新車試乗レポート
更新日:2026.10.15 / 掲載日:2026.10.15

【日産 ムラーノ(Z53)】12年ぶりのムラーノは価格に見合った満足感があった【工藤貴宏】

 日米間の貿易不均衡を是正する目的で、日本メーカーがアメリカ市場向けのクルマを日本で販売し始めました。今回は日産が約12年ぶりに日本市場で発売する4代目(Z53型)のムラーノがどのようなモデルなのか、自動車ライターの工藤貴宏氏がレポートします。

文と写真●工藤貴宏

日産ムラーノは日本生まれアメリカ育ち

初代モデルはそもそもアメリカ市場向けとして開発されたムラーノ。日本は約12年ぶりの復活

 突然ですが「カリフォルニアロール」と呼ばれるお寿司をご存じでしょうか。

 巻き寿司の一種で、アボカドやカニカマなどトラディショナルな日本のお寿司には使わない素材も使い、海苔の外側へ酢飯を巻く“裏巻き”というスタイルが特徴。調味料にはマヨネーズも使ったりする、変化球のお寿司です。

 その発祥は、かつてロサンゼルスの寿司職人がアメリカ人に食べてもらおうと考案したもの。裏巻きにしているのは黒い食べ物(海苔)を嫌がる人でも大丈夫なようにというアイデアだそうです。「日本発祥だけど、日本とは違う独自の進化」をしたお寿司ですが、いまでは日本へ“逆輸入”され、日本の回転寿司などでも見かけるメニューになっているのはきっとご存じでしょう。

 というわけで日産が北米からの輸入車として国内販売することとなった「ムラーノ」に試乗したわけですが、その立ち位置をひとことでいえばカリフォルニアロール。日本車ながら、アメリカナイズされて独自の進化を遂げた帰国子女感をしっかりと感じられるのです。誤解を恐れずに言えば、それを魅力と感じられる人のためのクルマと言っていいでしょう。

日産 ムラーノ(Z53)の概要

日産 ムラーノ SV
全長×全幅×全高4900×1980×1725mm
ホイールベース2825mm
最低地上高1725mm
車両重量1945kg
パワートレイン2L直4ターボ+9速AT・AWD
グレード構成モノグレード
発売時期2026年6月受注開始

ボディサイズはランクル300とほぼ同等

日本導入モデルのボディカラーは、ターコイズブルー、スーパーブラック、プリズムホワイトの3色

試乗車両のスペック

グレード名SV(日本導入モデル)
エンジン型式・種類・総排気量・最高出力・最大トルクKR20DET・水冷直列4気筒DOHCターボ・排気量1997cc・180kW/5600rpm・352Nm/4400rpm
駆動方式4WD
サスペンション形式 前・後独立懸架式ストラット式・独立懸架式マルチリンク式
タイヤサイズ255/55 R20
価格796万4000円

 どこがアメリカンかといえば、まず”ミドルサイズSUV”ながら車体が大きいこと。全長4900mmで全幅は1980mmと日本ではかなりの大型。ただし、「ランドクルーザー300」は全長4985mm×全幅1980mmなのでそれよりは小さかったりして。なので日本の道をランクル300がたくさん走っていることを考えれば、“そこそこの覚悟”があれば大丈夫かもしれません。

 一般的に海外生産車でも、日本向けは日本の事情に合わせた仕様となるのが常識です。しかし、トランプ大統領の「日本はもっとアメリカで作ったクルマを買うべきだ」という鶴の一声から急遽決まった特例制度(日本の法規を満たしていなくても日本の公道を走れるという超法規的措置)により国内導入が決まったムラーノは、そんな常識の外。基本的に現地仕様のままなのですから。

取材車両は北米仕様でグレードは「プレミアム」。インテリアは12.3インチの統合型ディスプレイを水平に配置する

 だからハンドル位置は左で、ラジオの周波数は日本にあっていないし、日本で使える車載ナビも非搭載。正規輸入だけど車両に関しては並行輸入車の感覚だと思えばいいでしょう。日本導入仕様は、電動格納式ミラーも非装着なのだそうで。

 ただ、メーターは全面液晶で速度表示はマイルではなくキロになっているし、エアコンの温度表記も単位は華氏ではなく摂氏。車載ナビがなくても、スマホを接続してセンターディスプレイに表示すればまったく問題ありません(日本語で道案内をしてくれる)。そのあたりの利便性はかつての並行輸入車と全く違いますね。ちなみに使用ガソリンはレギュラーです。これはうれしい。

運転席と助手席は共にパワーシートでヒーター付き

 魅力はなんといっても、日産が(現時点では)日本で売っているSUVにはないサイズ感。運転席に座ると助手席との距離がびっくりするくらい遠く、アメリカンを実感します。これですよ、これ。もちろん後席だってゆったり。まさに「大きいことはいいことだ」なんていう言葉が似あいます。

後席は6対4の分割可倒式でセンターアームレストにカップホルダー付き

 実際の運転感覚はどうか。ランクル300よりも小さい……とは言うものの、やはり慣れが必要ですね。正直に言うと、ふだん全幅1890mmのSUVを転がしている筆者でも「大きいなあ」と思いながら運転していました。「慣れれば大丈夫」なんていうのはちょっと言いにくいというのが本音。

