プロフィール:工藤貴宏(くどう たかひろ)
学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。