新車試乗レポート
更新日:2020.10.19 / 掲載日:2020.10.19

【試乗レポート ホンダ e】電気自動車である前に、クルマとして魅力的

ホンダ ホンダ e

ホンダ ホンダ e

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 「ASIMOがクルマになった!?」と思うほど、愛嬌たっぷりの「ホンダ e」。その原点は、2017年9月のフランクフルトモーターショーで世界初公開された「アーバンEVコンセプト」にある。2台を見比べてみると、アーバンEVコンセプトは、初代シビックを彷彿させるデザインではあったが、特徴的な丸目ライト、ブラック仕上げのマスクと給電口、コクピット全体に広がるディスプレイ、デジタルドアミラーなどコアとなる部分は、しっかりと固まっていたことが分かる。それが約1年半の歳月を経て、2019年2月に「ホンダ e」へと発展し、世界初公開された。東京モーターショーで目にした私も、実用的にシフトされた部分もあったものの、未来感たっぷりで、「本当に、このまま市販されるの?」と思ったことが懐かしい。

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コンセプトカー「Honda urban EV concept」(写真:ホンダ)

コンセプトカー「Honda urban EV concept」(写真:ホンダ)

ペットのような愛着を感じさせるデザイン

ボディカラーは全7色。写真のルナシルバーメタリックは、日本仕様のため独自に設定された

ボディカラーは全7色。写真のルナシルバーメタリックは、日本仕様のため独自に設定された

 ホンダ eはそのキュートなデザインに相応しく、とてもコンパクトなボディを持つ。全長3895mm×全幅1750mm×全高1510mmのサイズは、フィットよりも全長が100mmも短い。車幅のために3ナンバー仕様とはなるが、かなり取りまわしの良いサイズなのだ。

 愛嬌満点のスタイルが卵のようにツルンとして映るのは、デザインのせいだけではない。クルマには欠かせない「アレ」がないため。そう、ドアミラー。ホンダ eでは、全車にデジタルドアミラーを標準化。カメラは、フロントドアの突起に内蔵されている。まるでひよこの短い翼のようにも見えて、どこか微笑ましい。内蔵式ドアハンドルやサッシュレスドアなど余計なものを排除したデザインと愛嬌あるマスクがクルマっぽさを薄めているのだろう。この姿なら、ナイト2000のようにAIが搭載され、自分で考えて動いてくれれば、女子のハートを奪い、ホンダ eを飼いたいって思わせるに違いない。どこかペット的なのだ。

まるでリビングのような温かみのあるインテリア

外出先での充電時間を有効利用すべくWiFiを用意。映像や音楽を楽しめるよう画質、音質も高品質とした

外出先での充電時間を有効利用すべくWiFiを用意。映像や音楽を楽しめるよう画質、音質も高品質とした

 残念ながら、そこまでホンダ eは進んでいないものの、コクピットは十分、近未来的だ。ダッシュボードは5枚のディスプレイによって覆われており、左右にデジタルドアミラーの映像を投影。運転席前には液晶メーター、中央に収まる2枚は、インフォメーションディスプレイとなる。これだけモニターに囲まれると、テスラのように無機質になりそうだが、ウッドやベージュ内装など温かみのある意匠とすることでリビングのような落ち着きを感じさせる。コネクテッド機能の車内Wi-Fiやプレミアムサウンドシステムまで完備。小さいながらも、移動するプライベートスペースにも使えるのだ。アイデア次第で色々な使い方が出来るはずだ。個人的には、景色の良い場所でお気に入りの音楽や映画なんて楽しんでみたくなる。

  • 自宅にいるような心地よさを目指したというインテリア

    自宅にいるような心地よさを目指したというインテリア

  • リヤシートはリビングのソファをイメージした形と色合い

    リヤシートはリビングのソファをイメージした形と色合い

  • リヤシートをたたむと想像以上に広いスペースが生まれる

    リヤシートをたたむと想像以上に広いスペースが生まれる

近距離での利用を中心に考えたバッテリー容量

航続距離は、高性能仕様である「アドバンス」で259km(WTLCモード)

