新車試乗レポート
更新日:2022.04.04 / 掲載日:2021.09.22
【試乗レポート ホンダ シビック】走りのDNAはそのままに、すべてをイマドキにアップデート

文●岡本幸一郎 写真●ユニット・コンパス
筆者は1968年生まれだがクルマに早熟だったので、初代の頃からシビックのことは明確に認識していた。トヨタと日産の二強だった時代に、ホンダを象徴するモデルとして小柄ながらやけに存在感を発揮していたものだ。
その後はコンセプトが変わったり、日本で販売されなくなったり、タイプRばかりが注目されるようになったりもしたが、気がつけばはや11代目。日本向けはセダンがなく、クーペのようにリアがスラントしたハッチバックのみとされ、アクの強さが特徴だった従来型とは一転してスッキリとしたルックスとなった。
プラットフォームやパワートレインなどキャリーオーバーしつつ大幅に改良を加えたものとなり、基本的なメカニズムは踏襲しているが、走りは少なからず変わっていたことを、のちほどお伝えしたい。
見晴らしのよい視界

シートに収まると、まず見晴らしのよさを実感する。ダッシュが低く、死角が小さく、ピラーを後方に下げるなどしたことで、開発関係者が「ノイズをなくす」と表現するとおり何も気になるものもない。低く水平なベルトラインにより360°にわたって良好な視界が得られている。
水平基調のインテリアは、エアコンの吹き出し口を奥に配したインパネのデザインも目を引く。オーディオやゲームにヒントを得たアイデアだろうが、クルマでやるとなかなか斬新で見た目にも印象深い。
上級のEXグレードには10.2インチのフルグラフィックメーターが標準装備されるほか、HMI関連も「直感操作・瞬間認知」を謳うとおり、わかりやすく操作しやすい。一時期のホンダ車がわかりにくかったのとは大違いだ。なお、新型は車両価格が高くなったように感じられるのは、Honda CONNECTに対応したカーナビが標準装備とされたためであり、実質的にはそれほどでもないことをお伝えしておこう。
ホイールベースの延長により前後席の距離が35mm拡大したことで、後席の居住性が向上しているのも、座ってみると明らか。拡大されたラゲッジスペースもクラストップレベルの452リットルの容量を実現している。運転の心地よさと使い勝手のよさの両面で、新型シビックならではのパッケージを作りあげた旨をアナウンスしているとおりだ。
一体感のあるフットワーク

従来型も走りの実力はなかなかのものだと感じていたが、新型はさらにあらゆるものが上向いている。試乗会の開催された八ヶ岳周辺には、ところどころ路面が荒れているが、ほどよいRのコーナーが連なるワインディングロードがある。都内からアクセスするにはちょっと遠いにもかかわらず、関係者はあえてこの場を選んだ理由が、走ってみてわかった。足まわりの仕上がりのよさが、このコースを走るとよくわかる。
ひきしまったなかにもしなやかさのある足まわりは、フラットな姿勢を保ちながら路面をしっかり捉える感覚がある。段差や突起を乗り越えた際のインパクトハーシュネスも抑えられていて、タイヤの発する衝撃音が原因で乗り心地が悪く感じることもない。
ハンドリングもまさしく意のまま。デュアルピニオン式の電動パワステも効いて、操舵に対してピタッと正確に向きを変え、それにあわせて応答遅れなくクルマがついてくる。これほど一体感のある走りを実現したとなれば、それなりに足まわりを固めたに違いないと思うところだが、乗り心地も硬くなく快適性は十分に保たれていることにも感心する。それは運転をかわってもらい後席に座ってみても同じ。予想を超える乗り心地の仕上がりだ。
コーナリングではリアの踏ん張りが効いていて、俊敏な回頭性をなんら不安に感じることなく楽しめる。やはりワイドトレット化とともに、235サイズというこのクラスとしては太めのタイヤを履いたことが効いているようだ。
よりリニアで力強い走りに

エンジンフィールも少なからず変わった。基本的にはキャリーオーバーだが、クランクシャフト剛性を上げ、ターボを新世代の応答のよいものとし、吸気のルートをよりスムーズになるよう見直すという、大別して3つの改善が図られているが、その効果は小さくない。
従来型は過給がオーバーシュート気味のきらいがあったところ、その印象がずいぶん薄れた。これはターボラグによりアクセルを踏みすぎてしまっていたところ、新型は踏んだ瞬間にトルクが出はじめるので踏みすぎることがないからだ。
CVTも踏襲するが大幅に見直したというだけあって、印象が一変してリニアになり、あとで遅れて加速がついてくる感覚がかなり払拭されている。同じ部品でも制御でこれほど変えられたとは恐れ入るほどだ。
スペック的には出力は不変で、最大トルクがMTは変わらないが、CVTは20Nm引き上げられている。20Nmも違えば力強さが明らかに感じられて、アクセルワークに対するクルマの動きにもそれが表れる。
気になるのは、従来型のMTでも見受けられた回転落ちの遅さだ。これは残っている燃圧を次につなげるというエミッションとの兼ね合いで空燃比のコントロールのためやむをえずやっているそうだが、従来型に比べるとよくなっているものの、MTを楽しむにはもっと素早く落ちてくれたほうがありがたいのは否めない。あとは、今回のルートについては、2速と3速のギア比がもう少し近いほうが、よりリズミカルに走れたように思う。
静粛性も高く、走りの質感もなかなかのもの。全体の印象としては上々だ。エンジンはそのうち新しいものが加わることがすでに明らかにされているが、ひとまずフットワークについては世界のCセグの暫定ベストといっても過言ではないほどのものを感じた。これでターゲットとする若い世代を少しでも振り向かせることができるとよいのだが、とにかくクルマ自体の完成度がかなり高いことは念を押しておこう。












執筆者プロフィール:岡本幸一郎(おかもと こういちろう)

1968年、富山県生まれ。幼少期に早くもクルマに目覚め、学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの企画制作や自動車専門誌の編集に携わったのち1998年にフリーランスへ。軽自動車から高級輸入車まで幅広くニューモデルの情報を網羅し、近年はWEBメディアを中心に寄稿。ドライビングスクール等のインストラクターも務める。日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
ホンダ シビック EX(6速MT)
■全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm
■ホイールベース:2735mm
■車両重量:1340kg
■エンジン:直4DOHCターボ
■総排気量:1496cc
■最高出力:182ps/6000rpm
■最大トルク:24.5kgm/1700-4500rpm
■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
■ブレーキ前・後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前後:235/40R18
■新車価格:319万円-353万9800円(全グレード)