質感の高いテーラーフィット巻きステアリングを装備。シフト操作はスイッチタイプでパドルシフトも備わる

 その理由のひとつが左ハンドルであることも間違いないでしょう。筆者はかつて左ハンドル車を所有しているのである程度免疫はあるつもりですが、やはりこれだけワイドな全幅+左ハンドルは取り回しに気を遣います。ただ、それは駐車場や狭い道路だけで、いちど幹線道路に入ってしまえば全く問題なし。もちろん高速道路もです。

 加えると、車両全周囲を確認できるカメラが付いているので、それがなかった時代の大型車に比べると駐車や幅寄せもイージー。勘に頼る必要なく、しっかりカメラで状況を確認しながら“ギリギリまで攻められる”のは大型車のハードルを低くしててくれたと改めて実感します。かつてと違って、ETCの普及により左ハンドルでも高速道路の料金所は問題ないですしね。そう考えてみると、やっぱり慣れれば何とかなるか? 右折時やバス停に停車中のバスを追い越す際は神経を使いますが。

状況によって圧縮比が変化するハイテクエンジンを搭載

日産が独自開発した可変圧縮比技術により高い燃費性能と優れた加速性能を両立させた

 実は、そんなムラーノはクルマ好きとしても注目すべきポイントがあります。それはエンジン。可変圧縮(状況により圧縮比が変化する)という世界的にも珍しいエンジンをターボと組み合わせて搭載。狙いはパワー(低圧縮&高過給)と燃費(高圧縮&低過給)を両立するとですが、このユニットを日本で味わえるのはこのムラーノが唯一(エクストレイルには排気量1.5Lの可変圧縮エンジンを積むが残念ながら発電にしか使わないのでドライバビリティは味わえない)。だから貴重なのです。だから試乗がとても楽しみでした。

 というわけで待望の試乗となったそのエンジンの印象は、キーワードを並べるとすれば「高回転まで軽やか」「音がいい」そして「意外にフラットトルク」。最高出力は180kW(245PS)、最大トルクな352Nmと実力は十分だし約2トンの車両重量であっても俊足ですが、フラットトルクな分だけパンチ力は控えめな実用特性のユニットですね。刺激は少なめですが、高回転までシュン!と軽快に回る感じは、軽やかな音とともに爽快です。これはこれでアリ。

 アメリカ車らしく、ロングツーリングの快適性や疲れにくさはいうまでもないでしょう。おおらかな雰囲気でどこまでも走りたくなります。

左ハンドルの扱いにくさをフォローするために全車に360°セーフティアシストを標準装備

 そのうえで強調したいのは、ハンドリングの良さ(試乗車も日本導入仕様も「4×4-i」と呼ぶ4WDを搭載)。せっかくの試乗なのでワインディングロードへ踏み込んでみたのですが、これが驚き。とっても気持ちよく曲がるのです。まずハンドル操作に対する反応がよくて、スーッと曲がり始める。こんなに軽快でいいの?ってくらいに。そのうえ深く曲がり込むようなコーナーでも、感動するほどのライントレース性の良さ。まるで水を得た魚。まさかのハンドリングを語りたくなるSUVなのでした。

 そのうえ街中や高速ではやや突き上げ感を感じた乗り味も、峠道だと全く気にならなかったりして(21インチタイヤを履いていた試乗車に対して国内導入モデルは20インチタイヤとなるので印象は変わるかもしれない)。とにもかくにも、ムラーノはハンドリングを楽しめるドライバーズカーでした。

ムラーノは国土交通省が創設した米国製乗用車の認定制度を活用して日本市場に導入された

 よくよく考えてみると、日本でも販売した初代ムラーノは北米では「フェアレディZの雰囲気を持ったSUV」という売り出し方だったんですよね。だからデザインも走りもスポーティさ漲るキャラクターでした。

 あれから3度のフルモデルチェンジを経てひさびさに乗ったムラーノも、やっぱりスポーティな仕立て。DNAは脈々と受け継がれていたのでした。

気になるアフターサービスは日産ディーラーが対応

北米日産のスマーナ工場で生産された車両が輸入される

 ところで今回のムラーノ日本導入車両は左ハンドルだしナビやラジオも日本仕様への変更が施されていないので車両としては並行輸入車に近い仕立てですが、購入にあたって普通の並行輸入車と大きく異なるのがアフターサービス面。いつもの日産ディーラーでメンテナンスを受けられるし、部品供給だって心配はいらない。それが強みといっていいでしょう。

 日本販売価格は796万4000円。何とも円安が恨めしい状況ですが、それ相応の満足度が得られることは約束します。ちなみに今回の試乗車は「Platinum」グレードでしたが、日本導入モデルは「SV」グレード。タイヤが20インチとなるほか、シート表皮が合成レザーとなり、大開口のガラスルーフやBOSEオーディオが非装着になるなど装備面も若干異なります。

 ところでカリフォルニアロールはピュアな寿司好きには受け入れがたいかもしれませんが、食べてみると意外においしいですよね。そう思いません?

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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