航続距離は、高性能仕様である「アドバンス」で259km(WTLCモード)

 しかし、世の関心事は、EV性能だろう。35.5kWhのリチウムイオン電池を搭載し、高性能仕様の「アドバンス」の航続距離は259km(WTLCモード)となる。それしか走れないのと思うかもしれないが、街乗りや通勤なら、1日の移動は数十キロに収まる。毎日、帰宅後に充電しておけば、電欠の心配はない。もちろん、CHAdeMO式急速充電器に対応しているので、遠出の際などは、急速充電を活用すれば良い。それでも不安という人は、そもそもEVに不向きだと思う。PHEVを選んだ方が幸せになれる。

 ただその点さえ許容できれば、ホンダ eはEVの面白さを存分に味合わせてくれる。バッテリーを守る堅牢なボディとEVレイアウトが生む低重心を、スポーティな走りのために最大限活用。「アドバンス」では、最高出力154馬力、最大トルク32.1kgmを発揮。約1.5tのボディを楽々と加速させてくれる。

まるで小さなスポーツカーのように運転が楽しい

「アドバンス」グレードには高性能タイヤを採用するなど、走りにもこだわっている

「アドバンス」グレードには高性能タイヤを採用するなど、走りにもこだわっている

 意外だったのが、純粋に運転を楽しめたこと。そのスタイルも特徴的なデジタルコクピットを意識することなく、まるで小さなスポーツカーを操っている気分に浸れたのだ。これはクルマとドライバーの一体感が強いということだろう。もちろん、街中では軽快な走りを、高速道路では鋭い加速を味合わせてくれた。きっとワインディングに持ち込んでも面白いだろう。目立たない部分だが、「アドバンス」には、その走りの良さを支えるべく、ミシュラン製スポーツタイヤが奢られる。電費を稼ぐことよりも、走る楽しさを優先させているのだ。なんともホンダらしい心配りだ。

EVに「個性」を与えたホンダのコンセプトに共感

環境にやさしい乗り物としてだけでなく、ホンダ eにはクルマとしての魅力がある

環境にやさしい乗り物としてだけでなく、ホンダ eにはクルマとしての魅力がある

 そんなホンダ eの価格は、セカンドカーに買ってみようという気軽なものではなく、正直、高価だ。リーフなら、ロングレンジの「e+」が選べる。しかし、充電効率に優れた高性能バッテリーを始め、エンタメ、先進安全装備、コネクテッド、街中での扱いやすさ、スポーティな走りなど、その内容は極めて欲張りだ。ただ航続距離を割り切っているだけ。それが小さな実用EVを成立させているのだ。

 まだ日本では、EVを選ぶことのハードルは決して低くない。もし安いEVとして、ホンダ eが送り出せても、ヒットさせることは難しいだろう。それは製造コストからみても非現実的だし、経済性でいえば、ハイブリッドやPHEVがライバルとして立ちはだかるからだ。あるホンダの技術者は、「今はEVを育てていくことが大切」と語った。プリウスやインサイトなどのハイブリッドの先駆者たちが通った道を、EVも辿らなくてはいけない。しかも、バッテリー供給や価格での課題は、より大きい。その中で、最大限楽しさを感じられるEVを送り出そうとしたホンダは、正しいと思う。欧州でも、小型EVのニーズが高いとはいえ、ホンダ eが選ばれるには、やはり個性が求められる。無理せず焦らず、ファンに育ててもらう。二人三脚でなければ、EVは育たない。ホンダ eは、まだその一歩を踏み出したに過ぎないのだから。

ホンダ ホンダ e

■全長×全幅×全高:3895×1750×1510mm
■ホイールベース:2530mm
■トレッド前/後:1510/1505mm
■車両重量:1540kg
■バッテリー容量:35.5kWh
■走行可能距離(WLTCモード):259km
■モーター最高出力:154ps/3497-10000rpm
■モーター最大トルク:32.1kgm/0-2000rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションバー
■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前・後:205/45ZR17・225/45ZR17

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グーネットマガジン編集部

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