新車試乗レポート
更新日:2026.09.25 / 掲載日:2026.09.25

買っとけロードスター【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

 発売11年目のロードスターがまたもや進化した。細かい説明は後で色々するが、結論としてはこれはもう買っとけとしか言いようがない。いやまあずっと買いのモデルではあったのだけれど、今回はちょっと完成度が高すぎる。

 さてそもそも何のためのモデルチェンジかと言えば、法令準拠のため。いわゆる「通過騒音規制」である。従来のロードスターだって全然うるさいクルマではない。メーカーは公式には言えないだろうから、筆者が代弁すると、要するにEV優遇の尻尾である。内燃機関に対する締め付けの残滓がまだ残っている。

「R51-03」は国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラムにおいて策定された国際基準。これまでフェーズ1(2016年10月)、フェーズ2(2020年9月)が導入されており、フェーズ3が2024年7月から順次適用されている(環境省の資料より抜粋)

 国連が定めたR51のフェーズ3規制では、1.5リッターのロードスターが属するPMR120kW/t以下のカテゴリーで、従来の70dbを68dbにしなければならない。これを例えば「70kgを68kgにする話」だと理解してはいけない。dbは対数なので、2dbのダウンでは、音のエネルギーを約37%消さなければならない。マツダのエンジニアは「ざっくり言えば、同じエンジンを2機分を1機に近づける様な話」だと言う。

 まあこの辺は詳細に説明しだすとキリがないのだけれど、エンジンはもちろん、タイヤも今までのノイズ音量ではアウトになる。だから11年振りに専用タイヤを開発し直した。幸いなことに11年分の技術進歩もあり、またタイヤメーカーもこの規制が来ることは承知だったので、ほとんど全ての性能を犠牲にせずに騒音規制をクリアできた。一方のエンジンは、外部騒音はそれは静かな方がいいかも知れないが、ドライバーにとっては重要な情報源。今エンジンがどういう負荷でどう稼働しているかを知るための手立てであり、また運転を楽しむための重要なスパイスでもある。

 なので、多くのグレードで、エンジン音を室内に導いて、ドライバーに聞こえるようにしている。そしてタイヤが変わったことに合わせて各部がリファインされた。言葉を選ばずに言えば、いじめをばねに大きな成長を遂げたのが今回のロードスターである。

マツダは規制クリアのための改善作業を商品力強化のきっかけとした。特別仕様車「PS」もそれを機に投入された

 さて、追加されたPSグレードだが、まず電動パワステの制御ロジックをやり直した。具体的に言えばセンター付近でのアシストを大胆にも止めて、ノンパワー状態に仕立てた。これによって直進安定性のナチュラル感が飛躍的に向上している。インプレ風に言えば中立が落ち着いた。だから前回のアップデートで追加されたアダプティブクルコンと合わせて、高速での移動が楽になっている。ひらひら感が魅力であるロードスターはワインディングでの身のこなしと引き換えに高速道路での移動は得意科目ではなかったのだがそれが改善された。

 直進だけではない。合わせてばねレートを上げ、ダンパーを緩めた。ばねとダンパーの機能配分がダンパー優勢だったものをばねと均等を狙って修正したのだ。このおかげで、切り始めに当てた舵に修正が要らなくなった。ばねが固くなった分、外側フロントが沈む運動が減り、そこで食われていたエネルギーが無い分、ヨーの立ち上げが早くなった。しかも早いだけでなくリニアになっている。そして旋回開始後も微修正が要らない。ここでも足が上下しない分、切ったことがヨーの調整にダイレクトに効いてくる。それに一定舵角以上でのアシストはむしろ増えており、舵を入れた時のステアリングの操作感はむしろ軽く感じる。

一部改良を受けたロードスターは、「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」の知見を取り入れつつ走行フィールをさらに洗練。レブリミット付近まで出力を絞らない制御やヒール&トゥアシスト制御を採用している

 難しいと思う人向けに言えば、より運転操作がシンプルでわかりやすくなった。正確になったと言い換えても良い。筆者は2025年8月にRFを買ったが、正直新型はだいぶ良くなっている。当初マツダの説明を聞いた時は、「ああ、少しスパルタンなロード仕様がでたのね」と思っていた。従来モデルでのスパルタン仕様と言えば、RSがミニサーキット用、NR-Aがサーキット用で、厳密な意味でのロード用モデルが存在しなかった。だからそういうモデルの追加だと思っていた。実際アシの仕立ての説明だけ聞くとそう聞こえるのだ。けれど乗ってみると全然そう言う雰囲気ではない。確かに目地の乗り越えなどでは多少の硬さがないわけではないが、ドライブ全体の中で、体がゆすられるようなダイレクトな突き上げはまったく感じない。事実上トレードオフ無しで、直進安定性とヨーコントロール性が向上している。

 ちなみに言えば、今回の改良で旋回限界そのものが向上しているわけではない。むしろ過渡特性が素直で使いやすくなったと言う方が正しい。ギンギンに尖らせるのではなく、全体をブラッシュアップしたと言える仕上がりにできている。マツダは、規制でやらなければならない対応をむしろチャンスと見て、規制対応と一緒に、従来より乗って楽しいクルマに仕立ててきた。悔しいが、1年前に筆者のクルマより明らかに良くなっている。

発売から11年目にして年間販売台数が右肩上がりであるND型。若者世代や女性ユーザーの比率が上がっていることも従来型とは異なる特徴

 さて、こういう地道な改善を続けてきたロードスターだが、2025年には、「初代NA登場直後の社会現象」以来35年振りに年間販売1万台を突破した。ちなみに現行NDの登場年の記録は8418台。つまり11年目のスポーツカーが登場時より売れている。ちなみに2020年以来の直近6年で20代のユーザーが約2倍に、20代の女性比率も増えている。社会全般で言えばスポーツカーといえばもうむしろ中高年男性の独壇場と言う状態が続いてきたが、ロードスターに関しては若年層の流入が起きている。かつてクラウンのユーザー平均年齢が毎年1歳ずつ上がって行くことでトヨタが必死になって若返りを図っていたことがあったが、どうやらロードスターはちゃんと世代の入れ替わりが起きている。

 NDのデビュー時には「もはやロードスターも300万円に達し、アフォーダブルなクルマではなくなった」とずいぶんと批判されたのを記憶しているが、今やこれだけ個性的で楽しいクルマが200万円台から買えるということ自体が、驚くべき事態になっている。11年の継続は明らかに価格感に大きく寄与している。

 次期モデル「NE」ロードスターの開発もようやくスタートしたと言うが、常識的に考えて、3年程度では出てこない。多分あと5年はかかるだろう。そして冒頭で述べた通り、国連をはじめあちこちの機関が、馬鹿馬鹿しい規制を押し付ける。そう考えると果たしてNEは価格的にも、そして重量的にも今のNDと真正面から戦うのは苦しくなりそうに思う。新型が出るのは当分先、そして厳しさを増す各種規制の中で、果たしてマツダが次世代もこういうクルマに仕立てられるかどうかが問われるところである。NDは多分ロードスター史上でも名車だったと言われることになるだろう。だからこそもう買っとけと筆者は言うのである。

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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