新車試乗レポート
更新日:2020.07.29 / 掲載日:2020.07.28
【試乗レポート トヨタ ヤリスクロス】プロトタイプの先行試乗でわかった注目モデルの実力

トヨタ ヤリスクロス
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
昨年はRAV4にライズ、つい最近はハリアーを発売するなどクロスオーバーSUVのラインアップを着々と増やしているトヨタから、またも新たなモデルが登場した。
ヤリスクロスという車名からベースがヤリスであることは容易に想像がつくが、アクアX-URBANやホンダ・フィットCROSSTARなどのようにハッチバックの最低地上高を高めて化粧直ししたお手軽の派生モデルではなく、エクステリアは完全にオリジナル。SUVらしい逞しいフォルムながら都会的に洗練された巧妙なバランスをもったデザインとなっている。
サイズ感はライズとC-HRの中間で日常で扱いやすい大きさ

ヤリスクロスのボディサイズは、全長4180mm×全幅1765mm×全高1560mm
ボディサイズは全長4180mm×全幅1765mm×全高1560mm。ライバルと目される日産キックスやホンダ・ヴェゼルよりも少し小さく、同門のライズとC-HRの中間。コンパクトSUVの人気が高まるにつれて細分化してきたようにも思える。もっとも、ハッチバックのヤリスは、モデルチェンジのたびに大型化してきたことを省みて原点回帰を図り、先代よりも小型化したという経緯がある。ヤリスファミリーとして、コンパクトなことに価値があるということなのだろう。
デザインは、凝縮された力強いプロポーションと無駄を削ぎ落とした美しさ、洗練を追求した
パワーバックドアシステムを新開発。従来のトヨタ車に比べ2倍のスピードで開閉。ハンズフリー操作や予約ロックスイッチも搭載

「Z」グレードには18インチのアルミホイールが装着されていた
TNGAによって生まれたGA-Bプラットフォームは、走りのポテンシャルが高いことをヤリスで実証済みだが、車両重量が100kg程度は重くなっていること、重心高が60mm前後は高くなっていることなどがどう影響するのかが見物。今回はプロトタイプということでサーキット試乗となったので運動性能もじっくりとみることができた。
ハイブリッドのFFモデルは抜群のドライバビリティを発揮

ヤリスと基本骨格を共有しながらも、センター部に縦方向のラインを意識させることで力強さを表現した
パワートレーンは1.5L NAエンジン+ダイレクトCVTと1.5L NAエンジン+モーターのハイブリッドの2種類でそれぞれ4WDが用意される。
まずはハイブリッドのFFから試乗したが、ヤリスで初出となった新世代ユニットはドライバビリティが抜群に良く、ヤリスクロスでも思いどおりに走ってくれる。アクセルの踏み込みに対しての反応が素早く、ドライバーが望んだトルクが素直に立ち上がってくるからじつに頼もしいのだ。ダイナミックフォース・エンジンは熱効率の高さだけではなくレスポンスに優れ、また従来のニッケル水素(アクアやヴィッツ・ハイブリッドなど)から換装されたリチウムイオンバッテリーは出力が高まり電気モーターの反応もいい。エンジンと電気の双方が進化しているのだ。
シート表皮はダークブラウン(合成皮革+ツィードファブリック)
リヤシートは4対2対4の3分割可倒式(トヨタコンパクトSUV初)で、4人乗車時でも長尺物が載せられる
リヤシートを倒すことなくゴルフバックが2個搭載可能。シートを倒すと荷室はフラットな空間になる
6対4分割アジャスタブルデッキボードを採用。荷室床面高さを2段階で調節できる
ハイブリッドの4WDは日常領域では良好なものの、高負荷時に重さを感じる

ハイブリッドはリダクション機構付きのTHSII(1.5L直3)、ガソリンは1.5L直3+ダイレクトシフトCVT。いずれもFFおよび4WDを用意
4WDでも基本的に同じ雰囲気だが、4WD化とそれに伴うダブルウィッシュボーン化で約100kg重くなるので絶対的な動力性能は不利。常用域のドライバビリティに優れているので、街中や郊外路程度ならば頼もしく走ってくれるだろうが、高速道路で登りが続く区間をフル乗車でいくときなどは、ややもどかしく感じるかもしれない。ヤリスのハイブリッドFFに比べたら約200kg増なのだから、さすがの新世代ハイブリッドも荷が重いだろう。
エンジン車はアクセルを踏み込んだ際の活発さが印象的

ハイブリッドのFF車は、アクセルの踏み込みに対しての反応が素早く、ドライバーが望んだトルクが素直に立ち上がってくるからじつに頼もしい
エンジン車は電気モーターのアシストがないのでトルク感は薄れるものの、ハイブリッド用エンジンよりも高回転志向のため、アクセルを強く踏み込んでいくと望外なほど活発で気持ちがいい。発進用ギアをもつダイレクトCVTは低速域の効率向上とレシオガバレッジ(変速比幅)の拡大が目的となっているが、その名の通りダイレクトなフィーリングも特徴。ダイナミックフォース・エンジンのレスポンスの良さも相まって、走り出しからCVT特有の間延びした感覚がなく、ちょっと急いだ加速から全開のちょっと手前まではATなどのようにステップシフト制御される。キックダウンスイッチに達する本当の全開では最高出力発生回転数に張り付いて性能をフルに引き出すが、3気筒としてはサウンドもまずまずなので不快な感じはしない。
しなやかな足さばきで、快適な乗り心地と安定感を両立

最新の予防安全機能「Toyota Safety Sense」を搭載。プリクラッシュセーフティ、レーントレーシングアシストなどを採用
そもそもGA-Bプラットフォームは、エンジンなどの重量物をなるべく低く、なるべく中央よりに配置するとともに、補記類のレイアウトでも重量配分を左右対称に近づけるなどこだわり抜いている。そういった基本の資質が優れていれば、サスペンションを硬くしなくても然るべき操縦安定性が確保できるのが理屈。 ヤリスクロスはそれを証明するように、しなやかな足さばきで快適な乗り心地ながら、安定感も抜群だった。
ロールはそれなりにするが、ジワジワとゆっくり進行するので不安感はなく、サーキットでも楽しめてしまうほど。とくにステアリング系を含めたフロント周りの剛性感が高く、操舵に対する反応が正確で、舵が深くなっていっても効きがいいのには驚いた。一般的なFF車だったらだらしなくアンダーステアが出てしまうような場面でもグイグイと曲がってくれるのだ。上手に操ればテールがスーッと流れ始めて楽しめるほど。やりすぎれば横滑り防止装置が作動して安全ではあるのだが、後部が重いハイブリッドE-Fourはやや動きが早いので安心のためには、もう少し手前のタイミングから制御が働き始めてもいいかもしれない。また、ウエット路面でのグリップ感はあまり高くなく、燃費志向のタイヤであることをうかがわせた。
快適さとスポーティさが絶妙にバランスしており、静粛性も含め走りの質が高い

ヤリスクロスの発売は2020年9月を予定している
ヤリスクロスはGA-Bプラットフォームのポテンシャルを存分にいかして高いシャシー性能を誇っていた。背の高さや重さなどはほとんど意識させられず、むしろSUVだからこそメリットが際立つのだが、それは開発当初からヤリスクロスの構想があったからだ。快適さとスポーティさが絶妙にバランスし、静粛性も含めて走りの質が高い。欧州プレミアムに匹敵するほどの実力の持ち主なのだ。